元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。

ありま氷炎

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第四章 ざまぁの子は魔犬と再会する。

16

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「ふうん。セイン君がねぇ」

 魔王ザイネルは人の国の間者から報告を受けていた。
 彼の配下、亀の魔族タトル、鳥の魔族バイゼル、兔の魔族ラギルは影に溶け込むように珍しくだまってやり取りを聞いている。

「……君はそのまま探り続けてくれ。指示はそのうち出すから」

 彼がそう言うと、間者は部屋から立ち去った。
 
「つまらないことになったね」

 どれくらい沈黙が落ちたのか、ザイネルがぽつりとつぶやく。そうして、三名の魔族が影から姿を見せる。

「しばらくしたら、君たちにまた人の国へ行ってもらうよ。もう飽きちゃったからね」
「……陛下。飽きたとはどういう意味でしょうか?」
「その言葉のままだよ」

 冷笑を湛え苛立つ感情のまま彼は亀の魔族タトルに答える。
 他の二人は口を挟むことなく両者を見守っているだけだった。

「君たち、まさか、セイン君に特別な感情を抱いていたりしないよね?邪魔になったら排除する。それくらいできるよね?」
「無論です。陛下」

 タトルが首を垂れ、鳥の魔族バイゼルも兔の魔族ラギルもそれに従う。

「それならよかった。私は機嫌が悪いからね。何をするかわからないよ。本当、無駄な時間を過ごしてしまった。これから最初から……。まあ、いいや。多少は楽しかったからね」

 ザイネルが手の平を返すと、その掌の魔法陣が熱を帯びて、青白い光を放出していた。それを押さえるように拳を握りしめた後、彼は三名に退室を命じた。


 ☆


「タトル」
「何もいうな」

 謁見の間を出てすぐに口を開いたバイゼルにタトルは返す。

「……まだ人の国のお菓子食べ終わってないのに」

 その背後で鳥の魔族ラギルは長い耳を器用に動かしながら、ぼやいた。

「私たちの主は魔王ザイネル陛下だ。命に従う。それだけだ」
「わかってるさ」
「わかってますよ」

 三名の会話はそれっきりで、城を出るとそれぞれ行き先をいう事もなく別れる。
 次に三名が揃う時は、人の国へ再び旅立つ時だ。
 彼らに与えられる仕事は、セイン及び王と王妃の暗殺だ。仕事の選り好みをできる立場でもなく、断れば魔王に抹殺されるだけだ。
 重い気持ちで彼らは次の仕事まで各々楽しむことにしていた。





 犬の姿のメルヒは混乱していた。
 ジョセフィーヌへの恨みの気持ちは消えてはいない。
 しかし、彼女と過ごした記憶が邪魔をした。
 記憶がない自身を思い出すと、何から何まで嫌になった。ドレスを身に着けて無邪気に振舞い、ジョセフィーヌを慕う自身。吐き気がしそうになる。
 また子供だと思っていたセインが成長していて、それに対して己がまるで恋する娘のような行動をとっていたことが、たまらなく恥ずかしかった。
 そしてメルヒは逃げる行動に出た。
 今は混乱して、何をしていいのかわからなかったからだ。
 部屋の窓から木に飛び乗って中庭に出ると、見張りの騎士たちに見つからないように身を低くして行動する。月も出ていない夜はメルヒの味方だった。
 あと少しというところで、彼女は一人の騎士に見つかった。
 立ちふさがったのは全身を甲冑に包んだ騎士で、突破しようと構えたところで驚く。
 
「ヴァン」

 兜を脱ぎ去り、現れた顔は9年前共に戦った一つ目の男だった。
 
「ちょっとこっちに隠れてろ」

 ヴァンは再度兜をかぶりながらメルヒに指示する。ほどなくして声が聞こえてきた。首をしゃくられ、彼女は迷いながらも指を差された建物の影へ身を潜める。

「ジリン。異常はないか?」
「はい」


 ヴァンが答えると外套を身に着けた騎士は頷き、彼に背を向けた。そうして別の場所へ歩いていく。
 姿が消え、完全に気配が消えてから、彼は声をかけた。

「もう出てきていいぞ」
「なんでお前が城にいるんだ。いつからだ?」
「すっかり記憶は戻ったようだな」

 彼はメルヒの質問に答えず、そう返す。

「もうすぐ交代の時間だ。人の姿に戻れるか?その方が誤魔化しやすい」
「戻れるが、服を持っていない」
「服……。そういうの気にするようになったんだな」
「元から気にしていた」

 兜で顔を見えないが、にやにや笑われている気がしてメルヒは苛立ちを募らせる。

「服は俺のものを貸してやる。尻尾と耳が隠れるようなものを持ってきてやるから、静かに待ってろよな」
「お前に力を借りなくても、脱出くらい自分でできる」
「逃げるつもりなのか?」
「逃げない。ただ今は混乱してるから」
「セインから逃げるつもりか?」
「逃げない。逃げるわけないだろう」
「だったら、俺の助けを借りろ。セインと合流するにも、復讐するにも城にいたほうが便利だろう」
「……そうだな」

 畳みかけるように言われ、メルヒは彼の提案に乗せられてしまった。
 9年前行動を共にして、最後の最後で彼は逃げた。そのことに対してメルヒは彼を恨んではいない。あそこに残っていたら、死んでいた可能性が高かったからだ。
 夜な夜な部屋に訪れたセインから彼女が不在の9年に関して聞かされたことがあった。ヴァンがその間彼の傍にいたと、ちらりと口にしていたことも覚えていて、メルヒはヴァンに恨みなどの感情はない。ただ相変わらず彼女をからかう様子が変わっていなくて、苛立つだけだった。

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