【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

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一章 愛している

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「ローズ。うん。可愛い。きっと大物が釣れるわ!」

 ローズの母リリーズは満足そうに何度も頷き、涙ぐみんでいる父ジムに抱きつく。

「すまないな。ローズ。お前が頼みの綱なんだ」

「わかってるわ。お父様」

 今日はローズ・ウィットリーの社交界デビューの夜だった。
 この日のために両親は家財の一部を売り、ローズのドレスを仕立てた。ウィットリー家は投資の失敗で傾きかけていた。使用人はすでにだいぶ減らしたが、それでも火の車だ。
 ジム自身が王宮の一介の官吏として働いているが、その給金の半分は借金返済に回っている。生活費などはリリーズとローズが内職してどうにか補っている状態だった。
 そんな一家にとって、ローズの社交界デビューはお金持ちを捕まえるいい機会であった。ローズ自身も両親の思いや、家の経済状況をわかっているので、気合をいれて夜会に臨んだ。

 そうして彼女はかなりの大物を釣り上げてしまう。
 それは次期公爵であるケヴィン・ハイゼランド。
 赤茶の髪に青い目の美丈夫だった。
 今年で二十になる次期ハイゼランド公爵は、噂はちらほらあるが婚約者はいない。祖父が前国王の叔父にあたり、王家と繋がりも深い。独身の令嬢にとっては理想の結婚相手であり、男爵令嬢のローズにとっては雲の上の人だった。けれども彼女が会場に足を踏み入れ、王にデビューの挨拶を済ませたところから、ケヴィンがローズに近づいてきた。
 情熱的な青い瞳に見つめられ、通常の令嬢なら舞い上がるところだが、ローズは内心冷や汗を掻いていた。できればこのまま会場から逃げて家に帰りたい。そんな思いでいっぱいだった。

 ローズには前世の記憶がある。
 前世の名はロイ・ヨーテ。
 ロイは女性であったが性別を偽って軍へ入隊、目の前で笑顔を浮かべるケヴィンそっくりの男ジェイスを殺してしまった。いや、殺すというのはローズ(ロイ)の例え方で、正確に言うならば死ぬ原因を作っただけだ。ロイは無鉄砲に敵地に入り、ジェイスがそれを助けようとして巻き込まれた。結局ロイだけでなく、彼も犬死することになった。
 ジェイスには以前から嫌われていたのに、死ぬまで迷惑をかけてしまった。申し訳ない。
 そのロイの気持ちがローズに強く残っていて、同じ顔のケヴィンを見ると罪悪感で胸が潰れそうになった。
 ケヴィンは独身令嬢の憧れ、理想の結婚相手。
 きっとローズに興味を持ったのは気まぐれにちがいない。
 自身の大物を釣り上げるという使命も忘れ、ローズはそう思い込み、次の約束もしないままケヴィンと別れた。
 もうケヴィンに話しかけられることはないはず、そう思っていたのはローズだけ。翌日には手紙が届き、両親は「よくやりました」「でかした!」と大喜び。王家に近い公爵家。領地も広大で、ケヴィンはその後継者。そんな彼とよもや結婚できれば、ウィットリー家は持ち直すに違いない。しかし、ローズは嫌だった。ジェイスそっくりのケヴィン。顔を見ただけで胸がつぶさそうな想いに駆られる相手、そんな人と一緒に暮らすなんてトンデモなかった。

(こうなれば、もっとお金になる、いい人を見つけるだけだわ!)
 
  ローズは大喜びの両親の横でそう決め拳を握った。

 ケヴィンの手紙に丁寧ながらも期待をさせないような他人行儀な返事をした後、ローズは他の手紙を読む。夜会や茶会の誘いがあり、ローズは厳選して参加の返事を書いた。
 本来ならば招待されたものには全て出たい。だが手持ちのドレスの問題で、参加回数は限られる。ローズは一週間後に夜会を一つ、茶会を二つ選び、ドレスの補正にかかった。
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