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ママがいない家
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今日はちさきちゃんの六歳の誕生日です。この日のためにママはケーキとごちそうを沢山作り、パパはちさきちゃんのためにプレゼントを買ってきてくれました。
「ちさちゃん、お誕生日おめでとう!」
ママが嬉しそうに言いました。
ちさちゃんとはママがちさきちゃんに対する呼び方です。
ちさきちゃん自身も気に入っています。
パパはちさきちゃんにプレゼントの箱を差し出しました。
「はい、これはプレゼントだよ、中身は欲しがっていた着せ替え人形だよ」
「わぁ……有難う!」
ちさきちゃんは箱を受け取り、パパにお礼を言いました。
美味しいケーキとごちそうをお腹一杯に食べ、欲しかった着せ替え人形を貰えてちさきちゃんは幸せな時間を過ごしました。
ちさきちゃんはこんな時間がずっと続けば良いと思いました。
ところが、ちさきちゃんの幸せは思わぬ形で終わることとなりました。
誕生日から一週間後、ちさきちゃんはパパと一緒に玄関の前にいました。化粧をして大きな鞄を持ったママの見送りのためです。
玄関でパパとちさきちゃんでママを見送りするのはよくやりますが、今日のママの雰囲気はいつもと違いました。
「ママ……どこ行くの?」
ちさきちゃんは聞きました。
するとママはちさきちゃんと同じ目線になるように身をかがめて言いました。
「おばあちゃんの所よ」
「わたしも行きたい」
ちさきちゃんは言いました。ママのおばあちゃんとおじいちゃんはちさきちゃんを可愛がってくれるので、会うのが楽しいです。
「今日はだめなの、ママだけが行くの」
「何で?」
「ごめんね、それは言えないの」
ママは言うと、ちさきちゃんに背を向けました。
「じゃあね」
ママはちさきちゃんに別れのあいさつをしました。
これを機に、ちさきちゃんのママは家に帰って来ませんでした。次の日も、その次の日も、ちさきちゃんにとって初めてのことでした。パパにママのことを聞くとその内言うから、という答えが返ってきました。ママがいなくなった日々がちさきちゃんには長い時間に感じられました。
パパに買ってもらった着せ替え人形で遊んでも楽しくありませんでした。
「ママ……早く帰って来ないかな」
ちさきちゃんは毎晩ベットの中でそう呟きました。
パパの料理も美味しいですが、ママの料理の方がはるかに美味しいです。
ママのいない食事は寂しさを感じずにはいられませんでした。
ママがいなくなってから二週間後、ちさきちゃんが自分が置かれている立場を理解するきっかけになったのは、ちさきちゃんが通う小学校で過ごしていた時の事でした。
「ちさきちゃんの家さ、りこんしたんだって?」
ちさきちゃんとよく一緒に遊ぶ友達のゆづきちゃんが言いました。
りこん……聞き慣れない言葉にちさきちゃんは首を傾げました。
「りこん……何それ」
「パパとママが離れて暮らすことだよ、ちさきちゃんのママ出ていっちゃったでしょ、わたしのママが言ってたよ」
信じがたい言葉に、ちさきちゃんは何も言えませんでした。
ゆづきちゃんの話が納得いかず、 ちさきちゃんは家に帰り、リビングで料理を作っていたパパに聞きました。
「パパ! ママとりこんしたって本当なの?」
ちさきちゃんは少し怒っていました。ゆづきちゃんが知ってるのに、自分だけが知らないのは不公平だからです。
パパは顔をくもらせ、コンロの火を止めました。そしてちさきちゃんの顔を見るなりそっと抱き締めました。
「すまなかった。ちさきにもちゃんと言わなければいけなかったな」
パパは真面目な口調で言いました。そしてようやくママのことを聞かされました。
前からママが一方的にパパと離れて暮らしたがっていたこと、パパはちさきちゃんのことがあるから止めたそうですが、ママの気持ちは揺るがず、ちさきちゃんの六歳の誕生日を見届けてからママは家を出ていくことにしたのです。
