【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

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二章 愛していない?

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 ケヴィンはやっと手に入れた花嫁と初夜を迎えるため、上機嫌で部屋に向かっていた。
 出会ってからすでに三ヶ月。
 婚約を経ての婚姻であったが、あまりにも短期間で色々噂されることもあった。けれどもケヴィンは噂など気にしていなかった。ローズがすでに妊娠しているなど不名誉な噂は母の社交力を使って叩き潰した。
 初めて見た時、森の妖精に見えた可憐なローズ。
 彼女をやっと手に入れ、今宵は念願の初夜。
 本能を抑え、我慢に我慢を重ね、迎えたこの日。
 しかし、部屋に入った彼を迎えたのは、いつもの可憐なローズではなかった。
 ベッドの上に太々しくあぐらをかいて、挑戦的な緑色の瞳を向けられた。
 顔は同じ姿も、だけれども何かが違った。
 その雰囲気は忌々しい彼の前世の記憶を蘇らせた。

「ずっと話そうと思っていた。……私の前世はロイ・ヨーテだ。あなたはジェイスなんだろう?」

 ローズの可愛らしい口から出た言葉は、ケヴィンを打ちのめす。
 脳裏に浮かぶのは生意気な顔、それから飛び出していった背中、血まみれで目を閉じた最期。

「ま、まさか」
「やっぱり。やっぱりジェイスなんだな」

 動揺しているケヴィンの前で、ローズは腕を組む。
 
(私の可憐な妖精が、まさか。ロイだなんて。敵に突っ込むことしか脳がない、脳筋バカ。俺の制止をなん度も振り切り、その度に怪我を負って帰ってきた。最後の時も)

「詐欺だ。なんで言わなかった」

 ケヴィンは唸るように言葉をも漏らす。

「だって、あんたが前世を思い出しているなんて知らなかったんだもん」

 対するローズは可愛らしく……。
 この部屋に入ってくるまではケヴィンにはそう思えた。しかし今や目の前のローズは姿は可憐な妖精ではなく、憎っくき宿敵なようなものだ。

「語尾を可愛らしくしても、もう騙されない」

 (こいつはずっと俺を騙していたのか。可愛らしく振る舞いやがって!)

「なあ、昔は昔でも今はこんな可愛いローズちゃんだろ。だって、あんた、初夜楽しみにしてたんだろう?」

 ローズはその可愛らしい顔を歪ませ、下卑た笑みを浮かべた。

(くそっつ。なんで俺は気がつかなかったんだ。瞳は同じだった。よく見れば髪色も!)

「しゃべるな。色々思い出したくない」

 ローズに愛を語りかけた日々を思い出し、ケヴィンは吐き気を覚えて口を抑えた。

「黙ってて悪かった。でも持参金は借金返済に当ててしまって、返せる状況でもなかったんだ。ほら、あんな、ローズの外見好きだし、黙っていれば大丈夫かなあと思って」
「だったら、黙っていててくれたほうが……」
「本当にそう思う?あんた、ロイだった俺を抱ける?」
「む、無理。無理だ」
「だろう?」
「そういうお前は大丈夫なのか?」
「……うーん。まあ、我慢?」
「我慢?俺は無理だ。だが、結婚式は上げてしまった。とりあえず結婚生活は続けるつもりだ」
「え?本当か?」

 ローズはすこしほっとした表情をして、それを可愛いと思ってしまったケヴィンは眉を顰める。

(騙されるな。俺)

「白い結婚だ。既婚者になったことでメリットもあるし、見合いとか煩わしいことから解放される。まあ、跡取りは後でゆっくり考える。一年後に愛人をもってもいい」
「愛、人?」

 ケヴィンの言葉を繰り返し、少し驚いた顔をしていた。

(そうか)

「あ、お前も持ちたい?あ、でもお前、体は女でも意識は男だろ。無理だろ。それ」
「うん、ああ」

 彼女が曖昧に笑い、ケヴィンは少しだけ胸が疼いた。

(なんだ。俺。騙されるな。俺の妖精はもういない。こいつはロイだ。俺の嫌いだった)

「じゃ、一応初夜の偽装工作をしておこう」
  
 とりあえずやるべき事を思い出し、彼はナイフで小指を小さく切って、寝具に血をつけた。
 そうして二人は、ベッドの端と端に横になりその日を終えた。

(……俺の夢の初夜はなくなった。だが、もう令嬢に振り回されることもないから、いいとしよう。元から興味のある令嬢なんていなかった。……俺の妖精は幻だった)

 ちらりと振り返るとローズの小さな背中が見える。
 ロイはで彼の前世ジェイス同様に軍人だった。彼より少しだけ背は低いかったが、華奢な体ではなかった。
 彼女がもぞっと動き、ケヴィンは慌てて顔向きを変える。

(妖精(ローズ)は消えてしまった。隣にいるのはロイだ)
 
 遠征なので隣同士で雑魚寝したこともある。
 そんな前世(むかし)の記憶を思い出しているとケヴィンはいつの間にか眠りに落ちていた。
 



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