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間もなく落とされる火蓋
蠢く悪意・2
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『私の名前は決して口に出さないでね、リン君にもお願いしたから、私は姿と気配消しの呪文で貴方達の様子は見てるから、ちょっとでも何かしようとすれば分かるからね』
カンナは淡々と言った。リンとナルジスが治安部隊の本拠地に入る際にやったことを、カンナがしていることになる。
『カンナ……ちゃん』
『久しぶりね、ラフィアちゃん、貴方のことは聞いたわ、一対一で黒天使と戦うんですってね』
ラフィアはカンナの話に黙って耳を傾ける。
『カンナちゃんは今どこにいるの』
『ラフィアちゃん達の近く、といった所かしら、ラフィアちゃんのポニーテール可愛いわね』
カンナは羨ましそうに言った。ラフィアの髪型が変わったことは見ていないと分からないことだ。
呪文で姿や気配を消していてはいるが、カンナは確かにいるようだ。
『……カンナちゃんは何がしたいの』
ラフィアは訊ねる。
これからラフィアは大事な戦いを控えているので、カンナが何の前触れもなく出てきたことはタイミングが悪い。
『私はリン君に用事があるの、ラフィアちゃんと話をしているのは、昔世話になった名残りって所ね。
ラフィアちゃんには悪いけど、リン君は借りていくわよ』
『リン君を物みたいに言わないで』
ラフィアはむっとなって言い返した。カンナの言い方が癪に障ったためだ。
しかしカンナはそれ以上話すことは無かった。
「大丈夫?」
声をかけたのはメルキだった。ラフィアは軽く頷く。
「か……いえ、ある天使とテレパシーで会話していました」
ラフィアは危うくカンナの名前を出しそうになり、慌てて言い直した。
カンナが何をするか分からない以上、迂闊なことは話せないからだ。
「ラフィアさんがテレパシーで話していたのはリン君と話していた相手と同じ?」
「多分、そうだと思います。名前を出さないようにって言ってましたので……」
「相手は大人? それとも子供かな」
「……子供です」
「ラフィアさんが知ってる人?」
「はい、リン君も確実に知ってると思います」
ラフィアは言った。それくらいなら話しても問題無いだろう。
「あの、テレパシーの主は姿と気配消しの呪文を使ってわたし達を近くで見ているんです」
「……臆病なヤツだな、コソコソしてないで姿を現せって感じだよな」
ユラは呟いた。彼の言っていることも一理はある。
「ユラ君、不用意な発言は慎んだ方が良い、相手は君のお兄さんを脅迫している上に、どこで見聞きしてるかわからないからね」
メルキはユラに注意した。ユラは「ちえっ」と不満げに舌打ちする。
「殺す」などと脅しているので、行動に移されたら困る。
「決めた。先生はここに残る」
メルキは少し考えてからその場で宣言する。
「どうしてですか?」
「生徒を危険な目に遭わせようとする天使を放っておけないからね、見ているなら尚更だよ」
リンの質問に、メルキか静かに返した。
先生としても生徒に害を与えようとしているなら無視はできないのだ。
「先生だけで大丈夫なんですか?」
ロウェルが心配そうな顔で訊ねた。
「心配いりませんよ、ボクは元治安部隊の人間ですから、荒事には慣れてます。ボクのことよりリン君のことは守ってあげて下さい」
メルキはロウェルに言うと、リンに向き直った。
「という訳だから、リン君、君は親御さんから離れないようにね、君を脅したヤツのことは先生に任せてくれ」
メルキの頼もしい口調に、ラフィアは安心した。メルキならカンナのことを上手く対処できる気がした。
「すみません、メルキ先生に僕の問題を任せたりして」
「気にしない気にしない、それより早く行くんだ。黒天使でも待たせたらいけないからね」