全てちさきちゃんがいない間に決められていたのです。ちさきちゃんが大人になるまではパパが面倒を見ることになり、ちさきちゃんの苗字も元のままです。
パパが今まで言えなかったのは、ちさきちゃんに対して申し訳ないのと、気持ちの整理をしたかったからです。
「何でもっと早く言ってくれなかったの?」
「ごめんな」
ちさきちゃんの質問に、パパは辛そうに言いました。
「ママは……わたしがきらいになっちゃったの? わたしがすききらいしてママを困らせたりしたから?」
ちさきちゃんは涙を流しながら言いました。ちさきちゃんはピーマンとセロリがきらいでママが作る料理に出たときは必ず残してしまいます。その度にちゃんと食べなさいと、ママに叱られるのです。
「違うんだ。ママはちさきがきらいになって出ていった訳じゃないんだ」
「じゃあ……どうして」
「ママの都合だよ、ちさきは悪くない」
パパはきっぱりと言いました。それ以上は聞いてはいけないとちさきちゃんは感じとりました?
「ママには……もう会えないの?」
「また会えるよ、月に一回は会うって約束はしてるからな」
「ほんと?」
「ああ、本当だよ、パパがウソをついたことはあるか?」
「ないよ」
ちさきちゃんの声色はほんの少し明るくなりました。
ママがいなくなったのは寂しいですし、納得はいきませんが、また会えると思うだけで嬉しくなりました。
それからパパが言っていた一ヶ月が経ちました。
青空が広がる中、ちさきちゃんとパパは駅前でママが来るのを待っていました。一人の女性がこちらに向かって走ってきました。
「ちさちゃん!」
ママでした。ちさきちゃんはママの元に走り寄りました。
「ママ!」
ちさきちゃんはママを抱き締めました。
「会いたかったよ!」
ちさきちゃんは叫びました。嬉しさのあまり涙が出ました。
「急にいなくなったりして、ごめんなさいね」
ママは謝りました。
「良いよ、また会えたから」
ちさきちゃんは言いました。
それからちさきちゃんはパパとママと三人でよく足を運んでいたレストランへ行きました。ちさきちゃんは好物のハンバーグを食べました。三人で囲んだ食事はちさきちゃんにとって美味しく感じられましたし、楽しくもありました。
パパとママも笑いながら食事を食べていました。
三人でデパートに行き、家族写真を撮り、ちさきちゃんの服や靴下をママが買ってくれました。今までママがいなかったことがウソのように思えました。
夕方になり、ちさきちゃんはママとパパの手を繋ぎ、一緒に歩きました。
ママが帰るために駅に行くためです。もうすぐママと離れる時間がちさきちゃんにとっては寂しくもありました。
「ねえ、ママ、もう家に帰って来ないの?」
「ごめんね、それはできないの」
ママは言いました。
「ちさき、ママにもママの都合があるんだ。無理言ってはダメだよ」
パパは言いました。
ちさきちゃんはママとパパに言いたいことが山のようにありましたが、折角の楽しい時間を台無しにしたくなかったので黙りました。
駅に来て、三人は足を止めました。ママはそっとちさきちゃんの手を離しました。
「じゃあ、ママは帰るわね、あなたちさきをお願いね」
ママはパパに言いました。そしてちさきちゃんの顔を見ました。
「……また会える?」
「会えるわ」
ママは言いました。
「ちさちゃん、ママは離れていてもちさちゃんのママには変わりないから、何かあったらたよってね」
ちさきちゃんはママの話に黙ってうなずきました。
ママは手を振りながら駅の中に歩いていきました。
「ママ! またパパと三人でご飯食べようね!」
ちさきちゃんは手を振って叫びました。心の中は寂しさで一杯で、それを晴らすようでした。
ママと再び会えると信じ、ちさきちゃんはパパと一緒に家へと帰りました。
「ちさちゃん、お誕生日おめでとう!」
ママが嬉しそうに言いました。
ちさちゃんとはママがちさきちゃんに対する呼び方です。
ちさきちゃん自身も気に入っています。
パパはちさきちゃんにプレゼントの箱を差し出しました。
「はい、これはプレゼントだよ、中身は欲しがっていた着せ替え人形だよ」
「わぁ……有難う!」
ちさきちゃんは箱を受け取り、パパにお礼を言いました。
