【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

文字の大きさ
8 / 18
一章 愛している

1-8

しおりを挟む

「こんな高価なものを」

 夜会から数日後、ケヴィンがローズを訪ねてきた。
 彼は贈り物を持っており、それは美しい緑色の宝石のブローチだった。

「君の瞳に似た綺麗な宝石だったから、思わず買ってしまったんだ」
「ありがとうございます」

 返すという選択はなく、ローズは受け取る。

(美しい瞳。ジェイスには黴(カビ)のようなとか散々言われていたけど)

 ふと前世のことを思い出してローズは苦笑してしまった。

「何かおかしいことでも?」
「いえ、なんでもありません。その、この瞳を美しいと言ってくださりとても嬉しいです」
「君の瞳は……昔の知り合いに似ている。けれども全然違う」
「知り合い……。仲がよかったのですか?」
「いや。全然。ただ瞳のことで思い出しただけだ。ローズ。君の瞳はとても綺麗だ。あいつの瞳とは全く違う」

(あいつって、やっぱり私(ロイ)のことよね。ケヴィンはやっぱりジェイスなの?っていうか、さっきは似ているって言ったよね。でも違うって?混乱しているの?)

 ローズは黙ってケヴィンの言葉を聞く。
 彼が本当にジェイスの生まれ変わりか見極めるためだ。

(知ってもどうしようもないけれども。今となっては結婚は必須になってしまったもの)

 持参金として受け取ったお金は借金返済にすべて当ててしまった。今更破談になり、返すように言われても無理だ。でもおかげで父の給金でがすべて生活費が賄えるようになったため、ウィットリー家の使用人への給金にも色をつけれるようになった。内職の必要もなくなったのだが、ローズは続けていた。

「……その方は今どうされていますか?」

 彼女から踏み込むつもりはなかったが、確信を得るために敢えて聞く。
 ケヴィンは黙り込んで、天井を見上げた。

「死んだ。私の、俺の忠告を守らず死んだ。クソ馬鹿野郎だ」

 眉を顰め、忌々しそうに彼が答える。
 
(ジェイス。最後の時、彼はそう私(ロイ)を詰った)

 ふいに目頭が熱くなってローズは顔を伏せた。たまりそうな涙を分散させようと気を張る。

「ローズ?すまない。おかしなことを聞かせたしまった。えっと、忘れてくれ」

 ケヴィンが慌てふためていて、それが彼女の気持ちを逆に落ち着かせた。

(たとえ彼が何者でも私には選択肢がない。言わなければいい。彼は私(ローズ)の容姿が好きなのだから。彼女の理想のローズを演じていれば、大丈夫)

「ケヴィン様。そんなに慌てなくても。少し驚いただけです」
「そうか、悪かったな。驚かせてしまった。さあ、お茶でも。今日のお菓子は母のお勧めなんだ」
「はい」

 ケヴィンはブローチと一緒にお菓子を持参していた。
 それは林檎のパイでローズは薦められるまま、それを口にする。パイのサクサクとする歯応えに甘酸っぱい林檎のジャム。今の気持ちでなければもっと味を楽しめるのにと思いながらもローズはケヴィンの前で食べ続けた。




「ウィットリー嬢。あなたは本当にケヴィンと結婚してもいいんだな?」

 婚約して一ヶ月後、ハイゼランド家に招待されたローズは、ケヴィンの父ハイゼランド伯爵にそう問われる。
 反対されているという話は聞かなかったが、改めて意思を確認され、ローズはたじろぐ。
 けれども今更持参金などは返せない。
 なので彼女ははっきりと返事をした。

「はい。私には荷が勝ちすぎているご縁ですが、ケヴィン様を支えていきたいと思っております」

(言葉には嘘はない。彼の妻となり、支えてきたいという気持ちは本物だ)

「そうか。わかった。ケヴィン」

 伯爵はローズから視線を外して、隣に座る彼の息子に目を向ける。
 ケヴィンから緊張感が抜け、目の前に座る伯爵夫妻の雰囲気も優しくなったような気がして、ローズは戸惑う。

(どういうこと?意志確認は必要だったの?)

 彼女にはよくわからなかったが、この日から婚姻に向けて話が急に進み始めた。
 結婚式の日取りが決まり、招待客の名簿の作成。それから贈り物、ドレス。ローズは頻繁にハイゼランド家に呼ばれることになり、ケヴィンの両親と会話することも多くなる。あの意志確認の際は眼光が厳しくて極度の緊張に見舞われたが、それが嘘のように伯爵も夫人も彼女に優しかった。

「娘がいるって楽しいのね」
 
 特に夫人はローズに構いたがり、結婚式と披露宴のため、五着もドレスを作らされた。
 ケヴィンは彼の両親と仲を深めるローズにますます優しくなり、彼女は罪悪感で潰されそうな思いをしながら日々を過ごす。
 一緒に過ごす時間が増え、ケヴィンの言葉の端々、表情にジェイスの影が見える。
 彼を見ているのか、ジェイスを見ているのかわからなくなることもあり、ローズの気持ちはどんどん重くなる。
 そうして迎えた結婚式。
 幸せそうに微笑み、ケヴィンは彼女にキスを落とす。
 幾人かの女性との噂もあったケヴィン、ローズと出会ってからその噂もなくなった。けれども彼が女性の扱いに手慣れていることは知っている。ジェイスであった時も、女性の影がちらつくことは多くあった。
 けれどもこの日まで、彼が手の甲以外にローズにキスをすることはなかった。
 婚姻の際のキスは軽いもの、が定番であるのに、ケヴィンは彼女への思いを伝えようとするかのように長いキスをした。
 周りのものが動揺し、初心なものなどは顔を赤らめている。
 そういうローズも前世も今も経験がない。前世では軍で卑猥な話をたくさん聞いており、知識だけは豊富だったが。
 息ができなくなるくらいのキス。
 ふわふわと夢の中にいるような気持ちになった。

 唇が離れ、目を開けると目尻を下げ、本当に嬉しそうなケヴィンの顔が視界いっぱいで、ローズの気持ちは決まってしまった。

(もう隠すのはやめよう。もしかしたら、受けいれてくれるかもしれない)

 彼女は初夜である今夜、彼にすべてを打ち明けようと決心した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...