もつ者は主人公になる

せにな

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第十四話  スハーハックス

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 早い早い早い早い早い早い。神楽坂。その顔を浮かべるのはまだ早すぎる。

 龍馬がレジを済ませている間、遠くから二人の様子を見ていた真斗が心の中でぼやく。

 なぜ膨れっ面をする?なぜ嫉妬の目をしている?まだお前にその役割は回ってきていない。勝手にアドリブを出すな。孤高のヒロインが序盤でそんな顔をして良いと思っているのか?ダメだぞ?俺が許していない。主人公である俺が許してないんだ。この物語は面白いものになるはずなんだ。だからお前はアドリブを挟むな。俺が予想できないことをするな。

 あまりにも傲慢な考えをする真斗は顔をこわばらせていた。だが、龍馬が会計を終えるとその顔は綺麗に消えてしまい、純粋な笑顔が浮かび上がってきた。

「今日買った服ちゃんと着ろよー?」
「遊びに行く時だけな」
「よーしー」

 買った服を着るという約束をした真斗は喜びながら拳を握り、美夜と李恋を探すためにグーから出る。

 次、この物語を崩そうというのならばお前はヒロインじゃなくなる。3度目はないと思え?

 心の中で最後にぼやいた言葉は心の奥底に沈め、相変わらずの元気そうな顔で2人を探すために周りを見渡しだす。

「いたいた~って、白石さんスハーハックス飲んでんじゃん」
「いいでしょ~」

 グーの前にあるスハーハックスで飲み物を買った李恋は真斗に見せつけるかのように美味しく飲み始める。
 どうやら、スハーハックスで飲み物を買ったのは李恋だけのようで、美夜は先程とは打って変わってツンとした表情に戻っていた。

「うわっ、白石さん性格わっる。俺も飲みたくなるじゃん」
「飲め飲め~うまいぞー?」
「そんなに言うなら飲んでやるわー。俺は別に飲みたくないけど、白石さんがそんなに言うんなら仕方ないなー」
「うっわ、私のせいにしてるー」
「一人暮らしの財布だからなー。でも、白石さんがそんなに言うからなー」

 あくまでも李恋が言うから買う、というスタンスを貫く真斗は財布を取り出し、スハーハックス前にあるメニューに目を向ける。

「俣野も飲むか?」
「いや、俺は良いや」
「そうかー」

 龍馬が買わないことに反応を返した真斗は自分が買うものを決め、レジへと向かう。

「俣野くんって甘いの苦手?」
「嫌いではないけど、好んでは食べないね」
「へぇ~」

 どうやら自分とは気が合わないと思ったのか、李恋は龍馬との会話を打ち切り、注文を受け取ろうとしている真斗の方に向かっていった。

「神月くんは甘い物好き?」
「めっちゃ大好き。甘い物を作ってくれた偉人には心の中から尊敬するほど大好き」
「私と一緒じゃん!」
「おっまじで?」
「まじまじ!ほんと甘い物作ってくれた偉人には尊敬しかないよー」
「だよな~」

 李恋と同じ飲み物を受け取った真斗は李恋と楽しそうに話しながら、静かな空間にいる美夜と龍馬の元へ帰って行く。
 龍馬は先程、真斗が李恋の手を握ったことを気にしているのか、どことなく不安気な表情を浮かべていた。そんな様子に気がついていた美夜だったが、真斗同様に声をかけることはなかった。

「これからどこ行く~?」
「俺はどこででも楽しめる自信あるから3人に任せるわー」
「確かに神月くんなら楽しめそっ」

 真斗の言葉にはにかむ李恋に対し、次は龍馬が話し掛けていく。

「俺もどこでも良いよ」
「なら、私と美夜で決めるね」

 龍馬が言葉を発すると、多少の笑顔は残っていたものの、真斗と話していたほどの満面の笑みは消え失せて素っ気なく反応した李恋。

 だから言っただろ。なんでも良いという言葉はダメだって。俺みたいに一番初めに言うか、笑いに変えて言うのなら大丈夫だが、2人っきりの時、もしくは2番目、3番目の時はなんでも良いから言っておいたほうが良いぞ?特にこういう系の女子ならなおさらな。

 龍馬からこれから変えていく、という意思を感じていた真斗だったが、女子を前にすると真斗のアドバイスは頭から離れてしまい、また同じミスをしてしまった龍馬。そんな龍馬に哀れみの目を向ける真斗は自分の好感度を上げるために1つだけ提案を上げる。

「あ、みんなが良いなら一階にあるアイス屋行かねー?白石さんと甘いものについて語りたいし?」
「おーっ!良いねそれ!私は大賛成ー!」
「私もいいけど」

 大きく手を挙げる李恋と、実は甘い物好きを隠している美夜は食い気味に真斗の提案を肯定した。
 当然、龍馬はどこでも良いと言ってしまったので拒否権はなく、3人は龍馬の言葉を聞く前にエスカレーターで下に降り、アイス屋に向かうのだった。
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