監獄の部屋

hyui

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花婿面接

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「花子さん。僕と、結構して下さい!」
「はい!喜んで!太郎さん!」


太郎の意を決したプロポーズ作戦は見事成功した。2年間の交際を経て、二人はようやく夫婦になろうとしていた。

「ご両親にもご挨拶に伺いたいな。今度、会わせてくれないかい?」
「え…?」
一瞬、花子が戸惑いを見せた。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ。嬉しいわ、太郎さん。でも私の両親、ちょっと変わってるから…。」
「構わないよ。僕は君の両親も含めて、愛したいんだ。」
「う~ん…。」
「何をそんなに悩んでるんだい?」
「…いいえ。わかったわ。じゃあ、来週の日曜、私の家に来てちょうだい…。」


一週間後…。
「ええと、ここ、だよな…?」
太郎は花子の実家前に来ていた。門前に大きく、

「花子花婿面接会場」

と書かれた看板が立っている。
「随分と大げさだな…。」
太郎が看板を眺めていると、中から花子が出て来た。
「太郎さん!よかった、ちゃんと時間通り来てくれたわね!」
「ああ、花子さん!もちろんだよ!でも少し緊張してて…。」
「無理もないわ。でもあなたの思ってることを正直に言ってくれれば、父さんも母さんも認めてくれるはずだから。」
「うん…。」
「さ、入って。」


家に入ると、二人の男がパイプ椅子に座っていた。二人ともジロリとこちらを見る。
一人は金髪でダボダボな服を着て、見るからにチャラ男。
もう一人は、パリパリのスーツに七三分け。糞真面目な印象を受けるメガネ男だった。

「え…?花子さん、この人達は?」
「ああ、気にしないで。いつも誰かしら応募が来るの。でも実際に付き合ったどころか、顔も知らないような人も来ちゃうのよ…。」
「花子さん!今年こそは絶対に受かってみせますよ!」
顔も知らないと言った途端にメガネ男が意気込みをみせる。
「それじゃ、頑張ってね。太郎さん。」
「ああ、うん…。」


しばらく待っていると、扉の向こうから声がした。
「どうぞ、お入り下さい。」
その声に続いて、太郎達三人は部屋に入っていく。
「失礼します。」
「失礼いたしますっ!」
「ちぃ~っす…。」

中では両親らしき男女が、長机越しにこちらを見ていた。
「どうぞ。お座り下さい。」
両親と向かい合う形でパイプ椅子が三つ並べられていた。
「失礼します。」
「失礼いたしますっ!」
「ちぃ~っす…。」

「そちらのあなた。」
父親が金髪の男を指差した。
「なんすか?」
「お名前は?」 
「俺っすか?茶良井出っす。」
「ちゃらいで君。君はもうおかえり頂いて結構です。」
「は?何でっすか?意味わかんねんすけど?」
「こちらの求める人材像に合致しなかったためです。申し訳ありませんが、お引き取りください。」
「マジかよ。やってらんねえな。まったく…。」
ブツブツ言いながら、茶良井出は出て行った。
(ど、どうやら下手なことをすると、すぐに追い出されてしまうようだ。何とかうまくやらないと…。)

「さて、面接を執り行う前に自己紹介をさせていただきます。花子の父です。」
「母です。」
ご両親が挨拶をした。
(まあ、何となく予想はしてたんですが…。)
「ではこちらの自己紹介が終わったところで、あなたがたの事も教えて頂きますでしょうか。お一人5分ほどでお願いします。」
(え?5分?聞いてないぞ!)
「では、そちらの方からどうぞ。」
まずは眼鏡の男が指名された。指名と同時にストップウォッチを母親が押す。

「はい!私は七三 分男と申します。26歳です。T大学卒で在学中は文学サークルで活動しておりました。ゼミはT教授を専攻しており…」
(おいおい、マジかよ。この男。なんでこんなスラスラ言えるんだ?まるで予め用意していたようだ…。)
「…この度は花子さんの花婿となるべく、ご両親にご挨拶に伺いました。どうかよろしくお願いします。」
言い終えると同時にストップウォッチがなった。ジャスト5分だ。
「なるほど。よく分かりました。」
(この男。間違いない!今日のために相当準備してやがる!そうでも無けりゃ、この応答で5分ジャストなんてありえない…!)
七三が太郎を見ながら、隣でドヤ顔で眼鏡をずり上げていた。
(こいつ…!こいつには絶対負けない!)

「では、次の方。どうぞ、お話ください。」
太郎の番が来た。
「は、はいっ!山田太郎と言います!歳は26。会社員をやってます!お嬢さんとは2年ほどお付き合いさせていて…」
太郎の自己紹介が始まった。だが…。
「…それで、あの、ええと…。」
(駄目だ!言葉が続くない…!)
しどろもどろのうちに、ストップウォッチが無常にも鳴り響いた。
「はい。結構です。そこまでで。」
(くそっ…!このままじゃ、眼鏡野郎に負けてしまう!なんかそんな気がする!)