美味しいケーキとごちそうをお腹一杯に食べ、欲しかった着せ替え人形を貰えてちさきちゃんは幸せな時間を過ごしました。
ちさきちゃんはこんな時間がずっと続けば良いと思いました。
ところが、ちさきちゃんの幸せは思わぬ形で終わることとなりました。
誕生日から一週間後、ちさきちゃんはパパと一緒に玄関の前にいました。化粧をして大きな鞄を持ったママの見送りのためです。
玄関でパパとちさきちゃんでママを見送りするのはよくやりますが、今日のママの雰囲気はいつもと違いました。
「ママ……どこ行くの?」
ちさきちゃんは聞きました。
するとママはちさきちゃんと同じ目線になるように身をかがめて言いました。
「おばあちゃんの所よ」
「わたしも行きたい」
ちさきちゃんは言いました。ママのおばあちゃんとおじいちゃんはちさきちゃんを可愛がってくれるので、会うのが楽しいです。
「今日はだめなの、ママだけが行くの」
「何で?」
「ごめんね、それは言えないの」
ママは言うと、ちさきちゃんに背を向けました。
「じゃあね」
ママはちさきちゃんに別れのあいさつをしました。
これを機に、ちさきちゃんのママは家に帰って来ませんでした。次の日も、その次の日も、ちさきちゃんにとって初めてのことでした。パパにママのことを聞くとその内言うから、という答えが返ってきました。ママがいなくなった日々がちさきちゃんには長い時間に感じられました。
パパに買ってもらった着せ替え人形で遊んでも楽しくありませんでした。
「ママ……早く帰って来ないかな」
ちさきちゃんは毎晩ベットの中でそう呟きました。
パパの料理も美味しいですが、ママの料理の方がはるかに美味しいです。
ママのいない食事は寂しさを感じずにはいられませんでした。
ママがいなくなってから二週間後、ちさきちゃんが自分が置かれている立場を理解するきっかけになったのは、ちさきちゃんが通う小学校で過ごしていた時の事でした。
「ちさきちゃんの家さ、りこんしたんだって?」
ちさきちゃんとよく一緒に遊ぶ友達のゆづきちゃんが言いました。
りこん……聞き慣れない言葉にちさきちゃんは首を傾げました。
「りこん……何それ」
「パパとママが離れて暮らすことだよ、ちさきちゃんのママ出ていっちゃったでしょ、わたしのママが言ってたよ」
信じがたい言葉に、ちさきちゃんは何も言えませんでした。
ゆづきちゃんの話が納得いかず、 ちさきちゃんは家に帰り、リビングで料理を作っていたパパに聞きました。
「パパ! ママとりこんしたって本当なの?」
ちさきちゃんは少し怒っていました。ゆづきちゃんが知ってるのに、自分だけが知らないのは不公平だからです。
パパは顔をくもらせ、コンロの火を止めました。そしてちさきちゃんの顔を見るなりそっと抱き締めました。
「すまなかった。ちさきにもちゃんと言わなければいけなかったな」
パパは真面目な口調で言いました。そしてようやくママのことを聞かされました。
前からママが一方的にパパと離れて暮らしたがっていたこと、パパはちさきちゃんのことがあるから止めたそうですが、ママの気持ちは揺るがず、ちさきちゃんの六歳の誕生日を見届けてからママは家を出ていくことにしたのです。
全てちさきちゃんがいない間に決められていたのです。ちさきちゃんが大人になるまではパパが面倒を見ることになり、ちさきちゃんの苗字も元のままです。
パパが今まで言えなかったのは、ちさきちゃんに対して申し訳ないのと、気持ちの整理をしたかったからです。
「何でもっと早く言ってくれなかったの?」
「ごめんな」
ちさきちゃんの質問に、パパは辛そうに言いました。
「ママは……わたしがきらいになっちゃったの? わたしがすききらいしてママを困らせたりしたから?」
ちさきちゃんは涙を流しながら言いました。ちさきちゃんはピーマンとセロリがきらいでママが作る料理に出たときは必ず残してしまいます。その度にちゃんと食べなさいと、ママに叱られるのです。
「違うんだ。ママはちさきがきらいになって出ていった訳じゃないんだ」
「じゃあ……どうして」
「ママの都合だよ、ちさきは悪くない」
パパはきっぱりと言いました。それ以上は聞いてはいけないとちさきちゃんは感じとりました?
