47 / 56
第三部
異変
しおりを挟む
ぎこちない昼食を挟み、結局アレンは夕方近くまで居座った。残りは王宮で仕上げると言い、誕生祝賀会参加への念を押してから屋敷を後にする。
アレンと共に壁際で重圧をかけ続けていた二人もいなくなり、屋敷中で安堵の溜息が漏れた。
「ジャスティーナ様。久々にご夕食一緒にいかがでしょうか?このような中途半端な時間ではお屋敷に戻る前にお腹が空いてしまうでしょう」
ハンクの誘いに、イーサンは何かを言いかけたが、咳払いすると彼女に向き直った。
「ジャスティーナ。帰りは責任を持って送らせる。だから一緒に食事をしないか?」
何やら頬をすこし赤らめているのが不思議だったが、ジャスティーナは笑顔でそれに答える。
「もちろん喜んで」
両親の顔が一瞬過ぎったが、婚約している間柄なので問題ないだろうと彼女は久々のデイビス家の夕食を楽しむことにした。
多少の葡萄酒を嗜みながら、ジャスティーナは運ばれてくる料理を味わう。ニコラスの腕はやはりとても美味しくて舌鼓を打った。
「ジャスティーナ様がこの屋敷に住んでくださったら、毎日好物をお作りしますよ」
「私も毎日ジャスティーナ様のお世話を張り切ります」
「そうなると、モリーが暴走しないように、私が見張る必要があるねぇ」
「マデリーン。お前は部屋で大人しくしてなさい。私がモリーのことは監督するから大丈夫だ」
口々に使用人達が話し始め、ジャスティーナは噴き出ししまいそうになり、ナプキンで慌てて口を押さえた。
「まったくお前達は気が早い。まだプロポーズもしてないのだ」
だが、イーサンの言葉でジャスティーナは笑いを引っ込める。
「ジャスティーナ。屋敷に戻る前にすこし話をしたい。いいか?」
彼の黒い瞳が煌めき、ジャスティーナの鼓動が一気に早まった。
「も、もちろん」
そう答えた時、屋敷内に何がが盛大に割れる音がした。同時に番犬のブロディの唸り声も。
「ニコラス。この音は正面の門だ。確認を頼む」
「はい」
イーサンの緊迫した声にニコラスが答える。
――どういうこと?
屋敷の和やかな雰囲気が一気に、険しいものに変わった。
「ジャスティーナ。念のため、モリーと執務室へ」
「イーサン様?」
「大丈夫だ。念のためだ」
「ジャスティーナ様」
後ろ髪を引かれる思いだったが、ジャスティーナはモリーの案内で執務室に移動することになった。
☆
当主の寝室と執務室は隣同士になっており、それぞれの部屋に隠し扉があって、そこから地下室へ行くことができる。
屋敷も森に隠されるように存在し、建物の周りに魔法具を設置していた。なので、内部に侵入するのは至難の技である。が、先代達が念のために避難所として地下室を作った。
じめじめとする空気、明かりもなく、ジャスティーナは隣にモリーの気配を感じ安堵する。
「イーサン様、大丈夫かしら」
「大丈夫に決まっております。ニコラスもいますので」
闇に慣れた目で、モリーが自信をもって胸を叩いているのがうっすらと見える。
彼女のこうした行為と言葉は心配で胸が押し潰れそうになるジャスティーナを勇気付けた。
音がまったく聞こえない。
ただ心配だけが募る。
どれくらい部屋にこもっていたのか、ふいに扉が叩かれた。
それは何か暗号のようなリズムを持っており、モリーが扉に駆け寄る。
「ニコラスですわ。大丈夫と思いますが、ジャスティーナ様は少し物陰をお隠れください」
「ええ」
彼女の指示通り、ジャスティーナは木箱の積まれている場所へ身を隠した。
「お父さん?」
モリーが扉を開けて驚いた声を上げた。そこいたのは、ニコラスではなく、ハンクであった。
アレンと共に壁際で重圧をかけ続けていた二人もいなくなり、屋敷中で安堵の溜息が漏れた。
「ジャスティーナ様。久々にご夕食一緒にいかがでしょうか?このような中途半端な時間ではお屋敷に戻る前にお腹が空いてしまうでしょう」
ハンクの誘いに、イーサンは何かを言いかけたが、咳払いすると彼女に向き直った。
「ジャスティーナ。帰りは責任を持って送らせる。だから一緒に食事をしないか?」
何やら頬をすこし赤らめているのが不思議だったが、ジャスティーナは笑顔でそれに答える。
「もちろん喜んで」
両親の顔が一瞬過ぎったが、婚約している間柄なので問題ないだろうと彼女は久々のデイビス家の夕食を楽しむことにした。
多少の葡萄酒を嗜みながら、ジャスティーナは運ばれてくる料理を味わう。ニコラスの腕はやはりとても美味しくて舌鼓を打った。
「ジャスティーナ様がこの屋敷に住んでくださったら、毎日好物をお作りしますよ」
「私も毎日ジャスティーナ様のお世話を張り切ります」
「そうなると、モリーが暴走しないように、私が見張る必要があるねぇ」
「マデリーン。お前は部屋で大人しくしてなさい。私がモリーのことは監督するから大丈夫だ」
口々に使用人達が話し始め、ジャスティーナは噴き出ししまいそうになり、ナプキンで慌てて口を押さえた。
「まったくお前達は気が早い。まだプロポーズもしてないのだ」
だが、イーサンの言葉でジャスティーナは笑いを引っ込める。
「ジャスティーナ。屋敷に戻る前にすこし話をしたい。いいか?」
彼の黒い瞳が煌めき、ジャスティーナの鼓動が一気に早まった。
「も、もちろん」
そう答えた時、屋敷内に何がが盛大に割れる音がした。同時に番犬のブロディの唸り声も。
「ニコラス。この音は正面の門だ。確認を頼む」
「はい」
イーサンの緊迫した声にニコラスが答える。
――どういうこと?
屋敷の和やかな雰囲気が一気に、険しいものに変わった。
