【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

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一章 愛している

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 ケヴィン・ハイゼランドはハイゼランド家の長男だ。小さい時から次期公爵と期待され、宰相補佐の父の元教育を施されていた。
 彼は子供の時からどこか大人びており神童と領地で呼ばれるほどだった。

「ケヴィン。あなたももう二十歳。その歳で婚約者がいないのはどうかしら?」
「母上。私が何処かの誰かのように婚約破棄をして、騒ぎ立てられたいですか?」
「ケヴィン!」

 王太子が派手な婚約破棄をして、婚約者を差し替えたのは一年前。新しい婚約者は見目が美しいだけで、王太子妃には相応しくないという話は有名だ。王位継承の順位に変更がでるのではないかと噂もされている。
 しかし王家の恥とも言える婚約破棄騒動は表では口に出すのにはいない。しかしケヴィンは口煩い母を黙らせる為、あえて口にしたのだ。

「私は婚約者をじっくり選定したいのですよ。今のところ寄ってくる令嬢はハイゼランドの名前と私の容姿に惹かれる、どうしようもない女性ばかり。私は母上のような立派な女性を迎えたいと思っているのですよ」

 ケヴィンが笑いかけると母のエリザベズは満更でもないと微笑み返した。

「そうね。あなたの言う通りだわ。ゆっくり選びなさい」
「ありがとうございます」

 彼は今日も母の催促を上手く交わすことができ、内心安堵していた。
 そうとは言っても、婚約者を探す振りをしなくてはならない。その為に彼は夜会へ出席し続ける。

(面倒な。どの女も化粧が濃くて同じに見える。あれは胸ではなく、どこからか持ってきた肉なんだろうな)

 近づきてくる令嬢たちに笑顔を浮かべつつ、彼はそんなことを考えていた。
 そうして王が現れ、一旦会場は静まり返った。令嬢たちもケヴィンではなく王へ目を向ける。挨拶が終わると再び、令嬢たちが口を開く。
 鳥の囀りではなく、ガマガエルの鳴き声に聞こえると内心思いつつ、相槌を打つ。この際に言質を取られないようにしなければならない。聞きたくない話を聞きながら、視線を会場へ彷徨わせると、彼は一人の令嬢に目を止めた。
 その令嬢は今夜社交界デビューしたようで、王の祝いの言葉を受け取るため並んでいた。金色の髪をふんわりを結い上げ、造花ではなく生花を飾りにしていた。ドレスは他の令嬢に比べ質素だが、彼女の可愛らしさは隠せない。むしろ何も飾らないところが素朴で、伝説の森の妖精のようだとケヴィンは思った。

「ケヴィン様?」
  
 自身を呼び止める令嬢の声など気にもならない。彼は一直線にその令嬢の元へ足を踏み出していた。

「私はケヴィン・ハイゼランドと申します。あなたの名前を教えていただけますか?」

 王への挨拶を終えた瞬間を狙って、ケヴィンはその令嬢ーーローズに話しかけた。他にも声をかけようとした輩にはさりげなく牽制の視線を送っておく。

「ハイゼランド様、お声をかけていただきありがとうございます。私はローズ・ウィットリーと申します」

 デビューの初々しさは見え隠れてしているが、ローズは腰をすこしかがめ、ドレスの裾が床につかないように気をつけながら綺麗に挨拶を返した。
 そうしてやっとケヴィンは彼女の顔をまじまじと見ることができた。
 遠目から見ても可愛らしい女性だったが、至近距離で見るとその愛らしさに愕然としてしまう。彼を見上げる大きな緑色の瞳は緊張のためか少し潤んでいて庇護欲を駆り立てる。頬はほんのり赤く染まっていて、半開きになった小さな唇は桃色で、ケヴィンはその唇に触れたくなる衝動を堪えた。

(唇はダメだが、手を触れるくらいはいいだろう)

「ウィットリー男爵令嬢。私と踊っていただけますか?」

 貴族年鑑は全て頭の中に入っている。
 ローズの父はウィットリー男爵だ。
 ケヴィンが手を差し出すと、おずおずとローズがその手を彼の手の平に乗せる。

(羽のように軽いな。そして柔らかない)

 ぎゅっと握りしめないように彼女の手を掴み、会場の中心へ彼女を導いた。

(踊りやすい。今日がデビューだとは信じられないな)

 ローズのダンスは軽やかでケヴィンのステップに遅れることなくついてきた。
 しかし照れているのか視線が合わさることは少ない。
 彼女の瞳は宝石のような緑色の瞳。それはケヴィンの過去の記憶を刺激する。

 光を受けてキラキラと輝く緑色の瞳。
 彼はいつも無鉄砲に前に出る。
 あの時も、俺に任せてろと飛び出した。
 失っていく目の輝き、謝罪の言葉、ケヴィンはそんな言葉を聞きたくなかった。
 馬鹿野郎と罵しると、彼は微笑みながら目を閉じた。

「ハイゼランド様」

 声をかけられ、ケヴィンは二曲目を踊り終えたことに気がつく。

「あの、踊ってくださりありがとうございます。両親が私を探しているようなのでこれで失礼いたします」

 緑色の瞳に影を落として、彼女は逃げるようにいなくなった。
 夜会で特定の相手を三曲以上踊ることは通常恋人同士もしくは婚約者、既婚者同士でしかありえない。
 なのでローズが三曲目前に彼の元から去るのは当然だった。

(また会いたいな)

 すでにローズの姿は他の参加者に紛れて探すことは困難だ。しかし身元はわかっている。再び令嬢に囲まれながら、ケヴィンは次の誘いについて考えていた。


 

 

 
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