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第一章:隠しごと
第十一話:「隠しごと」⑦
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ぼくと宗平くんは、さびしげに響くヒグラシの声に包まれて、二人で帰り道を歩いていた。車が一台しか通れないような狭い道で、すぐ隣は一面、田んぼになっている。
周りに、他の生徒たちはいない。下校時間を少しすぎて、ぼくらは国木田先生に追い出されるようにして、学校を出たからだ。
遠くの国道を、車が走っていく音がした。
車の音、蝉の声、水路を水が流れる音、色々な音が混じり合っていても、二人の間の静けさは、やわらぐことはなかった。
怒りも、悲しさも、ぐちゃぐちゃになって燃えてしまったような疲れがあって、ぼくは宗平くんに掛ける言葉が思い浮かばなかった。
「なあ、慎二。どう思う?」
だから、宗平くんにそう訊かれたときになっても、やっぱり答えはどこにもなかった。田んぼの中に落ちた針を、ひとりで見つけるようなものだった。
「ごめん。まだ、よくわからん」
ぼくは、嘘を吐いた。
本当は分かっていた。でも、分かったうえで、どうしていいか分からなかった。
なんで、小郷晴美ちゃんや、坂本恭介くんは、恵香ちゃんが教室に居たことを黙っていたんだろう。実は、あの三人が、全てを計画したのだろうか。お互いが嘘を吐くことで、誰かに疑いがいかないように。
問い詰めれば、あの子は、全てを話すだろうか。
それでどうなる。そのあとは。
「わしも、わからん」
宗平くんは、そうぼくに笑いかけた。空気を柔らかくする、いつもの笑い声だった。彼の顔に、久しぶりの日常を見た気がした。
すっかり色々なものがひっくり返ってしまいそうな一日で、変わることなく、これからも変わらないだろう、陽だまりのような日常を見た。
暖められたぼくの心は、すこしだけ、元気を取り戻した。
「わからんばっかりだね」
ぼくも自然と、笑うことができた。宗平くんも、唇の端を、にっとあげた。
「そうじゃあ、なんもわからん。そもそも、なんで靴なんじゃろ。なんで、教科書なんじゃろ。わしが盗むなら、もっと、盗まれてもわからんもん、盗むんじゃろうに」
「例えば?」
「うーん。……そう、鉛筆とかじゃろか!」
確かに、五、六本ある鉛筆が一本無くなったからと言って、騒ぐことはないだろうと、ぼくも思った。それどころか、しばらく気づかないかもしれない。
「それなら、やっぱり、早く気付かせたかったってことだよね。上履きはもちろんだけど、六時間目が国語なら、教科書が無くなったことが、すぐわかるじゃない?」
「はは。じゃけえ、太一みたいになんも気付かん奴もおるぞ。まあ、教科書のうなって気付かん奴はおるかもしれんけんど、上履きのうなって気付かんやつは、おらんわなあ。そねん言うたら、盗むんは上履きだけでよかったけえ、思うんじゃが……」
宗平くんは、口をあんぐりと開けた。それから、元来た道を振り向く。その先に、山の作った影にすっかり隠れて、黒くなった学校が小さく見えた。
「わし、忘れ物を……とってくるけえ。慎二。先、いね」
「宗平くん?」
ぼくの声が、すっかり聞こえなかったように、宗平くんは振り返ることなく、学校へ走っていった。
いったい、何を忘れたのだろうか。ぼくは不思議だった。
周りに、他の生徒たちはいない。下校時間を少しすぎて、ぼくらは国木田先生に追い出されるようにして、学校を出たからだ。
遠くの国道を、車が走っていく音がした。
車の音、蝉の声、水路を水が流れる音、色々な音が混じり合っていても、二人の間の静けさは、やわらぐことはなかった。
怒りも、悲しさも、ぐちゃぐちゃになって燃えてしまったような疲れがあって、ぼくは宗平くんに掛ける言葉が思い浮かばなかった。
「なあ、慎二。どう思う?」
だから、宗平くんにそう訊かれたときになっても、やっぱり答えはどこにもなかった。田んぼの中に落ちた針を、ひとりで見つけるようなものだった。
「ごめん。まだ、よくわからん」
ぼくは、嘘を吐いた。
本当は分かっていた。でも、分かったうえで、どうしていいか分からなかった。
なんで、小郷晴美ちゃんや、坂本恭介くんは、恵香ちゃんが教室に居たことを黙っていたんだろう。実は、あの三人が、全てを計画したのだろうか。お互いが嘘を吐くことで、誰かに疑いがいかないように。
問い詰めれば、あの子は、全てを話すだろうか。
それでどうなる。そのあとは。
「わしも、わからん」
宗平くんは、そうぼくに笑いかけた。空気を柔らかくする、いつもの笑い声だった。彼の顔に、久しぶりの日常を見た気がした。
すっかり色々なものがひっくり返ってしまいそうな一日で、変わることなく、これからも変わらないだろう、陽だまりのような日常を見た。
暖められたぼくの心は、すこしだけ、元気を取り戻した。
「わからんばっかりだね」
ぼくも自然と、笑うことができた。宗平くんも、唇の端を、にっとあげた。
「そうじゃあ、なんもわからん。そもそも、なんで靴なんじゃろ。なんで、教科書なんじゃろ。わしが盗むなら、もっと、盗まれてもわからんもん、盗むんじゃろうに」
「例えば?」
「うーん。……そう、鉛筆とかじゃろか!」
確かに、五、六本ある鉛筆が一本無くなったからと言って、騒ぐことはないだろうと、ぼくも思った。それどころか、しばらく気づかないかもしれない。
「それなら、やっぱり、早く気付かせたかったってことだよね。上履きはもちろんだけど、六時間目が国語なら、教科書が無くなったことが、すぐわかるじゃない?」
「はは。じゃけえ、太一みたいになんも気付かん奴もおるぞ。まあ、教科書のうなって気付かん奴はおるかもしれんけんど、上履きのうなって気付かんやつは、おらんわなあ。そねん言うたら、盗むんは上履きだけでよかったけえ、思うんじゃが……」
宗平くんは、口をあんぐりと開けた。それから、元来た道を振り向く。その先に、山の作った影にすっかり隠れて、黒くなった学校が小さく見えた。
「わし、忘れ物を……とってくるけえ。慎二。先、いね」
「宗平くん?」
ぼくの声が、すっかり聞こえなかったように、宗平くんは振り返ることなく、学校へ走っていった。
いったい、何を忘れたのだろうか。ぼくは不思議だった。
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