「ママには……もう会えないの?」
「また会えるよ、月に一回は会うって約束はしてるからな」
「ほんと?」
「ああ、本当だよ、パパがウソをついたことはあるか?」
「ないよ」
ちさきちゃんの声色はほんの少し明るくなりました。
ママがいなくなったのは寂しいですし、納得はいきませんが、また会えると思うだけで嬉しくなりました。
それからパパが言っていた一ヶ月が経ちました。
青空が広がる中、ちさきちゃんとパパは駅前でママが来るのを待っていました。一人の女性がこちらに向かって走ってきました。
「ちさちゃん!」
ママでした。ちさきちゃんはママの元に走り寄りました。
「ママ!」
ちさきちゃんはママを抱き締めました。
「会いたかったよ!」
ちさきちゃんは叫びました。嬉しさのあまり涙が出ました。
「急にいなくなったりして、ごめんなさいね」
ママは謝りました。
「良いよ、また会えたから」
ちさきちゃんは言いました。
それからちさきちゃんはパパとママと三人でよく足を運んでいたレストランへ行きました。ちさきちゃんは好物のハンバーグを食べました。三人で囲んだ食事はちさきちゃんにとって美味しく感じられましたし、楽しくもありました。
パパとママも笑いながら食事を食べていました。
三人でデパートに行き、家族写真を撮り、ちさきちゃんの服や靴下をママが買ってくれました。今までママがいなかったことがウソのように思えました。
夕方になり、ちさきちゃんはママとパパの手を繋ぎ、一緒に歩きました。
ママが帰るために駅に行くためです。もうすぐママと離れる時間がちさきちゃんにとっては寂しくもありました。
「ねえ、ママ、もう家に帰って来ないの?」
「ごめんね、それはできないの」
ママは言いました。
「ちさき、ママにもママの都合があるんだ。無理言ってはダメだよ」
パパは言いました。
ちさきちゃんはママとパパに言いたいことが山のようにありましたが、折角の楽しい時間を台無しにしたくなかったので黙りました。
駅に来て、三人は足を止めました。ママはそっとちさきちゃんの手を離しました。
「じゃあ、ママは帰るわね、あなたちさきをお願いね」
ママはパパに言いました。そしてちさきちゃんの顔を見ました。
「……また会える?」
「会えるわ」
ママは言いました。
「ちさちゃん、ママは離れていてもちさちゃんのママには変わりないから、何かあったらたよってね」
ちさきちゃんはママの話に黙ってうなずきました。
ママは手を振りながら駅の中に歩いていきました。
「ママ! またパパと三人でご飯食べようね!」
ちさきちゃんは手を振って叫びました。心の中は寂しさで一杯で、それを晴らすようでした。
ママと再び会えると信じ、ちさきちゃんはパパと一緒に家へと帰りました。
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