『憂国のモリアーティ』に見る近代社会思想史

野咲

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弁証法

モリアーティ・プランの根幹を貫く、モリアーティの史観 

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 一番最初に、憂モリを読んでいてお? と思ったのは、アルバート・ジェームズ・モリアーティがアイリーン・アドラーに、犯罪卿(モリアーティ)の目的は「階級社会から完全自由社会への弁証法的発展」であると語ったシーンです。弁証法による史観と国家観! てテンション上がった方も多いシーンではないでしょうか。弁証法と言えば一般にはヘーゲルが体系化した物事の理解の方法、法則を指すものと思われますが、このアルバートの説明の仕方だと、マルクスによる唯物史観もちらっと頭をよぎります。

 ヘーゲルの弁証法というのは、命題(テーゼ)とそれに相反する命題(アンチテーゼ)の矛盾を明らかにしていくことで、統一した本質的な命題(ジンテーゼ)が現れるというものです。ヘーゲルはこの弁証法を歴史に適用し、歴史とは精神が自由を希求するその過程であり、そのうえで起きる精神の葛藤や矛盾、そしてそれらを統一し完成していく運動であるとしました。つまり、人間は最終的に自由の実現された社会へいたる、我々はその進歩の途上にいるのだという進歩史観を示したのです。もう一つ、「家族」、「市民社会」、そしてそれらを統一し調停する「国家」という概念があるのですが、大胆にはしょって今言いたいところだけを説明すると、人間が個の自由を維持しながら、孤独や分裂した市民社会に陥らないようにするための、統合された概念が「国家」であり、国家は自由の実現のための共同体であるというものです。
 現在の我々の知識に照らして言えば、進歩史観というのはそのままでは受け入れがたいものですが、ヘーゲルの思想が当時の人々に与えたインパクトは大きいものでした。また、ヘーゲル史観の根底にある弁証法は、今でも十分に運用できる論理です。
 モリアーティが「階級社会から完全自由社会への弁証法的発展」と言ったとき、このことばだけでは細かい論理展開は理解不能ですが、上記のようなヘーゲルの史観と国家観をある程度引いたものであることが想像されます。おそらく、モリアーティは進歩史観を持っていると思います。そして国家のあるべき姿を「自由の実現された共同体」であるととらえているのではないでしょうか。この史観は、現在の我々の視点から端的に言えば、正しいとは言えないかもしれません。しかし、このヘーゲルの思想は、現在に至る近代国家を作る思想の礎になったものです。さらに言うと、モリアーティはヘーゲルの国家観から一歩進んだ主張もおこなっています。
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