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二章 愛していない?
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しおりを挟むハイゼランド公爵は宰相補佐であり、その息子ケヴィンは財務大臣の補佐官だ。王宮へ出仕する際は、ハゼイランド公爵家の紋章の載った馬車に共に乗り込む。帰りは時間がまちまちのため、それぞれ別の時間に戻ることが多い。馬車は王宮へ二人を送った後、屋敷に戻る。
三十分ほどの馬車の旅の中、父はケヴィンに尋ねた。
「ケヴィン。ローズの様子がおかしかったが、どうなんだ?」
「どうって言われますと?」
「……初夜以降、夫婦生活がないと聞いているが?」
「な、なんでそんなことを!」
ケヴィンは父の言葉に動揺し、立ちあがろうとしてよろける。
「ケヴィン。落ち着け。まるで子供のようだぞ」
「……すみません。ご心配いりませんから。私たちのことは放っておいてください」
「ローズのことは可愛い娘のように思っているのだ。泣かせることは許さんぞ」
「……わかっています」
(なんていうか、妖精ローズに父まで陥落したのか。中身はアレなのに)
ハイゼランド公爵は宰相補佐であるが、実は補佐ではなく実務は全て彼がしているのではないかと噂されるくらい有能だ。実際に公爵自身が表に立つのが面倒なので、友人であるメルケル伯爵を唆し宰相に立てて、それを補佐しているのが実情だった。
青い瞳を刃物のように閃かせて睨まれると、さすがのケヴィンも肝が冷える思いをする。
(泣かせるつもりはないんだが。っていうかアレが泣くわけない)
前世のロイは常にへらへら笑っていた。
怒るという行為が無駄なことはわかっているが、癇に障ることばかりする。なのでケヴィン(ジェイス)は常に眉間に皺を寄せ彼を睨んでいた。
☆
「ローズ。正直に答えてね」
ハイゼランド公爵とケヴィンを見送った後、ローズは夫人のエリザベスに捕まった。有無を言わせない勢いで部屋に招かれ、円卓を挟み向かい合わせで座っている。
「ケヴィンのこと嫌いかしら?」
「え?そ、そんなことはありません!」
予想外のことを聞かれて、思わず裏返った声で彼女は答えた。
「それならいいわ。あの子ったら、結婚前はあんなにあなたにぞっこんだったのに、結婚した後、急に冷たくなったわよね。大丈夫?甲斐性がないと呆れないでね。あの子が特定の女性に執着したのは初めてだったから。でももしあなたが嫌になったら、いつでも言ってね」
(私が嫌になることはない。むしろケヴィン様の方からきっと話がいくはず)
「嫌になることなどありません。お義母(かあ)様」
「本当?無理はしないで。あなたのことは本当の娘のように思えるのよ」
夫人エリザエスは柔和に微笑み、ローズは恐縮してしまう。
(騙したのは私だもの。結婚前に前世(むかし)のことを話すべきだったのに。だから、ケヴィン様が困っている。既婚者になったことで女性避けになるみたいだけど、出会いも減る。悪いことしたな)
「ハイゼランドの領地はとてもいいところよ。視察が主になるけど、二人でゆっくりしてきてね」
「はい。ありがとうございます」
(領地。私が挨拶することで、次の妻になる人に迷惑になるかもしれないなあ。でも断るのはおかしいし。とりあえず領地でも大人しくしよう)
☆
ケヴィンが予定を調整し、ハイゼランドの領内視察の日取りが決まった。
ローズは必要ないとさりげなく断ったのに、義母のエリザベスが張り切り、領内視察のためドレスが作られることになった。乗馬もできるので、乗馬服なども用意され、「次の奥さんに迷惑にならないようにする」を信条にしている彼女にとっては複雑だった。
(乗馬できない女性は多いし、新しい奥さんとは体型が違うだろうし)
新しいドレスを贈られる度に、ローズは申し訳なくなっていた。
そうして領地へ旅立つ日がやってきた。
ケヴィンの侍従のエド、ローズの侍女のマチルダは領地に同行する。後は旅路で盗賊にあっても大丈夫のように警備の者を十数人つけた。
「まあ、最近盗賊の話は聞かないが念のためだ。途中で一回宿にも泊まる予定だ」
「はい」
周りに人がいるため、ローズは猫の皮を被って答える。
それを胡散臭そうにケヴィンが見るのはいつものことだ。
(まあ、正直。ロイの口調のほうが結構面倒なんだよね。記憶も曖昧になってきてるし、ローズとしての振る舞いのほうが慣れているから。でもなんていうか、ケヴィン様の前でローズとして振る舞うと嘘をついている気がして、ロイになる。そうなるとケヴィン様もジェイスみたいになって、どうしようもなくなっちゃうけど。まあ、甘い雰囲気にならないからいい)
夜会などでローズとして振る舞うとケヴィンは途端甘い顔をする。
結婚前と同じで、胸がときめく。
(きっと、私はケヴィン様が好きなんだ。でもロイである私は、そんな感情を持ってはだめ。お飾りの妻として過ごし、ケヴィン様に誰か好きな人ができるのを待つ。それまで妻として出来るだけ完璧に振る舞う。それが私の役目)
ローズは胸がドキドキしたり、ロイとしての振る舞いに限界を感じる時、いつもそう思うことにしていた。
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