偽りの王女と真の王女

ありま氷炎

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第一章 使用人リーディア

03

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「今日は大変だったね」
「うん」

 昼食会がお開きとなり、第二王子を見送るとリーディアの夢見る時間は終わってしまった。エリアスの何か物言いたげな視線は気になったが、執事ボベクが未練を断ち切るように着替える時間ですと間に入ってきたので、男爵夫妻とエリアスに挨拶をすると部屋に戻った。

 この夢見る時間は一年に一度のご褒美と言い聞かせているが、終わるときは妙に物悲しくなり、リーディアは自分の気持ちを切り変える。
執事ボベクからも、エリアスが奥様を迎えるとこのような時もなくなるのだと聞かされているので、後何度楽しめるかかわらない。なれば、楽しむだけだと自分に言い聞かせ、着替えを済ませて化粧を落とした。髪も編み込みを全て解き、一つにまとめて布で包む。

「さて、夕食のお手伝いをしてくるわ。今日の昼食のお礼もしたいし」

 精一杯笑ったつもりなのにシアラが悲しそうにしていて、リーディアは慌てて手を振った。

「悲しまないで。私は十分楽しかったの。一年に一度、魔法をかけてもらっているみたいなの。魔法なんてみたことないけれども。シアラは私の魔法使いよ。ありがとう」
 
 折角の楽しい雰囲気を壊してはいけないと、彼女は元気いっぱいにそう言って、厨房の手伝いに向った。
 料理人に今日の食事のお礼を言って、どれが一番美味しかったか語る。すると喜んでくれて、リーディアも心が温かくなる。
 今日はいい「誕生日」だと改めて思い、料理人の指示にそって次々に野菜の下準備をしていった。それが終わると、次は応接間を花で飾ってくれた庭師にお礼を言おうと、庭に出る。
 使用人たちはリーディアのそんな姿を見て心癒され、同時にそんな彼女に何か渡そうとして渡せないへたれのエリアスを見守る。叶わぬとは知っていながらも、二人の身分違いの恋を使用人たちは応援していた。



「エリアス。昨日はちゃんと渡せた?」

 翌朝エリアスが騎士団の宿舎に姿を見えると、ヴィートは待っていたとばかり聞いてくる。
 結局、彼は折角リーディアのために買った「誕生日」の贈り物を渡すことができなかった。それはヴィートのせいだと、恨みをこめて彼を睨んだ。

「あーあ、渡せなかったんだ。だめだねぇ。本当」
「そのうち渡しますから。大体どうしてあなたが知っているのですか?」
「僕の情報網を甘く見ちゃいけないなあ」
「それであれば期待させてもらいます。リーディアの出生のことも」
「うん、まあ。頑張って見るよ」
 
 珍しく歯切れ悪くヴィートは答え、手を振るといなくなってしまった。その態度にエリアスは少しだけ疑問を持ったが、騎士団長に呼ばれていることを思い出して、すぐにその違和感を忘れてしまった。
 
「配属替えですか?」
「ああ、すまないな」

 騎士団長室に行くと、言われたのは配属替えの話だった。
一週間後に隣国から王女アレナが訪問することになっており、その警護にエアリスが属する第一部隊が当たっていた。しかし突然配属が第一部隊から第三部隊に配属替えになったのである。

「何か俺に落ち度でもあったのですか?」
「いや、そうではないのだ。……お前に直接殿下も言えなかったかもしれないが、アレナ王女の警備に見栄えがいい騎士を置きたくないということなのだ」
「は?」
「……俺も気持ちはわかる。確かに自分の婚約者を警備する者の中にお前のような男前がいれば不安になるものだ」

 団長は何やら難しい顔をして語るが、エリアスにとっては信じがたい話で、間抜けな表情になっていた。

「まあ、そういうことで王女の滞在する三週間は第三部隊所属となる。皆、お前に同情的だから安心しろ」

 団長の用事はそれだけで、午後から第三部隊へ異動ということだった。
 一礼して部屋を出たが、彼にとってこの人事は腑に落ちなかった。
 第二王子ヴィートは、王子らしからぬ性格をしている。なので見栄えがよいという理由でエリアスが外されることは意外でもない。しかし、彼は友人には対して言葉を濁したり、今回の人事のように間接的に伝えることはない。
 彼の本来の性格なら、直接エリアスに伝え、先ほどのように誤魔化したりすることはない。

「……だがなぜだ?」

 おかしいとは思ってもその理由は思い浮かばない。
 そうであれば、直接聞くまでとエリアスはヴィートに面会を求めた。いつもであれば友人と認識されている彼へ面会許可が下りるのは早い。けれどもその日、彼が王子に会うことはなかった。

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