灼魂戦線

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1章

ハジマリノホウカイ

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かつて世界には獣が存在した。その獣は神と崇められ、世界の均衡を守る『守護獣』として神から2つ名を受けた。名付けられた名は『聖獣』。

獣の力は強大で、国を1つ変える程の力があったという。しかし、中には『聖獣』をよく思わない者もいた。
その者達により『聖獣』の悪用、殺戮道具として扱う者も出現した。

やがて『聖獣』の命が尽きた頃、獣の力を身に纏う『魂師』が誕生した。
『魂師』という存在は決して全てが善ではない。
人々は、『悪』を宿す『魂師』を『闇の魂師ダークスフィア』と『善』を宿す『魂師』を『光の魂師エクスフィア』と呼んだ。

そして半世紀が進み 旧界 崩壊前━━━━━━━━━


その夜は激しく豪雨が降り続いた。
膝をつき地面を殴る少年。

「嘘………だよね?」

薄茶色の髪に浸る雨の粒が地面に零れ落ちた。
 
「なんでッ!」

少年の目は流血し、激しい息切れもあった。
辺りは焼け狂い、燃え盛る蝶が宙を舞っている。
そして、世界は焼失した。

『兄さん…………ダメだ………』

その声が微かに聞こえ、少年は倒れた。
これが全ての始まり━━━━━━━


13年後━━━━━━━━━━━━━━

新界  南東独立国家 グローク王国

「ったく……なんでこんな日に!」
「王直属命令だぞ!仕方ないだろ!」

そんな会話がちらほらと聞こえてくる。そんな中を左目が隻眼の男があくびをしながら通り抜ける。

「そんなに嫌かね~」
 
死国アリス20歳、13年前の旧界全焼事件の被害者の1人である。

「アリスー!今日は新界設立記念日だろ!気長に行こうぜ~!」

刈谷 ナタ14歳、13年前の旧界全焼事件当時1歳。母、父共に焼死。

「うっせぇ…俺新界民じゃねぇし」

新界とは、旧界が焼失した13年前突如現れた『星獣』により創られた2次世界。アリスがいた旧界とは、世界である。


「お前ら仲良いのはいいが王の前では、はしゃぐなよ!」

上官らしき女がそう言うとアリスも言葉を返す。

「別に馴れ合う気は無いですよ。俺は旧界民ですし」
「アンタ……あのことをまだ…」

上官の悲しそうな目を見て、アリスは下を向き早歩きでその場を去った。
その直後、突如としてアリスの目の前が暗黒に包まれた。

「え………まだ昼だよな?」
 
戸惑うアリスの肩は、黒い霧により一回転した。
辺りを見渡すがアリス以外には黒い霧は見えていない様子であった。

「痛みが……ない?」

「なんだ………コレ……」

その瞬間アリスの背後で謎の囁きが聞こえた。

《カクセイ……イマ……ツナゲ…》

薄らと聞こえる声は、忽ち鮮明になっていく。アリスは後ろに振り向こうとするが、アリスの体は動くことすらできなかった。

「どうなってる!俺………アンタはッ!」

体は動かないが折れたはずの腕は、何故か動かせる。アリスが腕を前に出そうとした瞬間、掠れたと共に声は消えていった。

「なんのことだよ……『』って……」

アリスは、ため息を大きく吐くと暗転は戻り、元通りの景色に戻っていた。

「アリス!始まんぞ!記念式!」

ナタは困惑状態のアリスの腕を取り会場へ走り出す。
王と名乗る銀髪の青年とその横にはサングラスの掛けた男の視線がアリス達に飛び交う。

『これより、第12回新界設立記念式を始める!』

敬礼をする一同。その時アリスは左目に違和感を覚えた。息切れが止まらないアリス。その横でアリスを心配するナタ。

(クソ………なんだよコレ………)

アリスが頭を抱える中、式は着々と進行する。

『そして世界は生まれ変わったのです!この新界にッ!さぁ今1度祈りを込めて敬礼をッ!』

王の演説が区切りが着いた時、王国上空に数機の浮遊物が出現した。

「逃げろッ!」

アリスがそう叫んだ瞬間、鉄の塊が会場一帯に降り注ぐ。塊からはガスのような煙が噴出している。

「ガス物!?」

驚く王の右目に煙が入り込む。サングラスの護衛が王を建物の中へと退避させるが、王は右目を押さえ踠いている。


「嘘吐きだな貴様はッ!」

鉄の拳がアリスの目の前を通り抜け、ナタへと直進する。

「何がッ!」

空中から飛んで来るのは鉄鎧の男。アリスは拳に炎を纏わせ、ナタの頭部を守る。

「ナタッ!全員ここから退避させろ!」
「手から炎出てますけどッ!てかダメだろ!俺も戦わなきゃ……」

ナタの目の前、鉄球が迫り来る。アリスは手を伸ばすが届く距離ではなかった。

「ウォリャァァ!」
「シギ司令!」

シギと呼ばれるピンク髪の男は、鉄球を跳ね返すと前方へ大きく飛び移る。
男の方へ鉄球が向かうが、男は片手で鉄球を止めた。

「図に乗るな!ピンク野郎!」
「それはこっちが言うセリフだろ!クソ鎧がッ!」

鉄鎧の男がシギへ迫る。シギは腕で男を防ぐが、腕に掛かった鎖が割れあたりに飛び散った。

「あーあ……やっちゃったかー!鎧のクソがッ!ワシに傷を与えるには10年いや、1万年早いっちゅうことよ!ガキ共ッ!さっさと退避しやがれッ!」

そういうと、シギの腕がまるで風船のように膨らんでいく。

「ガンドッ!」

叫ぶと同時に破裂する腕。吹き飛ばされた男の鉄鎧が砕けていく。

「中まで粉粉じゃい!いくぞッ!」

シギが男に向かって、再び膨らませた腕で迫る。
男も手を前に構え、臨戦態勢でシギを迎え撃つ。

「なってないな!老いぼれジジイッ!」
「老いぼれ?舐められたもんやのう!」

ぶつかり合うシギの腕と男の掌が相殺し辺りの建物を吹き飛ばす。

「ナタッ!行くぞッ!」
「ま、待てよッ!アリスッ!」

吹き飛んだ瓦礫に隠れながら、アリスとナタは会場の外へ走る。走り出した直後、アリスの左目が再び疼き出した。

「グアァァァァ!」

アリスは理性を失いそのまま崩れ落ちる。ナタの額には大量の汗が込み上げ、アリスを抱え会場の外へ向かう。

「なぁ鉄鎧よ!貴様目的はなんだ!」
「語る必要あるか?無いな!1つ言うなら……『闇の魂師』が再臨したというか…」

男が笑みを浮かべながら手を広げる。

「アホくせぇッ!『闇の魂師』は13年前に『七聖獣』と共に滅んだんだ!再臨とかもはやありえんだろッ!」

シギと男はそう話すと再びぶつかり合う。

━━━━━━━━━━━━━━

旧界跡地 13街道━━━━━━━━━━━━

『旧界崩壊から13年、新界と称されたこの世界に再び闇が降りかかろうとしています。そして13、『七聖獣』、『魂師』すべてが繋がる時世界は滅びを迎えるのです…』

ラジオの音が周囲に響く。そして水を啜り岩にすがるフードの女が1人。水が入った器を岩の上へ置き軽く背伸びをした。

「はぁ~……ようやく来たかッ!」

そう言うとニヤッと笑みを浮かべ、ラジオを片手で止め器に入った水を飲み干す。

「13年………案外早かった!『魂師』の時代が再び始まる!」

女はそう言うと立ち上がり、勢いよく砂漠を駆け出した。

「さぁて……私も動きますか!」

━━━━━━━━━━━━━━

グローク王国 記念式会場外 ━━━━━━━━━━

「おい!アリス!お前は何なんだ!急に炎を腕に纏ったりッ!急に苦しみ出したりッ!」
「分からない…俺にも何が起きているのか…」

落ち着いたアリスと不安が滾るナタ。2人は何とか激戦区から外へ出ることに成功していた。
気を落としているアリス。そして、止めどなく鼓動するアリスの心臓。

(おかしい……俺は……何者なんだ?)

焼けるように熱くなる心臓。苦しげな表情を浮かべアリスは立ち上がる。

「アリス……大丈夫なのかよ……」

気落ちするアリスに困惑状態のナタ。アリスはナタの方をチラッと見て前を向く。

「気にしなくていい……俺とお前じゃ背負う物のデカさも違うだろ」
「なぁ……その『新界民』とか『旧界民』とか今の世界に関係ないだろ…」

ナタのその言葉に対し、アリスは無言で前へと歩き始める。ナタはその瞬間のアリスの変化に気付いていた。

「俺はもうの人間かもしれない!この感覚が正しいならば……」

アリスの頬にわき出る汗の粒。
アリスは、汗を拭いながらシギ達のいる会場へと向かい始める。ナタも気づいた時には、足が前に進んでいた。

━━━━━━━━━━━━━━

グローク王国 記念式会場━━━━━━━━━

シギと鉄鎧の男は、血を吐きながらぶつかり合う。

「へッ!その程度か!鎧ッ!」
「うるさい!老いぼれがッ!」

シギの胸部に鋭い拳が入る。同時にシギの脳内に起こる、10秒間の意識消失。シギは大きく息を吸い込んで再び立ち向かう。

「立て直したか!クソ野郎ッ!」

(コイツ……急所の概念ないのかッ!並の兵隊なら骨折じゃ済まないぞ!)