「ジャスティーナ。念のため、モリーと執務室へ」
「イーサン様?」
「大丈夫だ。念のためだ」
「ジャスティーナ様」
後ろ髪を引かれる思いだったが、ジャスティーナはモリーの案内で執務室に移動することになった。
☆
当主の寝室と執務室は隣同士になっており、それぞれの部屋に隠し扉があって、そこから地下室へ行くことができる。
屋敷も森に隠されるように存在し、建物の周りに魔法具を設置していた。なので、内部に侵入するのは至難の技である。が、先代達が念のために避難所として地下室を作った。
じめじめとする空気、明かりもなく、ジャスティーナは隣にモリーの気配を感じ安堵する。
「イーサン様、大丈夫かしら」
「大丈夫に決まっております。ニコラスもいますので」
闇に慣れた目で、モリーが自信をもって胸を叩いているのがうっすらと見える。
彼女のこうした行為と言葉は心配で胸が押し潰れそうになるジャスティーナを勇気付けた。
音がまったく聞こえない。
ただ心配だけが募る。
どれくらい部屋にこもっていたのか、ふいに扉が叩かれた。
それは何か暗号のようなリズムを持っており、モリーが扉に駆け寄る。
「ニコラスですわ。大丈夫と思いますが、ジャスティーナ様は少し物陰をお隠れください」
「ええ」
彼女の指示通り、ジャスティーナは木箱の積まれている場所へ身を隠した。
「お父さん?」
モリーが扉を開けて驚いた声を上げた。そこいたのは、ニコラスではなく、ハンクであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?
あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。
面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。
一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。
隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。
婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐
ふわふわ
恋愛
王太子エランから、
「君は優秀すぎて可愛げがない」
――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。
だが彼女は動揺しなかった。
なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。
(これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!)
(体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?)
復讐? ざまぁ?
そんなテンプレは後回し。
自由になったアルフェッタが始めたのは、
公爵邸ライフを百倍楽しむこと――
そして、なぜか異世界マンガ喫茶。
文字が読めなくても楽しめる本。
売らない、複製しない、教えない。
料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。
それは教育でも改革でもなく、
ただの趣味の延長だったはずなのに――
気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。
ざまぁを忘れた公爵令嬢が、
幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、
“楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。
※漫画喫茶は教育機関ではありません。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。
王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった
ルビー・エルヴェール。
彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。
評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配――
一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。
噂に揺れ、信頼が試され、
「正しさ」と「速さ」、
「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。
それでもルビーは、問い続ける。
――制度は、誰のためにあるのか。
――信頼とは、守るものか、耐えるものか。
――改革者は、いつ去るべきなのか。
やがて彼女は、自らが築いた制度が
自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。
残されたのは、名前の残らない改革。
英雄のいない成功。
だが確かに「生き続ける仕組み」。
これは、
誰かが称えられるための物語ではない。
考えることを許し、責任を分かち合う――
その文化を残すための、40話の改革譚。
静かで、重く、そして誠実な
“大人のための王宮改革ファンタジー”。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる