【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

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二章 愛していない?

2-6

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 見晴らしのいい丘を二頭の馬が競うように駆けている。
 先頭をいく馬には、赤い髪に青い瞳の美丈夫ーケヴィンが、後方の馬には金色の髪をまとめ、乗馬服に身を包んだローズが乗っていた。

「このくそっつ」

 緑色の瞳を輝かせ、ローズは外見からは想像できない言葉を発する。
 先頭を走るケヴィンにはその言葉は聞こえないはずだが、余裕たっぷりで振り返る様に、ローズは更なる怒りを覚えていた。
 前世のころはローズもといロイのほうが乗馬の腕は上で、競争をすれば勝つのは決まってロイだった。しかし、今世においてローズはケヴィン(ジェイス)の腕前に敵わない。
 それは女性らしい今の体のせいと、乗り慣れていないせいだった。ウィットリー家において馬に乗ることなどほとんどなかった。人目を忍んでこっそり何度か乗ったくらいで、今日も久々の乗馬で勘を取る戻すのに時間がかかった。
 焦って転落したら命に関わるため、無茶もできず、ローズは彼の背中を悔しそうに睨むしかない。

 領地で熱烈な歓迎を受けた翌日、ケヴィンに領内を馬で視察することを持ちかけられた。喜んでその案に乗った結果が今だった。
 最初の目的地を視察した後、見晴らしのいい丘を見つけてしまい、馬鹿みたいに馬を走らせてしまった。すると負けん気を出したケヴィンが追いかけてきたのだ。
 領主代理は、時期領主夫妻の競馬に最初は驚き慌てて追っかけようとしたが、補佐官に止められ見守ることにした。しばらくしてケヴィンが元の位置へ戻ってきて、悔しそうにローズがその後に続く。

(やばい。素が出てる?)

 領主代理やその補佐官が待ち構えているのを確認して、ローズは慌てて表情を作った。息を切らせながらも微笑みを浮かべる。
 すると、ケヴィンを始め、周りが笑い始め、彼女は意味がわからない。

「悔しいって顔、すでに皆に見られてたぞ」

(うそっつ)

「ローズ様。ケヴィン様に敵わないのは当然ですよ。領内で坊ちゃんに適うものはいませんから」
「ぼ、ぼっちゃん。そう呼ぶな」
「ははは」

 ローズから今度はケヴィンに皆の関心が移り、彼女は胸を撫で下ろす。

(久々の乗馬であまりにもうれしくて興奮してしまった。しかもジェイスが前だと思うと悔しくて)

 時たま意識していないのに、ロイの気持ちが大きくなってしまう。
 ローズは淑女としては失敗だったと、その後は大人しくケヴィンの隣に控えた。
 素の彼女を知ってしまった領主代理などは、その澄ましている姿をネタに時折彼女を揶揄う。おかげで視察は和やかに行われた。

日が落ちる前に屋敷へ戻り、領主代理と補佐官はそれぞれの家に戻る。
  ケヴィンの侍従エドとローズの侍女マチルダは視察に同行していなかった。視察は馬で行い、少人数で移動する事にしたのが大きな理由だが、明日の夜会の準備の為でもある。
次期領主の妻であるローズのお披露目を兼ねて領主館の大広間で宴を行う。

ハイゼランド領地は元は王領であり、前王の弟だったケヴィンの祖父が臣下に降る際に、ハイゼランド領となった。王領時代から直轄領を中心に四つの領に分かれていて、それぞれに管理者がいた。北東領はティム伯爵家、北西領はプラシ伯爵家、南東領はカンデラ伯爵家、南西領はコランダ伯爵家に任されている。領主はその四つの地区の領主からの報告を確認、直轄領の経営が仕事になる。公爵は王宮へ上がる為、夫人がこの仕事を代行する。それでも夫人は社交が中心で、領主代理が普段は管理していた。けれども週一で現公爵夫人エリザベスは代理に報告書を挙げさせ、領内視察も定期的に行う。エリザベスはローズにゆっくりだが仕事を教えつつあった。

明日のお披露目を兼ねた夜会には四つ地区の伯爵夫妻とその家族が参加する予定で、ローズは緊張していた。
今日の乗馬はその緊張を和らげるものであった。

(明日は頑張ろう。次期公爵夫人として振舞わないと。あとケヴィン様の新しい奥様に迷惑にならないようにと)

「ローズ。もう寝たのか?」
「まだだけど」

   領主館でも寝室は一緒だった。食事を終え、湯浴みをした後、マチルダに案内され寝室へ。昨日も同様だったのが、今日はローズが先だった。手持ち無沙汰だったので、ベッドに潜り込む。
  あの夜のような透け透けの夜着が準備される事はないが、普通のドレスよりも布地が薄い。なのでローズはベッドに入る前にガウンを外さない。
   ケヴィンが来る前にベッドにはいれば勝ちとばかり、彼女はガウンを外して定位置のベッドの右端に丸くなり、毛布を被る。考え事をしていると、ケヴィンが部屋に入ってきたようだ。
    寝ていなかったので、素直に返事をしたら彼が近づいてきて、反射的の毛布で顔を覆ってしまった。

「そんなに嫌か?」
「嫌じゃない。距離が近すぎる」
「そうか?」
「そうだ。離れないとずっと被ったままにするぞ」
「それは苦しいだろうが」
「だから離れて」
「わかった」
 
 ケヴィンの返事がして気配を感じなくなったので、毛布から顔を出すと、少し離れた所から彼が見ていた。

「何?」
「何でもない。今日は疲れただろう。早く寝ろ」
「言われなくとも、もう寝る」
「俺に負けて悔しくて寝られなかったのか?」

  突然嫌みっぽくケヴィンが言い、ローズは競馬に負けた事を思い出す。

「前世(まえ)だったら絶対勝ってる。この体が貧弱すぎるんだ」
「貧弱って。男の体に比べたらそうだけど」
「ロイは男じゃない」
「は?」

  ムカっとして言い返し、ケヴィンが間抜けな表情をしているのに、ローズは気づく。

(何だ?)

「どういう意味だ。ロイが男じゃないって事は……」
「女だ。ロイは女だったんだ」

(前は軍法違反で最悪処刑もあるから絶対言えなかったけど、今は違うから)

「嘘だ。どうやったらアレが女に」
「煩いな。いいだろう。どっちでも」

(なんかイラっとする)

「俺はもう寝る。おやすみ!」

 これ以上何も言われたくなくて、ローズは枕に顔を埋め目を閉じた。すると疲れの為か直ぐに夢の世界へ落ちていった。

  

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