「メルキ先生、くれぐれも気をつけて下さい」
ラフィアはメルキの身を案じた。
「ラフィアさんも無茶はしないようにね、危なくなったら降参するのも戦いの一つだから」
「はい……」
後ろ髪を引かれる思いで、メルキを残し、一行は前に進み始めた。
黒天使が天界に侵入する前に、メルキは同僚のニルッタから連絡を受けていた。カンナがリンの命を狙っていることを。
よってカンナがリンに何らかの形で接触することも想定していた。
「……いい加減出てきたらどうかな、きみの正体は分かっているんだよ」
誰もいない廊下に、メルキが語りかける。
メルキの言葉に答える形で、地面から複数の鎖が出現し、メルキは後方転回してかわした。鎖の群れはメルキを逃がすことなく追いかけてきた。
メルキは腰に携えていた銃を手に持ち、蛇のように動きメルキの羽根に絡み付こうとした二つの鎖を素早く撃ち抜いた。撃たれた鎖は千切れて地面に落ちた。
「やっぱり先生を前だと、一筋縄ではいきませんね」
声の主は、廊下の柱から現れた。栗色の髪の少女……もといカンナである。
カンナの手には鎖が握られている。
「それはそうだよ、先生は生徒を守るためなら魔獣にでも魂を売り払うよ」
間を置かずにメルキは話を続ける。
「何で自分の名前を伏せるように、リン君やラフィアさんに言ったのかな」
メルキはカンナに質問を投げ掛けた。カンナは薄笑いを浮かべた。
「その方が面白いと思ったからですよ、二人とも予想通りの反応でしたね」
「成る程、二人を困らせて楽しかったってことか、それはいけないことだよ」
静かな声でメルキは注意した。リンとラフィアはカンナのテレパシーが元で振り回されたからだ。
「先生、そこを通して下さい、リン君を殺したいんです」
「駄目だよ、通せない、きみには教育が必要だからね」
メルキが念じると、拳銃に弾が全て補充された。
カンナの表情からして、本気でリンを狙っていると感じ取れる。カンナの口車に従って、リンを単独で会わせないようにしたのは正解だったと言える。
何があってもカンナを止める。メルキはそう決めていた。
カンナは淡々と言った。リンとナルジスが治安部隊の本拠地に入る際にやったことを、カンナがしていることになる。
『カンナ……ちゃん』
『久しぶりね、ラフィアちゃん、貴方のことは聞いたわ、一対一で黒天使と戦うんですってね』
ラフィアはカンナの話に黙って耳を傾ける。
『カンナちゃんは今どこにいるの』
『ラフィアちゃん達の近く、といった所かしら、ラフィアちゃんのポニーテール可愛いわね』
カンナは羨ましそうに言った。ラフィアの髪型が変わったことは見ていないと分からないことだ。
呪文で姿や気配を消していてはいるが、カンナは確かにいるようだ。
『……カンナちゃんは何がしたいの』
ラフィアは訊ねる。
これからラフィアは大事な戦いを控えているので、カンナが何の前触れもなく出てきたことはタイミングが悪い。
『私はリン君に用事があるの、ラフィアちゃんと話をしているのは、昔世話になった名残りって所ね。
ラフィアちゃんには悪いけど、リン君は借りていくわよ』
『リン君を物みたいに言わないで』
ラフィアはむっとなって言い返した。カンナの言い方が癪に障ったためだ。
しかしカンナはそれ以上話すことは無かった。
「大丈夫?」
声をかけたのはメルキだった。ラフィアは軽く頷く。
「か……いえ、ある天使とテレパシーで会話していました」
ラフィアは危うくカンナの名前を出しそうになり、慌てて言い直した。
カンナが何をするか分からない以上、迂闊なことは話せないからだ。
「ラフィアさんがテレパシーで話していたのはリン君と話していた相手と同じ?」
「多分、そうだと思います。名前を出さないようにって言ってましたので……」
「相手は大人? それとも子供かな」
「……子供です」
「ラフィアさんが知ってる人?」