「ハァッ!今のは良かった!だがッ!ワイの敵に値しないな!」

シギはそう言うと、両腕を膨らませ前へ突き出す。

「これがワイの最高火力よ!ガンドッ!」

「芸がないな!通用しないって言ってんだろ!」
「誰が……芸がないって?」

シギは腕の破裂は、先程のガンドとはほぼ倍の威力。その衝撃で鉄の鎧の男は地面に叩きつけられる。吐血と同時に、身に纏う鉄の鎧に亀裂が入る。

「ワイの能力、『ガンド』は腕の破裂で起こる空気圧を重力波に変える!そしてその上限は『魂師』に宿る『聖獣』の核の大きさの2だッ!」

「つまり上限の限界は俺の『魂師』の器のデカさで決まるっつうことか!」

『聖獣』には核が存在する。宿主の器の大きさによりその核は変動するのだ。男の核の大きさは『並上』。
そしてガンドの威力は男の2倍、鎧抜きの男のダメージは骨を砕く威力となる。

血を垂らしながら男は立ち上がる。笑いながらシギの方へ向かい、身に纏う鎧を地面に脱ぎ落とす。

「少し長引きそうだな!良いだろう!俺は、『闇の魂師』の1人ラグナ!そして断言する!この『新界』も『旧界』同様滅び始めている!既に我らの手中だ!」

「だったらッ!ワイが停めなきゃいけねーなぁ!」

そう言うと、シギは地面に突き刺さる槍状の鉄を片手で抜き取りラグナを迎え撃つ。
ラグナは、手から煙を発する鉄を拳に纏わせる。

「『鉄拳シルバー・フィスト』!」
「『初動重力波ガンド・ゼロ』ッ!」

シギは槍状の鉄に、微量の重力波を纏わせて鉄の拳へ向かっていく。
しかしその拳は鉄槍を粉砕し、ラグナの拳はシギの胸部へ。

その時、再び場内に戻ってきたアリス、ナタは無慈悲にも悲惨な現場を目撃する。
ラグナの鉄の拳がシギの胸元を貫いた。白色の服が大量の血で滲み、胸部から溢れ出す。

「シギ……司令……殺られたのか……」
「ビビってる場合かよ!まだだ!まだ終わりじゃない!シギ司令は手網を作った!その手網は俺が引き継ぐ!」
「アリスッ!お前はなんで……」

ナタが何かを言いかけるが、既にアリスは、左手に炎を纏わせラグナへ進んでいた。その左手の炎はやがてアリスの全身を覆っていく。
ナタの疑問全てが核心へ変わっていく。

「アリス……やはり聖獣フェニクスは……」

ナタはそう呟き足に力を入れる。
ドンッと音を立て、アリスへ鋭い斬撃が向かっていく。

「ナタッ!邪魔だッ!」
「うるせぇよ……人殺しッ!俺は、13年前お前の聖獣に……両親を奪われた!」

アリスの目は驚きを隠せず、背後から迫るラグナの一撃に気付かない。一撃がアリスの後頭部を目掛けて降りかかる。その時アリスの炎が後頭部へ移動した。

「え…………何コレ……」

アリスは我に返った。アリスの中の数秒間の記憶が吹っ飛んだような感覚。その瞬間、アリス自身の全ての違和感がひとつに繋がった。

「ナタッ!何がどうなってるんだ!コレッ!俺の身体ッ!」
「死ねよッ!死国アリスッ!お前がした事を俺は絶対許さないッ!」

ナタは剣を大きく振り切ると、体制を建て直して再びアリスに鋭い斬撃を繰り出す。

(は?訳分かんねー!今の数時間俺は何を考えていた!俺は今の俺なんだ!)

アリスが前を向いた瞬間、再び世界は暗転した。
アリスは、先程とは違う違和感を感じた。

暗闇の中で掠れた金属音だった音が、鮮明に響き渡っている。そしてアリスの目の前には、フードを被るアリスと瓜二つの顔の人物が1人。

1の俺……」

アリスの脳内は既に限界に達していた。アリスの背中は目の前の出来事に凍り付く。

(やっぱり……俺は……)

「汝に問う……汝は我を宿す覚悟はあるか?」

フードのアリスはそう言うと、アリスの前から姿を消す。

……お前はッ!聖獣フェニクスか!」

アリスがそう言うとフードのアリスは、アリスを背後から、炎の槍で突き刺した。

「さぁ……我の『魂師エクスフィア』よ……せよ……」

«セカイハ……ヒトツニ……»

その声がアリスの脳裏に響くと、アリスの腕に薄らと炎が宿った。

━━━━━━━━━━━━━━

1時間後
グローク王国 南西ゲート前━━━━━━━━━━

「あらあら……既に戦闘勃発中って感じ~?」
「ムニッ!はしゃぐな!もう手遅れだ……全て」
「遅かった……」
「ああ……今宵……」

黒装束の『魔能師』と名乗る5人組はそう話すとゲートを潜った。
ゲートの先では、王国が燃え盛っている。

「『新界』が終わる……ココが始まりの……」

その声と共に、炎上は王国全土へ飛び火していった。








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