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翌朝の食事はパンとスクランブルエッグとハム、サラダだった。
ウェリントンは忙しいとかで面会できず、仕方なく与えられた職場に行く。
そこで聞かされた話は、ハッチさんこと鉢部が日本へ戻った事だった。
がっかりする面々とは違って、喜んでいたのは前野一人だ。
日本に帰った人がいるのだ。それなら自分も帰れる、そんな希望が生まれる。
日本で肩身が狭くとも、日本は彼の故郷で親もまだ存命だ。ずっと実家に戻ってなかったが、少し恋しい気持ちも生まれている。
そんなに感傷に浸りながら、ウェリントンを待ったが、午前中、彼の姿を見る事はなかった。
「あれ?鉢部さ、いや違う」
昼食は後で食べるという同僚達を置いて前野は食堂に来ていた。そこにいたのは、鉢部ではない日本人だった。
「あ!日本人の方ですね。うわあ、本当にいたんだ!」
前野に気がつくと、ブンブンと手を振る。走ってきそうな勢いだったので、彼はその元気のいい若者がいる日本食コーナー「居酒屋ハッチ」に行く。看板はそのままだった。
「僕、佐藤と言います。昨日の夜に召喚されました!なんでもハッチさんと言う方が日本に戻ったって事で。僕、数ある調理人から宰相閣下が僕を選んでくれた事、めっちゃ嬉しいんです。頑張って働くのでよろしくお願いします!」
元気のいい若者ーー佐藤はぺこりと頭を下げた。
「俺は前野。よろしくな」
佐藤に勧められ、魚のフライ定食を食べて職場に戻る。4人の日本人は脇目もふらずに仕事をしている。
一人だけ昼食を取った事に罪悪感を覚えたが、ふと何がいけないのか前野は思う。日中、朝から夕方まで働くのだ。昼食時間は必要なもので何も悪くない。
逆に昼食抜きなのが異常なのだ。
そう考えに至って、彼は後輩の言葉を思い出す。確かに前野も昼食を抜いて仕事してた事があった。それでのんびり昼食に行った奴らを睨んだ事もあった。
あの時は仕事をサボりやがってと勝手に思っていたが、とんだ勘違いだった。
「きゃー!」
「田辺さん!」
「早く医者を!」
どさっと言う音と共に怒声と悲鳴が聞こえてきて前野の考えが中断される。
音と声が上がった場所を見ると、田辺が倒れていた。
くも膜下出血か脳卒中かもしれないと彼が駆け寄ると、がたいのいい騎士が田辺を抱えるところだった。
「脳卒中かもしれない。そんな風にして運んだら!」
前野が抗議したが無意味で、騎士は田辺を連れて部屋を出て行った。
「タナベさんは大丈夫ですよ」
しばらくして宰相のウェリントンがやって来た。彼の知らせに同僚達が安堵の声を上げる。
前野だけが疑惑の視線を彼に送っていた。
「それなら様子を見たいのですが」
「今は眠ってらっしゃるので、後にしてください」
ウェリントンは笑顔でそう答え、前野はますます疑いを深める。けれどもそれ以上食い下がる事はなかった。
☆
午後6時、前野は腕時計で時間を確認して、帰宅の挨拶をした。他の3人は田辺の事を最初は気にしていたが、そのうち無言で各々の仕事に集中し始めた。終業時間を過ぎていても、残ってるのはいつもの事だ。
もう帰るのかと責めてるような視線を浴びて、げんなりしたが、部屋を後にする。
そうして前野は再び既視感(デジャヴ)を覚える。
定期で帰ろうとする後輩に、視線だけではなく、実際「もう帰るのか」と問いた事もある。
今やっと後輩の気持ちが分かり、あの様な陰口を叩かれても仕方ないと納得する。
だが日本に戻ったら、もうあんな態度はとらないと心に決めた。
職場を出た後、前野は医務室を探す。急に倒れた場合は脳卒中かくも膜下出血だと彼は思っている。
騎士があんなにも早く現れ田辺を連れて行った事が納得出来なかった。まるで部屋の外で待機していたようで、気持ち悪い。
ウェリントンの笑顔も白々しく、彼は田辺の様子を自分の目で確認したかった。
「すみません。体調が少し悪いのですが、医務室はどこでしょうか?」
闇雲に探してもらちがあかないと、前野は通りすがりのメイドに場所を聞く。
「ここから真っ直ぐ行ったところの突き当たりです」
「ありがとうございます」
一緒に行ってくれるかもしれないと期待してみたが、メイドは行き先だけを教えるといなくなってしまった。
前方に真っ直ぐ伸びた 廊下は窓がないたか、薄暗い。
ゴクリと唾を飲み込んだ後、彼は足を踏み出した。
