『憂国のモリアーティ』に見る近代社会思想史

野咲

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弁証法

モリアーティ史観の唯物論的特徴

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 ヘーゲルは、精神が歴史を動かすとしましたが(観念論的)、これに対し、物質的な生産力と生産関係の矛盾が歴史を動かすとしたのが、マルクスの唯物史観(史的唯物論)です。唯物史観も、歴史を弁証法を用いて説明します。生産力がある程度大きくなってくると、それまでの生産関係との間に矛盾が生じるようになる。この矛盾が革命を起こし、共産主義社会を実現させる、つまりマルクスの進歩史観では人類が最終的に至る社会は共産主義社会ということです。
 アルバートは人類が最終的にいたる社会を「完全自由社会」と呼びました。この結論だけを見ると、モリアーティ史観はヘーゲルの思想に近いもののように思われますが、しかしその結論を導き出す弁証法の運用の仕方は唯物論的です。物質的な相反するものの矛盾を統一することによって高次の概念があらわれるというのが唯物論的な弁証法です。モリアーティの考えた相反する矛盾、それは階級制度でした。階級制度によって引き裂かれた社会が統一されれば「完全自由社会」に到達できる。この点だけを抽出すると、今度はマルクスの思想に近いようにも思われます。
 しかし、モリアーティは階級闘争によっておこる「革命」を否定しています。むしろ、「革命」を回避するためにこそ、彼は犯罪卿になったと言っていいでしょう。そして、このモリアーティの革命批判にこそ、彼の思想の唯物論的な特徴が最も現れています。
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