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一章 愛している
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しおりを挟む「こんな高価なものを」
夜会から数日後、ケヴィンがローズを訪ねてきた。
彼は贈り物を持っており、それは美しい緑色の宝石のブローチだった。
「君の瞳に似た綺麗な宝石だったから、思わず買ってしまったんだ」
「ありがとうございます」
返すという選択はなく、ローズは受け取る。
(美しい瞳。ジェイスには黴(カビ)のようなとか散々言われていたけど)
ふと前世のことを思い出してローズは苦笑してしまった。
「何かおかしいことでも?」
「いえ、なんでもありません。その、この瞳を美しいと言ってくださりとても嬉しいです」
「君の瞳は……昔の知り合いに似ている。けれども全然違う」
「知り合い……。仲がよかったのですか?」
「いや。全然。ただ瞳のことで思い出しただけだ。ローズ。君の瞳はとても綺麗だ。あいつの瞳とは全く違う」
(あいつって、やっぱり私(ロイ)のことよね。ケヴィンはやっぱりジェイスなの?っていうか、さっきは似ているって言ったよね。でも違うって?混乱しているの?)
ローズは黙ってケヴィンの言葉を聞く。
彼が本当にジェイスの生まれ変わりか見極めるためだ。
(知ってもどうしようもないけれども。今となっては結婚は必須になってしまったもの)
持参金として受け取ったお金は借金返済にすべて当ててしまった。今更破談になり、返すように言われても無理だ。でもおかげで父の給金でがすべて生活費が賄えるようになったため、ウィットリー家の使用人への給金にも色をつけれるようになった。内職の必要もなくなったのだが、ローズは続けていた。
「……その方は今どうされていますか?」
彼女から踏み込むつもりはなかったが、確信を得るために敢えて聞く。
ケヴィンは黙り込んで、天井を見上げた。
「死んだ。私の、俺の忠告を守らず死んだ。クソ馬鹿野郎だ」
眉を顰め、忌々しそうに彼が答える。
(ジェイス。最後の時、彼はそう私(ロイ)を詰った)
ふいに目頭が熱くなってローズは顔を伏せた。たまりそうな涙を分散させようと気を張る。
「ローズ?すまない。おかしなことを聞かせたしまった。えっと、忘れてくれ」
ケヴィンが慌てふためていて、それが彼女の気持ちを逆に落ち着かせた。
(たとえ彼が何者でも私には選択肢がない。言わなければいい。彼は私(ローズ)の容姿が好きなのだから。彼女の理想のローズを演じていれば、大丈夫)
「ケヴィン様。そんなに慌てなくても。少し驚いただけです」
「そうか、悪かったな。驚かせてしまった。さあ、お茶でも。今日のお菓子は母のお勧めなんだ」
「はい」
ケヴィンはブローチと一緒にお菓子を持参していた。
それは林檎のパイでローズは薦められるまま、それを口にする。パイのサクサクとする歯応えに甘酸っぱい林檎のジャム。今の気持ちでなければもっと味を楽しめるのにと思いながらもローズはケヴィンの前で食べ続けた。
☆
「ウィットリー嬢。あなたは本当にケヴィンと結婚してもいいんだな?」
婚約して一ヶ月後、ハイゼランド家に招待されたローズは、ケヴィンの父ハイゼランド伯爵にそう問われる。
反対されているという話は聞かなかったが、改めて意思を確認され、ローズはたじろぐ。
けれども今更持参金などは返せない。
なので彼女ははっきりと返事をした。
「はい。私には荷が勝ちすぎているご縁ですが、ケヴィン様を支えていきたいと思っております」
(言葉には嘘はない。彼の妻となり、支えてきたいという気持ちは本物だ)
「そうか。わかった。ケヴィン」
伯爵はローズから視線を外して、隣に座る彼の息子に目を向ける。
ケヴィンから緊張感が抜け、目の前に座る伯爵夫妻の雰囲気も優しくなったような気がして、ローズは戸惑う。
(どういうこと?意志確認は必要だったの?)
彼女にはよくわからなかったが、この日から婚姻に向けて話が急に進み始めた。
結婚式の日取りが決まり、招待客の名簿の作成。それから贈り物、ドレス。ローズは頻繁にハイゼランド家に呼ばれることになり、ケヴィンの両親と会話することも多くなる。あの意志確認の際は眼光が厳しくて極度の緊張に見舞われたが、それが嘘のように伯爵も夫人も彼女に優しかった。
「娘がいるって楽しいのね」
特に夫人はローズに構いたがり、結婚式と披露宴のため、五着もドレスを作らされた。
ケヴィンは彼の両親と仲を深めるローズにますます優しくなり、彼女は罪悪感で潰されそうな思いをしながら日々を過ごす。
一緒に過ごす時間が増え、ケヴィンの言葉の端々、表情にジェイスの影が見える。
彼を見ているのか、ジェイスを見ているのかわからなくなることもあり、ローズの気持ちはどんどん重くなる。
そうして迎えた結婚式。
幸せそうに微笑み、ケヴィンは彼女にキスを落とす。
幾人かの女性との噂もあったケヴィン、ローズと出会ってからその噂もなくなった。けれども彼が女性の扱いに手慣れていることは知っている。ジェイスであった時も、女性の影がちらつくことは多くあった。
けれどもこの日まで、彼が手の甲以外にローズにキスをすることはなかった。
婚姻の際のキスは軽いもの、が定番であるのに、ケヴィンは彼女への思いを伝えようとするかのように長いキスをした。
周りのものが動揺し、初心なものなどは顔を赤らめている。
そういうローズも前世も今も経験がない。前世では軍で卑猥な話をたくさん聞いており、知識だけは豊富だったが。
息ができなくなるくらいのキス。
ふわふわと夢の中にいるような気持ちになった。
唇が離れ、目を開けると目尻を下げ、本当に嬉しそうなケヴィンの顔が視界いっぱいで、ローズの気持ちは決まってしまった。
(もう隠すのはやめよう。もしかしたら、受けいれてくれるかもしれない)
彼女は初夜である今夜、彼にすべてを打ち明けようと決心した。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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