元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。

ありま氷炎

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第三章 ざまぁの子は魔王の配下になる。

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「……面白いことになった」

 魔王ザイネルは報告を受けて、笑い出す。


 大樹から現れた記憶のない魔族の娘メルヒがケリルと名付けられて、王と王妃に保護されている。
 娘のことを知っているのは、人の国の城でも、数人。けれども、ザイネルは王の近くに彼の手の者を放っていた。彼らの情報はすべて筒抜けであり、実際戦争をすれば今度こそ魔族は勝てるはずだった。
 ザイネルがそれをしないのは無駄だと考えるからだ。多くの者が犠牲になる。
 また、互いの総勢力をぶつけ合う戦争では、人を死滅させることができない。彼の最終目標は、人の国を支配するのではなく、人の国を消し去ることだった。
 創造主が宿るという大樹、その力は計り知れないという。
 現国王を殺せば、大樹の力を得るのはセイン。それを使って、ザイネルは人の世界を壊滅させようと試み得ていた。

「とりあえず彼の誕生日までは何もしないつもりだよ。君も気を付けて」

 ザイネルの言葉に、薄汚い茶色の衣に身を包んだ間者は首を垂れた。


 ☆

 大きな帽子をかぶり、ふわりとしたスカートを身に着ける。
 そうすると彼女の黒い犬耳と、ふさわさした尻尾は隠れて見えなくなる。
 危険性の低さを確認した上で、王は王妃にケリルと名付けられ魔族の娘を、客人として扱うことを提案した。
 いつまでも王室で匿うわけにいかず、王妃の知り合いということで、特別扱いさせ、極力人を会わせないようにもする。こうすれば彼女の正体もばれないはずだった。
 
「ケリル。そのドレスと帽子とても素敵よ。さあ、出かけましょう」

 彼女の部屋に現れたのは王妃ジョセフィーヌで、部屋に閉じこもっているのもよくないと城の森を散策することにしたのだ。
 そのために用意されたドレスと帽子。帽子にはベールがついており、本来は日の光を遮るものだが、この場合は目の色がわからないようにかなり細かい網の目のものを使用している。
 ケリルに以前の記憶はない。けれども感覚はあって、恐らくこのようなドレスを以前着たことはないのだろうと想像はできた。
 今日の散歩に王トールは同行しない。
 代わりに同行するのは、トールの幼馴染でもある近衛兵団長フェンデルだ。彼は宰相と共に真相を聞かされており、腕が立つ以外にも護衛には適格だった。
 
「暑い……」
「そう?」

 護衛一人では心持たないので、近衛兵団長フェンデルが数人騎士を選んで、共に同行させる。その者たちはケリルが魔族であることは知らないが、その特徴を隠しているため問題がないと王妃の判断だ。
 トールはこの散歩には反対だったが、団長に言葉を添えられたこともあり、やむなく許可をしている。

 数人の騎士に囲まれ、二人はゆっくりと歩を進める。
 ジョセフィーヌは楽しそうにケリルに話しかけるが、彼女は帽子の中の耳や髪が蒸されること、または騎士に囲まれているという状況で、楽しむどころではなかった。
 
 ーーなんで、こう騎士に囲まれると嫌な気持ちがするんだろう。私が魔族なのは確かだ。過去に何かあったのか?

 そんなことを思いながらも、ジョセフィーヌについて先を進む。

「ほら池よ」
「池?」

 大きな水たまりが目の前に広がっていて、急に涼しくなかった気がする。風も出てきて、ケリルは飛ばないように帽子を押さえた。

「ここにくると落ち着くの。カイル様が昔……」
「カイル?」
「ごめんなさい。なんでもないわ」

 ジョセフィーヌが一瞬驚いた後、誤魔化し笑いを浮かべた。これ以上聞いてはいけないことなのだと、ケリルもわかり、彼女と同じように池を眺める。
 けれども気になる名前は、カイルだ。
 

 ーー聞いたことがある。過去に会ったことがある人か?……そういえば、トールと、ジョセフィーヌという名も初めてきいた名前ではない。でもいい思いはしない。怒り、そう、二人の名前を聞くとなぜか心が騒ぐ。だけど、二人はとてもいい人だ。私に対してとても優しい。なのに……?

「ケリル?もしかして何か思い出した?」
「王妃さま。あんたは何か知っているのか?」
「……知らないわ。ただ……」
「ただ?」
「ケリル。私はあなたが好きよ。妹、いえ娘みたいに思っている。だから、何か思い出したら遠慮なく言ってね。覚悟はできてるから」
「王妃さま?」

 急にジョセフィーヌの表情が曇り、ケリルはそれを見て胸が痛くなった。
 そして思い出さないほうがいいかもしれないとも思った。
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