結婚式に駆け落ちした姉の代わりに、奔放な私が公爵様へ結婚を申し込みました。

ありま氷炎

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「私と結婚しませんか?」

 姉を意識して、微笑む。
 驚いたような顔をされた。

 彼は姉が好きだった。
 その姉は、結婚式当日、従者と駆け落ち。
 去っていく姉の背中を切なそうに見ている彼に私は声を掛ける。

「私は姉と背格好も同じですし、姉の代わりになりましょう」

 招待客も来ている。
 姉の友人には釘を刺して、私はベールを被って姉として彼と結婚式を上げた。

 私は彼が好きだった。
 姉が婚約者に選ばれ、私は両親に姉でなく私に変えてほしいと言ったが、無理だった。
 彼は姉を選んだのだ。
 私の我儘を聞いてくれてた両親は、こればかりは受けいれてくれなかった。
 私は姉が従者のことを好きだったのを知っているので、この結婚は姉にとっても彼にとっても良くないことだと思っていた。
 姉は彼を愛することはないだろう。

 姉は昔から大人しい人だった。
 男子に恵まれなかった両親は、姉を当主にするため教育を施した。
 その点、私は放置。
 いい嫁ぎ先が見つかるようにと、淑女の教育は受けたけど、帳簿の書き方など実務的なことはほとんど習わなかった。
 美しいドレス、最新の髪型。
 その反面、姉は質はよいが地味なドレスを与えられる。
 婿とはいえ、伯爵になれるのだから、こちらか努力しなくても相手はいる。
 両親はそういう考え方だったため、姉の服装や髪型について、私のようにお金をかけることはなかった。

 一年前、私が前から憧れていた公爵様から姉に婚約の申し出があった。
 両親は私のことではないかと問い合わせたけど、姉当てだった。
 公爵は王族に連なる方々で、申し出を断ることは難しかった。

 選択肢はなく、婚約を受けた。
 私は必死に両親に訴えたけど、全然話を聞いてくれなかった。
 なぜ、姉なのか、私にはわからなかった。
 公爵が来られた時、私も無理やり挨拶をした。
 公爵が姉を見る表情は、執事が姉を見る表情と同じだった。
 姉はいつもの笑顔で公爵様に挨拶をする。
 いつもの笑顔は執事以外、誰にでも向けられる作られたものだ。
 二人が恋人らしき振る舞いをしていたところなんか、見たことがない。
 もししていれば、父は直ぐに彼を解雇しただろう。

 私はお茶会に参加して、公爵と姉、執事の顔を眺める。
 執事を見るときに姉、それを見つめる公爵。

 ああ、彼も気が付いているのか。
 それなのに、彼は何も言わなかった。

 結婚式当日、姉が謝罪をして、彼に背を向ける。
 公爵様は姉を罵ることもなく、ただ姉と執事の後ろ姿を見送っていた。

 私は姉の代わりに、公爵様と結婚した。
 けれども形だけ。
 彼は初夜も私に触れることはなかった。
 姉の代わりなんて、すぐにわかることで、醜聞が社交界に広まった。
 公爵様は弁解すらしなかった。
 公爵家の使用人は皆私に冷たかった。
 それはそうだろう。
 式など挙げる必要なかった。
 結婚式を逃げ出した姉に、我が家に責任を負わせ、ただ式を中止にすればよかったこと。
 その通りだ。
 公爵様に非は何一つない。
 だけど、彼は私の提案を受け入れた。

 私は姉の振りをして彼の側にいる。
 使用人から食事を抜かれ、酷い言葉を投げかけられる。
 こんな態度を取られたのは初めてで、泣くこともあった。
 だけど、私は彼の隣に居続けた。
 姉の代わりとして。

「一か月か」

 姉が執事と逃げ出して、彼と私が結婚して一か月たったある日、彼がしみじみと語った。

「君は本当に我慢している。あの屋敷にいた君とはまるで別人だ。本当に、ダリアがそこにいるみたいだ」
「そうでしょう?私はあなた様に姉の代わりになると言いましたから」
「そうだな。似ていない姉妹だと思っていたが、本当はこんなに似ていたんだな」

 姉の振りをするようになって、私は姉と私が本当によく似ていることに気が付いた。
 二か月、三か月と姉の振りを続けて、社交の場にも出ていると悪評が消えていった。
 私は改心したと思われるようになった。
 屋敷の者たちも、私のことを少しずつ受け入れるようになってきた。
 半年後、私は偶然姉と執事を見た。
 平民の恰好をした二人はとても仲がよさそうだった。
 姉が心の底から笑っていて、それはまるで私のようだった。
 あの奔放だった私の。

