元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。

ありま氷炎

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第五章 ざまぁの子は復讐を……。

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「これは大樹(リグレージュ)?」


 目を覚ますとセインは真っ白な空間にいた。
 行方も分からずただ歩いていると、急に大きな大木が目の前に聳え立つ。

「メルヒ?」

 目を凝らすと、幹の部分に人影が見え、それはメルヒの形をしていた。

「なんで、メルヒ!」

 大樹に取り込まれた話は聞いていたが、それは以前の話だ。今夜も彼女とは言葉を交わしている。

「また取り込まれたのか?」

 幹に触りながら、彼は大樹を仰ぐ。
 視界が大きく揺れると、真っ白な光景が色づく。
 それは森の中で、漆黒の髪に、深紅の瞳の女性が魔族たちと話をしていた。

「メルヒ?……違う。耳に尻尾がない。あの人は、魔族ではない。メルヒじゃない」

 その女性はメルヒのそっくりの容貌であったが、黒い垂れ長の耳に、尻尾がなかった。呆然としながらもセインは女性と魔族たちに近づく。
 彼女にも魔族にもセインの姿は見えていないのか、彼に目をとめる者はいなかった。けれども、彼は何かを聞き取ろうと更に近づいた。すると場面は急変する。
 魔族たちが女性から離れ、村を形成していく。物凄いスピードで、彼は瞬きしながらその光景を眺めた。
 
「ザイネル?ヴァン、あれは確か、タトルに、バイゼル、ラギル……?」

 彼らは集まり何やらは話し合っていた。
 しかしセインの姿は見えないのか、やはり気に留める者はいない。

「なんだよ!おい!」

 無視されているようで足を踏み出したところで、また場面が変わった。人の国だ。
 先ほど見たメルヒによく似た外見の女性が一人の青年と話をしていた。

「ぼ、僕か?いや、違う。父さん?」

 現在のセインより大人びており、彼は父親ではないかと目を凝らした。

「女神リグレージュよ。我らに力を貸したまえ。それでなければ魔族に滅ぼされてしまう」

 父によく似た青年は、首を垂れて懇願している。
 女性の顔は苦痛に歪んでいた。

「女神」
「陛下!魔族が攻めて来ました。迎撃を!」

 広間の扉が開き、騎士が駆けこんできた。

「あなたは我らを見捨てるつもりか?」
 
 陛下と呼ばれた男ーー恐らく王である彼はそう女神に言って、騎士とともに広間から駆け出した。

「父さんは王ではないし、戦争にも参加してない。だったら、」

 アルビスから人の歴史を聞かされたことを思い出して、これが最初の人と魔族の戦争であることに思い至る。
 
「アルビスの話によると、女神は力を貸したって」

 すでにこの不可思議な出来事からこれは夢か幻であることを、セインは理解していた。
 自分に似た王、メルヒに似た女性ーー女神の行き先が気になり、ただ光景を目に焼き付けようと目を剥く。

「女神よ!人に手を貸し、我らを見捨てるのか?我らもあなたの子であることにはかわらないのに!」

 城が落ちようとしたとき、雷が魔族の軍勢を襲った。
 魔族たちは怒り、ますます攻撃を強める。

『戦いをやめなさい。あなたたちも我が子です。無用な戦いは必要ありません』

 メルヒによく似た女神は城の城壁に立って、魔族に告げた。

「俺たちを人と同様同じ子だと思うならば、なぜあなたは人の味方なのか。人は俺たちを魔族と呼び土地を奪った。俺たち一つ目は、人と目の数だけが違うだけ。なのに、あなたはいつも人の味方なのか?」
『そうではありません。ヴァリック』
 
 ーーヴァリック?ヴァンじゃないのか?

 魔族の軍を率いるのはヴァンによく似た一つ目の男だった。

「人はその報いを受けるべきだ。あなたはそれを黙って見るべきだ」

 ヴァリックはそう言い放つと声を上げて、駆け出す。
 女神は中立を決めたのか、城壁の上で状況を見守るだけだった。

「死ね!」

 一つ目の男が純白の馬を駆っていた騎士の首を落とす。

「陛下!なんということ!」
「セドリック!」

 女神は城壁から飛び降りると、その首を抱えた。
 そして何かを言葉を口にした。
 突然、ヴァリックが苦しみ始めた。それは彼一人だけではなく、同じ一つ目の一族たち全員だった。

「セドリック。私の愛しい……」

 女神がその首を抱き、城の中に入っていく。
 異様な光景に人も魔族も立ちすくんでいた。
 一つ目の一族たちは目を剥き、苦しみながら死んでいき、城の中心から光が放たれる。
 雷が魔族の軍を襲い、撤収を予期無くされた。

 
 「……そうして、女神は大樹になったのか。でもまさか、人をそんな形で、一つ目の一族が滅んだ。だけど、ヴァンは?戦争に参加したものだけが死んだのか?」

 疑問が浮かんでは消え、目の前の光景は元の真っ白なものに戻っていく。
 そこにあるのは大樹。
 けれども幹にはもう人影はなかった。

「メルヒは?どこに?」
『セイン。私は過ちを犯しました。そして大樹になり、世界に介入しないことに決めました。けれども、私の子どもたちは争いをやめない。何度も、何度も。セイン、どうか、争いを無くす世界を作って。メルヒと共に』
「メルヒはどこに行ったんだ?僕は知らない。そんな願いなんて。僕の父さんも母さんも死んでしまった。人に殺された。人なんてどうでもいい」
『セイン……。どうか』
「知らない。メルヒはどこにいったんだ?」

 彼の問いに大樹(リグレージュ)は答えることはなかった。

「メルヒ!」

 セインは自身の大声で目を覚まし、すっかり部屋が明るくなっていることに気が付いた。
 そうして扉が開かれ、使用人が入ってくる。
いつもの、城の朝だった。
使用人と挨拶を交わしながら、窓から差し込む日の光を見ていると、急激な勢いで先ほどまで鮮明に残っていた夢の記憶が薄れていく。

「……何の夢を見てたんだ?」

 ついには夢の内容をほぼ忘れてしまい、セインは眉をひそめる。
 ただメルヒに関する夢だった、そんな認識だけが残り苦い気持ちが込み上げてきた。

 ーー忘れるなんて、たいしたことじゃないはずだ。

 彼は自身にそう言い聞かせると、王と王妃が待つ広間に向かうため仕度を整えた。

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