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警察官青島の場合
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「チョウさんが……。そんな……。」
聞き込みから戻ってきた刑事、青島が帰って早々に聞かされたのは、相棒であり師でもあるチョウさんの訃報であった。
その日、警察署内で二人の遺体が発見された。
一人は首を切断された上に舌を抜かれて見つかった婦警の遺体。
もう一人は全身に銃弾を受けて絶命した姿で見つかったチョウさんの遺体だった。
被害者は現役の警察官、容疑者は警察署の署員全員と、前代未聞の大事件となっていた。
警察署の取調室にて、青島はその件で他署からやってきた刑事から取り調べを受けていたのだった。
「……なんか、信じられないっす。警察署の奴らがチョウさんを蜂の巣にしただなんて……。」
「全くその通りだ。こんなことは警察始まって以来の醜聞だ。こちらとしては迷惑この上ない。」
他署の刑事の冷たい態度に、青島はムッとして答えた。
「……なんすか?その態度。自分たちと同じ警官が二人も死んでるんですよ?それを厄介ごとみたいに……。」
「事実、厄介ごとだろう。警官が二人死んだ上に容疑者は警察署内の職員全員だからな。おかげでこうして別の署の俺がお前さんの取り調べをしなくちゃならん。こっちも暇じゃないってのに。」
「だからってそんな言い草……。」
「もういい。お前と言い争いする為にここに来たんじゃないんだ。本題に移るぞ。」
まだ噛み付こうとする青島を尻目に、刑事は淡々と質問を始めた……。
「お前たちの署内の職員は全員大量の髪の毛を喉に詰まらせて死んでいた。こんなことができるような奴に、何か心当たりは?」
「……無いです。」
「女の職員は首を切られて死んでいた。彼女に恨みを持っているやつに心当たりは?」
「ありません。」
「……被害者のチョウさんとやらは、普段誰かから恨みを買うようなことをしていたか?」
「……チョウさんはそんな恨みを買うような人じゃありません。皆んなに慕われる立派な刑事でした。」
「でもなんかあるだろ。蜂の巣にされなきゃならんくらいの事情が。」
「ありません。」
「……チッ。まあいい。それじゃ……。」
尚も他署の刑事は質問を続ける。だが結局これといった進展のないまま、取調べは終わったのだった。
「はあ…。」
うんざりした顔で取調室から出る青島の元に、誰かが近づいてきた。
「よう。オメエもこってり絞られたか。」
「あ……。ヤマさん……。」
チョウさんと旧知の仲だったヤマさんと呼ばれる初老の男だった。
「ひでぇ話だよなぁ。全くよ。あのチョウさんが見るも無残な死に様でよう。」
「ええ……。本当に……。」
「あの他署の奴らもムカつくよなあ。ズケズケとまあ、言いたくも無いようなことをあれこれと聞きまくってなあ。」
「全くですよ!同じ警官が死んだっていうのに、あの言い草は無いですよ!まるで厄介者みたいに扱いやがって…!」
怒りが収まらないといった様子の青島。そんな彼をヤマさんはなだめる。
「まあまあまあ……。そんなことより青島君。君はチョウさんの私物を何か受け取らなかったかい?例えば……携帯電話とか。」
「……そんなこと?」
「受け取っていないならいいんだ。邪魔したね。」
そういう時ヤマさんは、くるりと青島に背を向けて立ち去ろうとした。そんな彼を青島は呼び止める。
「ちょっと待ってください!チョウさんとあんたは長い仲でしょう!その人が殺された上に他署の連中に蔑ろに扱われてるんですよ!それがそんなことってどういうことですか!」
「どうでもいいじゃないか。もう終わってしまったんだから。」
「……なんだって?」
「終わったんだ。人の命は。死んだら終わり。泣いても怒っても返ってこない。だからどうでもいい。」
「そんな言い方……!」
その時、青島の脳裏に取調べの際に受けた言葉が脳裏に浮かんだ。
“署内の人間は全員大量の髪の毛を喉に詰まらせて死んでいた。”
「ヤマさん……。確かあんた、あの日に署内にいたはず…!」
青島の言葉が聞こえてないのか、ヤマさんは向こうを向いたまま語り続ける。
「あの子がねぇ。泣いてるんだよ。」
「……あの子?」
「撃たれたんだ。その子。ずっと泣いてるんだ。痛いよー、痛いよーって。」
「ヤマさん、あんた一体……?」
「痛いよー……。痛いよー……。」
……骨の軋む音がする。
ゆっくりと、ヤマさんの腕が、首が、ゆっくりと背後の青島に向けて曲がりはじめる。
「あの子がそう泣くんだ。あの子が…。“ミリア”が……。」
「ミリア……!?」
「痛い……。痛い……。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。」
ヤマさんの顔が青島に向けられた。瞳孔はあべこべに動き回り、口はダラリと開けられ、その中から髪の毛が伸びていた。
「っ!!うぅっ……!」