「あの女。旦那様に言いつけてやりましょう」
「ごめんなさい。見逃してくれないかしら。ほら、平民で苦労しているみたいだし」

 姉のまとう服がぼろぼろで、髪も以前のように艶がなかった。
 執事も顔に傷があり、苦労していることが見て分かった。
 それを見て使用人は留飲を下げたようだった。

 結婚してから一年、公爵様が初めて私に触れてくれた。

「…リア」

 そう呼ばれ、私は姉の身代わりだったことを思い出す。
 気持ちが冷えてしまったけど、跡取りは作らないといけない。
 今は父が伯爵当主だけど、跡取りはやはり私の子供だと思っているらしい。
 なので、私は沢山子供産んで、一人実家を継がせることになっている。

 公爵様は姉の代わりに私を愛する。
 使用人も姉の代わりの私を大切にしてくれるようになった。
 私ではなく、姉だから。

 突然両親が訪ねてきた。
 両親は、姉ではなく、私として扱ってくれたけど、聞かれるのは跡取りのこと。
 私はまだ妊娠していない。
 結婚してから一年もたつのにと、両親は思っていたらしい。

 私が愛されると思っているのかな。
 彼が愛したのは姉だったのに。
 唯一の味方だった両親が可笑しく思えた。

「……リア」

 優しく私を抱きしめる公爵様。
 いえ、姉を。
 私は一生姉の振りをする覚悟があったはず。
 だけど、今は毎日がこんなに辛い。
 本当の私はこうではない。
 だけど、本当の私は誰にも求められていない。
 自分で決めたこと、でもとても辛くなった。

「セシリア。どうして食べないんだ?そのままだと死んでしまうぞ」
「旦那様。申し訳ありません。食べようとしているのですけど」

 結婚してから初めて名前を呼ばれた。
 姉ではなく、私の名前を。

「どうか、食べてくれ。君がいなくなったら私はもう二度と立ち直れない」
「……旦那様」

 私は間違ったかもしれない。
 姉の振りなどせず、彼を解放してあげればよかった。
 姉の振りをした私ではなく、新しい相手と彼は結婚すべきだったかもしれない。
 だけど、切なそうな彼の背を見た時、私は走り出して、馬鹿な提案をしていた。

「セシリア」
「旦那様。無理に私の名前を呼ぶ必要ありません。私は姉の代わりにあなたに嫁ぎました。だからいつものように、ダリアとお呼びください」
「いつものように?どういう意味だ?私は一度もそう呼んだことはなかったぞ」
「嘘ばっかり、あなた様はいつも寝室で姉の名を呼んでいたではないですか」

 驚いた顔をして否定されてしまったので、私はむきになって返してしまった。
 この時、私はもうすべてを諦めていたから、強気に出れたかもしれない。

「寝室で……?リアと呼んだことはあるが、それは君のことだ。ダリアのことではない」
「嘘。そんな優しい嘘はつかなくてもいいです。今更」
「今更……。君はもしかして、私がダリアの代わりに君を抱いていたと思っていたのか?」
「はい」
「なんてことだ。いつからそんな誤解を」
「初めからです。私は姉に成り代わり、あなたと結婚しましたから」
「そうだな、そうだった。初めの三か月、私は君がダリアの振りを見て、ダリアの姿をした君が傷つくのを見て楽しんでいた。当然の報いだと思っていた。だけど、君が努力して色々なことに慣れようとしている姿を見て、徐々に私の気持ちは変わっていった。そうしてダリアではなく、君を愛するようになっていた」
「……信じられません。あなたが愛しているのは姉です。私ではありません。私はいつも姉の振りをしていましたから」
「ダリアの振り?全然違うだろう。社交での振る舞いなど、それは以前の君とは異なるようだが、ダリアの振る舞いではない。彼女はあんな風に皆に話しかけたりしなかっただろう?君はそれをしていた。君が持っている華やかさに引き付けられ、多くの人が魅了されていった。私はそれが酷く面白くなくて、それも私の気持ちを変えていった要因だな」
「……信じれない」
「どうしたら信じてくれる?私は君を愛している。セシリア」

 私は彼の問いに答えられなかった。
 答えが得られていないのに、彼はもう一度結婚式をすると言いだした。
 確か一回目はベールを被り、ダリアとして彼と結婚したからだ。

「ウエディングドレスを作り直す。そのために寸法が必要だ。今のままでは正確な寸法が図れない。ちゃんと食べてくれるね?」

 私は信じられない思いでただ頷いた。
 それから奇跡のようなことがたくさん起きて、私は私として周りから認められていることを知った。
 二か月後、結婚式を一週間後に控えたある日、私の妊娠がわかった。
 お腹は目立たないけど、締め付けるのはよくないため、急遽ドレスの形を変更した。
 そうして一週間後、結婚式を上げる。
 ダリアではなく、セシリアとして。

 数年後、姉を再び見かけたことがあった。
 姉はみすぼらしい恰好をしていたけど、子供もいて、楽しそうに街を歩いていた。
 姉にとって、自然な笑顔を浮かべられる相手と過ごせるようになったことは幸せかもしれない。
 いつか姉とちゃんと話せる日が来たらいいなと思っている。今の姉なら色々話してくれそうな気がする。

「セシリア」

 彼は私の名を呼んでくれる。
 姉ではなく、私の名前を。

(完)
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