「では、次の質問です。あなたが花子と結婚したい理由はなんですか?また、今日に至るまで何人かの女性も見て来たかと思いますが、花子でなければならない理由はなんですか?10分ほどでお答え下さい。」
(ここだ!ここでしっかりアピールしないと!)
「では、太郎さんから。」
「は、はい!花子さんにはまず、会社でのコンパで知り合いました。一目惚れでした…。僕の方から告白したんです。それから交際が始まりました…それで…」

太郎のアピールタイムが始まった。花子との交際中の出来事を通じて、彼女の魅力に惹かれていったこと、今まで色んな女性と付き合ったがこんなに心安らげる人はいなかったこと…。
「…それで、こんな喧嘩もしたことがありました。あの時は…。」


ピピピピ!ピピピピ!

無常にストップウォッチの音が鳴る。
「はい。結構です。そこまでで。」
(しまった!今度はオーバーしてしまった!これもマイナス点か!?)
無念そうに座る太郎を横目に、七三はニヤニヤ笑っていた。
「では、つぎは七三さん。お願いします。」
「はい!私は花子さんのことは小学生の頃から想いしたっておりました。他の女性のことなど考えられません!」

次は七三のアピールタイムが始まった。中学時代の花子。高校時代の花子。大学時代の花子。そして現在の花子。どの花子も素晴らしい人だったこと。自分が一途に花子のことを想い続けていたことを語り続けた。

「…以上のことから、私は花子さん以外との結婚は考えられないのです。どうか、よろしくお願いします。」

ピピピピ!ピピピピ!

またしても10分ジャスト。
「結構です。どうぞお座り下さい。」
「失礼します。」
ドヤ顔で七三がすわる。
(この野郎…!答えが完璧な上に、時間ぴったりだ!女性経験もないと答えたほうが、純粋アピールできたんじゃないか?くそっ、しまった…!)

トントン、と母親が書類を整理し、何事かを父親に呟いた。
その後、父親が立ち上がり言った。
「選考の結果が出ました。七三さん。」
「は、はいっ!」
「今日はもうお帰り下さい。」
「え…?」
部屋からの途中退室。それは選考での不合格を意味していた。
「な、なぜですか?受け答えも完璧だったし、時間配分もベストだったのに!」
「完璧すぎたのです。」
と、母親が足元から一冊の本を取り出した。
「あなたはこれを参考にしたのでしょう?」
本のタイトルは、「必勝!花子花婿面接の出題と傾向」と書かれていた。

「ど、どうしてそれをあなたが…!」
「何故って…。この本の著者は私達なんですから、持っていて当然でしょう。」
「そんな…!」
「あなたの答え方はこの本の30ページと126ページに書かれていたものですね?」
「そ、そうです!この日の為に必死に暗記したんです!一字一句も間違えずに…!」
(それはそれですごいな…。)
半ば呆れ顔の太郎をよそに、七三と両親の問答は続く。
「七三さん。あなたの努力は評価します。あの本を一字一句間違えずに覚えるなんてなかなかできることじゃない。しかし、あなたの努力は、所詮この面接で上手に立ち回るようにするための努力にすぎません。」
「そ、そんなことは…。」
「結婚も就職も同じです。会社で例えれば、みな上手いことを言って面接を通り、意気込み勇んで仕事を始めてみたら思いもしなかったことが次々おこる。その時思うのです。こんなはずじゃなかった。こんなところとは思わなかった、とね…。」
「……。」
「あなたには、あの質問の意図を汲んでほしかった。残念です。」
「はい…。」
「貴殿の今後の恋愛活動のご多幸を心よりお祈り申し上げます。」
がくりとうなだれながら、七三は出て行った。

それからも、様々な質疑応答がなされ、やがて、終了時間となった。
「さて、太郎さん。」
「は、はい!」
「これにて面接は終了いたします。お疲れ様でした。」
「は、はい!」
「詳細は追ってご連絡します。お帰りに気をつけてください。」

「お疲れ様!太郎さん!」
家の外で花子が待っていた。
「花子さん…。俺、どうなったのかな?」
「二人ともすごく喜んでたよ!いい人が来てよかったって!合格だって言ってた!」
「ほ、本当かい!」
「それとこれ、パパとママから!」
「手紙?何だろう?」
期待に胸躍らせながら、太郎は手紙を開いた。

【《~二時選考のお知らせ~》
一時選考の通過、おめでとうございます。つきましては二時選考を実施いたしたいので下記の日程でお越しください…】
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