ウェリントンは忙しいとかで面会できず、仕方なく与えられた職場に行く。
そこで聞かされた話は、ハッチさんこと鉢部が日本へ戻った事だった。
がっかりする面々とは違って、喜んでいたのは前野一人だ。
日本に帰った人がいるのだ。それなら自分も帰れる、そんな希望が生まれる。
日本で肩身が狭くとも、日本は彼の故郷で親もまだ存命だ。ずっと実家に戻ってなかったが、少し恋しい気持ちも生まれている。
そんなに感傷に浸りながら、ウェリントンを待ったが、午前中、彼の姿を見る事はなかった。
「あれ?鉢部さ、いや違う」
昼食は後で食べるという同僚達を置いて前野は食堂に来ていた。そこにいたのは、鉢部ではない日本人だった。
「あ!日本人の方ですね。うわあ、本当にいたんだ!」
前野に気がつくと、ブンブンと手を振る。走ってきそうな勢いだったので、彼はその元気のいい若者がいる日本食コーナー「居酒屋ハッチ」に行く。看板はそのままだった。
「僕、佐藤と言います。昨日の夜に召喚されました!なんでもハッチさんと言う方が日本に戻ったって事で。僕、数ある調理人から宰相閣下が僕を選んでくれた事、めっちゃ嬉しいんです。頑張って働くのでよろしくお願いします!」
元気のいい若者ーー佐藤はぺこりと頭を下げた。
「俺は前野。よろしくな」
佐藤に勧められ、魚のフライ定食を食べて職場に戻る。4人の日本人は脇目もふらずに仕事をしている。
一人だけ昼食を取った事に罪悪感を覚えたが、ふと何がいけないのか前野は思う。日中、朝から夕方まで働くのだ。昼食時間は必要なもので何も悪くない。
逆に昼食抜きなのが異常なのだ。
そう考えに至って、彼は後輩の言葉を思い出す。確かに前野も昼食を抜いて仕事してた事があった。それでのんびり昼食に行った奴らを睨んだ事もあった。
あの時は仕事をサボりやがってと勝手に思っていたが、とんだ勘違いだった。
「きゃー!」
「田辺さん!」
「早く医者を!」
どさっと言う音と共に怒声と悲鳴が聞こえてきて前野の考えが中断される。
音と声が上がった場所を見ると、田辺が倒れていた。
くも膜下出血か脳卒中かもしれないと彼が駆け寄ると、がたいのいい騎士が田辺を抱えるところだった。
「脳卒中かもしれない。そんな風にして運んだら!」
前野が抗議したが無意味で、騎士は田辺を連れて部屋を出て行った。
「タナベさんは大丈夫ですよ」
しばらくして宰相のウェリントンがやって来た。彼の知らせに同僚達が安堵の声を上げる。
前野だけが疑惑の視線を彼に送っていた。
「それなら様子を見たいのですが」
「今は眠ってらっしゃるので、後にしてください」
ウェリントンは笑顔でそう答え、前野はますます疑いを深める。けれどもそれ以上食い下がる事はなかった。
☆
午後6時、前野は腕時計で時間を確認して、帰宅の挨拶をした。他の3人は田辺の事を最初は気にしていたが、そのうち無言で各々の仕事に集中し始めた。終業時間を過ぎていても、残ってるのはいつもの事だ。
もう帰るのかと責めてるような視線を浴びて、げんなりしたが、部屋を後にする。
そうして前野は再び既視感(デジャヴ)を覚える。
定期で帰ろうとする後輩に、視線だけではなく、実際「もう帰るのか」と問いた事もある。
今やっと後輩の気持ちが分かり、あの様な陰口を叩かれても仕方ないと納得する。
だが日本に戻ったら、もうあんな態度はとらないと心に決めた。
職場を出た後、前野は医務室を探す。急に倒れた場合は脳卒中かくも膜下出血だと彼は思っている。
騎士があんなにも早く現れ田辺を連れて行った事が納得出来なかった。まるで部屋の外で待機していたようで、気持ち悪い。
ウェリントンの笑顔も白々しく、彼は田辺の様子を自分の目で確認したかった。
「すみません。体調が少し悪いのですが、医務室はどこでしょうか?」
闇雲に探してもらちがあかないと、前野は通りすがりのメイドに場所を聞く。
「ここから真っ直ぐ行ったところの突き当たりです」
「ありがとうございます」
一緒に行ってくれるかもしれないと期待してみたが、メイドは行き先だけを教えるといなくなってしまった。
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ゴクリと唾を飲み込んだ後、彼は足を踏み出した。
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