思わず青島は後ずさる。それはもう人ではなかった。まるで関節の壊れた人形のように、それは青島を見下ろしていた。
聞き込みから戻ってきた刑事、青島が帰って早々に聞かされたのは、相棒であり師でもあるチョウさんの訃報であった。
その日、警察署内で二人の遺体が発見された。
一人は首を切断された上に舌を抜かれて見つかった婦警の遺体。
もう一人は全身に銃弾を受けて絶命した姿で見つかったチョウさんの遺体だった。
被害者は現役の警察官、容疑者は警察署の署員全員と、前代未聞の大事件となっていた。
警察署の取調室にて、青島はその件で他署からやってきた刑事から取り調べを受けていたのだった。
「……なんか、信じられないっす。警察署の奴らがチョウさんを蜂の巣にしただなんて……。」
「全くその通りだ。こんなことは警察始まって以来の醜聞だ。こちらとしては迷惑この上ない。」
他署の刑事の冷たい態度に、青島はムッとして答えた。
「……なんすか?その態度。自分たちと同じ警官が二人も死んでるんですよ?それを厄介ごとみたいに……。」
「事実、厄介ごとだろう。警官が二人死んだ上に容疑者は警察署内の職員全員だからな。おかげでこうして別の署の俺がお前さんの取り調べをしなくちゃならん。こっちも暇じゃないってのに。」
「だからってそんな言い草……。」
「もういい。お前と言い争いする為にここに来たんじゃないんだ。本題に移るぞ。」
まだ噛み付こうとする青島を尻目に、刑事は淡々と質問を始めた……。
「お前たちの署内の職員は全員大量の髪の毛を喉に詰まらせて死んでいた。こんなことができるような奴に、何か心当たりは?」
「……無いです。」
「女の職員は首を切られて死んでいた。彼女に恨みを持っているやつに心当たりは?」
「ありません。」
「……被害者のチョウさんとやらは、普段誰かから恨みを買うようなことをしていたか?」
「……チョウさんはそんな恨みを買うような人じゃありません。皆んなに慕われる立派な刑事でした。」
「でもなんかあるだろ。蜂の巣にされなきゃならんくらいの事情が。」
「ありません。」
「……チッ。まあいい。それじゃ……。」
尚も他署の刑事は質問を続ける。だが結局これといった進展のないまま、取調べは終わったのだった。
「はあ…。」
うんざりした顔で取調室から出る青島の元に、誰かが近づいてきた。
「よう。オメエもこってり絞られたか。」
「あ……。ヤマさん……。」
チョウさんと旧知の仲だったヤマさんと呼ばれる初老の男だった。
「ひでぇ話だよなぁ。全くよ。あのチョウさんが見るも無残な死に様でよう。」
「ええ……。本当に……。」
「あの他署の奴らもムカつくよなあ。ズケズケとまあ、言いたくも無いようなことをあれこれと聞きまくってなあ。」
「全くですよ!同じ警官が死んだっていうのに、あの言い草は無いですよ!まるで厄介者みたいに扱いやがって…!」
怒りが収まらないといった様子の青島。そんな彼をヤマさんはなだめる。
「まあまあまあ……。そんなことより青島君。君はチョウさんの私物を何か受け取らなかったかい?例えば……携帯電話とか。」
「……そんなこと?」
「受け取っていないならいいんだ。邪魔したね。」
そういう時ヤマさんは、くるりと青島に背を向けて立ち去ろうとした。そんな彼を青島は呼び止める。
「ちょっと待ってください!チョウさんとあんたは長い仲でしょう!その人が殺された上に他署の連中に蔑ろに扱われてるんですよ!それがそんなことってどういうことですか!」
「どうでもいいじゃないか。もう終わってしまったんだから。」
「……なんだって?」
「終わったんだ。人の命は。死んだら終わり。泣いても怒っても返ってこない。だからどうでもいい。」
「そんな言い方……!」
その時、青島の脳裏に取調べの際に受けた言葉が脳裏に浮かんだ。
“署内の人間は全員大量の髪の毛を喉に詰まらせて死んでいた。”
「ヤマさん……。確かあんた、あの日に署内にいたはず…!」
青島の言葉が聞こえてないのか、ヤマさんは向こうを向いたまま語り続ける。
「あの子がねぇ。泣いてるんだよ。」
「……あの子?」
「撃たれたんだ。その子。ずっと泣いてるんだ。痛いよー、痛いよーって。」
「ヤマさん、あんた一体……?」
「痛いよー……。痛いよー……。」
……骨の軋む音がする。
ゆっくりと、ヤマさんの腕が、首が、ゆっくりと背後の青島に向けて曲がりはじめる。
「あの子がそう泣くんだ。あの子が…。“ミリア”が……。」
「ミリア……!?」
「痛い……。痛い……。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。」
ヤマさんの顔が青島に向けられた。瞳孔はあべこべに動き回り、口はダラリと開けられ、その中から髪の毛が伸びていた。
「っ!!うぅっ……!」
思わず青島は後ずさる。それはもう人ではなかった。まるで関節の壊れた人形のように、それは青島を見下ろしていた。
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