前世で弟だった旦那様が超シスコンになっていてどうにか矯正したい。

ありま氷炎

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第二章 私はあなたの姉で、恋人ではありません

とても居心地がわるい

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「姉上。とても似合いますよ」

 ロンは目を細めて本当に嬉しそうに微笑んだ。
 なぜか私は新調したドレスを身につけて、お父様たちとお茶をしている。

「ジャネットは茶色の髪だから、マリーの時と違って濃い色が似合うわね」

 お母様は頷きながら、お茶を飲んでまったり。

「こう見ると、ジャネットとマリーの顔は似ているんだな。キュッと唇を噛むところなんて一緒だ」

 お父様はにこやかにそう言って、ロンが頷く。

「あの、大変ありがたいのですが、こんな良い生地を使っているドレスなんて、私には相応しくありません」

 ただのメイド、街に出かけるにもただ平民の娘にしかすぎない私は、こんなドレスを身につけていたら、物取りに遭ってしまう。本当の身分は男爵令嬢なんだけど、私からみたら本当に意味がない爵位にすぎない。
 マリーの時は、どこにいくにも警備の者がいたので、気にしてなかった。っていうか、あの当時マリーの世界はとても小さくて、自分の立ち位置もよくわかってなくて、マリーナに行きたいとごねて馬車を出してもらっていたな。
 なんていうか贅沢な娘だった。

「そんなこと言わずに受け取ってください。姉上。そのうち着る機会があるはずですから」
「そうよ」
「そうだな」

 着る機会?
 嫌な予感しかしないんだけど。

「いえ、遠慮させていただきます。せっかく作っていただいたのに申し訳ないのですが」

 今の私はジャネットだ。マリーではない。
 こういう好意に甘えることはよくない。
 ただでさえ、最近はちょっとこのお屋敷で悪い立場にいるのに。
 一ヶ月前に、「マリーの生まれ変わり」の募集は打ち切られ、捜索も断念された。あの最終候補者たちにもどうにか納得してもらった形だ。
 ロンが候補者一人一人に会って、何か説明したらしいけど、内容は謎だ。
 まあ、それは置いといて、本当は、私という存在が見つかっているのだけど、お願いして、公表しないで置いてもらった。
 このお屋敷でも私の前世がマリーであることは伏せられてる。
 ただメグには話したことを教えているので、今日のドレスの着付けも手伝ってもらった。
 今は部屋から退出して、外に控えてもらっている。
 こういうなんか特別扱いは好きじゃない。
 お父様たちに会えたのは嬉しい。だけど、私はもうマリーじゃない。ただのメイドのジャネットだ。特別扱いされるとやはり周りの目が気になる。
 メグは知っているし、優しいからそんなことないけど。
 他のメイドたちは私には直接言わないけど、陰では色々言ってるみたい。メグから聞いた。私だけが頻繁にロンやお父様たちに呼び出されるし、その際は誰も部屋に入れない。
 あのマリー探しは結局ロンの結婚相手を探していたので、それもかねてロンの結婚相手だと思われているのは、本当に嫌になる。
 しかも、ロンを色気で落としたなどと言われているらしい。
 色気、この私のどこにそんな色気があるのか、聞きたいくらいだ。
 だいたい弟を誘うなんて、絶対にありえないし。

「姉上。そんなにこのドレスが気に入りませんでしたか?」
「そうなのか?マリー」
「どうなの?だったら捨ててしまいましょう」
「いえ、そんなことはないです」
「姉上。そんな他人行儀にしないでください。こうして一緒にいるときは遠慮しないでください」
「そうだぞ。マリー」
「ええ。ドレスがだめなら髪飾りはどう?首飾りでもいいわね」

 だからいらないんだって。
 ロンに、お父様、お母様。
 私がマリーだったのが本当に嬉しかったらしく、何かと構ってくれるんだけど、ちょっと面倒……。
 雇用主に対して面倒とかよくないけど、ドレスとか、髪飾りとか、今の私(ジャネット)には必要はない。
 だからはっきり伝えるべき。

「お父様、お母様、ロン。今の私はジャネットという、このお屋敷のメイドなのです。だから、特別扱いはやめてください」
「姉上。どうか僕たちといる時はこうして特別扱いをうけてください。それとも公表してもいいですか?僕としては公表したいのですけど」
「そうだな。公表してしまおう」
「私も賛成よ」
「やめてください。大事(おおごと)にしたくないんです。わかりました。ドレスでも髪飾りでも好きなものを買ってください」
「ふふふ。楽しみだわ」
「母上。髪飾りは僕が選びますからね。母上は別のものしてください」
「私は何を贈るかな」

 嬉しんだけど、めちゃくちゃ迷惑だ。
 贅沢な悩みといえば、そうなんだけど。複雑な心境だ。本当に。

 
 ☆

「お疲れ様」
「うん。お疲れ」

 ドレスからメイド服に着替えるのを手伝ってもらいながら、メグの労(ねぎら)いに答える。

「本当愛されてるわね」
「うん。マリーがね」

 そう、マリーは本当に彼らに愛されていた。
 突然事故死したマリーに対して色々想い残すことがあった。それで今、少しでも想いを果たそうとしているのかもしれない。
 
「このままじゃまずいよね」
「何が?旦那様も大旦那様も大奥様も幸せそうで、私も嬉しいわ。外野なんてほっといたらいいのよ」
「うん。そうだけど」

 メグがいるうちはいいんだけど、彼女がやめちゃったら、ちょっと耐えられるかわからない。虐められたりすることはないと思うんだけど、なんかねぇ。
 後、前世がマリーだったからって、ロンたちに甘えるわけにもいかないし。利用していると思われるのも嫌だし。
 やっぱり、ちゃんと考えなきゃなあ。これからのこと。

「ほら、旦那様なんて、もうマリー様、あなたのドレスを集めて寝たり、香水を撒き散らしたりしないじゃないの。結構後片付けも大変だったから、助かってるのよ」

 確かにちょっと面倒だったよね。皺になったドレス一枚一枚にアイロンかけたり、香水が染み込んだ場所を拭いたり……。

「いいことばかりよ。深く考えない。深く考えない」

 メグはそう言いながらドレスをクローゼットにしまう。

「さあ、仕事にもどりましょう」
「うん」

 メイド服に着替え終わり、その肌触りに安心感を覚える。
 やっぱりこの服は落ち着く。
 マリーの時とは違う。最初から彼女とは育ちが違うし……。記憶があるだけだし。もしかしたら本当に妄想?でも妄想だったら、ロンたちをこんなに懐かしく思うわけないし、大体過去の話なんて彼らとできるわけがない。
 だったらやっぱり私がマリーのはずなんだけど。

「ジャネット?深く考えないの。旦那様たちが幸せならいいじゃないの」
「……そうだけど」

 まあ、当初の目標。
 ロンのおかしなところを直す、はとりあえず達成されてるし、今はそれでいいか。

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