「はい、リン君も確実に知ってると思います」
ラフィアは言った。それくらいなら話しても問題無いだろう。
「あの、テレパシーの主は姿と気配消しの呪文を使ってわたし達を近くで見ているんです」
「……臆病なヤツだな、コソコソしてないで姿を現せって感じだよな」
ユラは呟いた。彼の言っていることも一理はある。
「ユラ君、不用意な発言は慎んだ方が良い、相手は君のお兄さんを脅迫している上に、どこで見聞きしてるかわからないからね」
メルキはユラに注意した。ユラは「ちえっ」と不満げに舌打ちする。
「殺す」などと脅しているので、行動に移されたら困る。
「決めた。先生はここに残る」
メルキは少し考えてからその場で宣言する。
「どうしてですか?」
「生徒を危険な目に遭わせようとする天使を放っておけないからね、見ているなら尚更だよ」
リンの質問に、メルキか静かに返した。
先生としても生徒に害を与えようとしているなら無視はできないのだ。
「先生だけで大丈夫なんですか?」
ロウェルが心配そうな顔で訊ねた。
「心配いりませんよ、ボクは元治安部隊の人間ですから、荒事には慣れてます。ボクのことよりリン君のことは守ってあげて下さい」
メルキはロウェルに言うと、リンに向き直った。
「という訳だから、リン君、君は親御さんから離れないようにね、君を脅したヤツのことは先生に任せてくれ」
メルキの頼もしい口調に、ラフィアは安心した。メルキならカンナのことを上手く対処できる気がした。
「すみません、メルキ先生に僕の問題を任せたりして」
「気にしない気にしない、それより早く行くんだ。黒天使でも待たせたらいけないからね」
「メルキ先生、くれぐれも気をつけて下さい」
ラフィアはメルキの身を案じた。
「ラフィアさんも無茶はしないようにね、危なくなったら降参するのも戦いの一つだから」
「はい……」
後ろ髪を引かれる思いで、メルキを残し、一行は前に進み始めた。
黒天使が天界に侵入する前に、メルキは同僚のニルッタから連絡を受けていた。カンナがリンの命を狙っていることを。
よってカンナがリンに何らかの形で接触することも想定していた。
「……いい加減出てきたらどうかな、きみの正体は分かっているんだよ」
誰もいない廊下に、メルキが語りかける。
メルキの言葉に答える形で、地面から複数の鎖が出現し、メルキは後方転回してかわした。鎖の群れはメルキを逃がすことなく追いかけてきた。
メルキは腰に携えていた銃を手に持ち、蛇のように動きメルキの羽根に絡み付こうとした二つの鎖を素早く撃ち抜いた。撃たれた鎖は千切れて地面に落ちた。
「やっぱり先生を前だと、一筋縄ではいきませんね」
声の主は、廊下の柱から現れた。栗色の髪の少女……もといカンナである。
カンナの手には鎖が握られている。
「それはそうだよ、先生は生徒を守るためなら魔獣にでも魂を売り払うよ」
間を置かずにメルキは話を続ける。
「何で自分の名前を伏せるように、リン君やラフィアさんに言ったのかな」
メルキはカンナに質問を投げ掛けた。カンナは薄笑いを浮かべた。
「その方が面白いと思ったからですよ、二人とも予想通りの反応でしたね」
「成る程、二人を困らせて楽しかったってことか、それはいけないことだよ」
静かな声でメルキは注意した。リンとラフィアはカンナのテレパシーが元で振り回されたからだ。
「先生、そこを通して下さい、リン君を殺したいんです」
「駄目だよ、通せない、きみには教育が必要だからね」
メルキが念じると、拳銃に弾が全て補充された。
カンナの表情からして、本気でリンを狙っていると感じ取れる。カンナの口車に従って、リンを単独で会わせないようにしたのは正解だったと言える。
何があってもカンナを止める。メルキはそう決めていた。
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