11 / 54
マメ柴のシバ
えりか
しおりを挟む
えりかがあの時最終的にどう高崎と自分の利害を調整したのか、あるいはしなかったのか。
さゆりには知る由もなかったが、少なくとも久々に会ったえりかは友好的だった。
「この辺住んでるの?」
「なんの仕事してるの?」
「職場どこ?」
「大学どこ行ったの?」
「昨日のドラマ見た?」
「うさぎ好き?」
てかLINEやってる?
とでも二の句には聞いて来そうなテンションで畳みかけてくる。
さゆりの方は、そんな態度を取られる覚えもないので、しつこいナンパみたいだな、と戸惑いながらも繰り出される質問にポツポツと答えた。
正直、えりかがこんなタイプの人間だとは意外だった。
初対面で会った時は、話す内容や相手を選定するような器用さのある人間に見えた。
けして小さくないさゆりよりも、さらに拳ひとつほど高いスラリとした体型で、切れ長で一重の目元が涼やかだ。
まゆのふんわりした所作とは正反対の、シャキシャキした身のこなしは今日着ている濃灰のパンツスーツとしっかりマッチしている。
スーツの胸ポケットには、大振りでマニッシュなペンが差し込まれていた。
もし、あのまま高崎とえりかが結婚していたら、いかにもなDINKSのパワーカップルになっていたのではないだろうか。
少なくとも暖色でまとめたフォト年賀状はつくりそうにない。
そんなスマートな印象が、
「好きな食べ物は?」
なんてくだらない質問を打ち返すたびに帰り飛んだ球が当たってボロボロと崩れていく。
それがなんとなく不審で、電車がホームに入るとのアナウンスをきっかけに、さゆりは別れの挨拶をする決心をした。
「あ、乗る電車来ちゃうので、私はこれで… 。」
そう愛想笑いで切り上げた。
つもりだった。
ホームに電車が滑り込むタイミングで、えりかに左上腕を掴まれるまでは。
「これから一緒にご飯行かない?」
えりかがにっこり笑って言った。
「てかLINEやってる?」が先だろ、と思いながら断りの言葉を発するために息を少し吸い込む。
「なんか思いつめた感じだから、心配で。」
さゆりの辞退の言葉を遮るように発せられた言葉に思わず息を飲む。見据えた先の女は、笑顔だが瞳は確かに気遣わしげだった。
電車に載っていた乗客が、開いた扉の前で突っ立っているさゆりを邪魔そうに避けながら下車した。
「お腹空いてるでしょ。奢るし、ね、付き合って?」
そう言って掴んでいた上腕を離してそのままポンポン叩くと、返事を待たず踵を返し歩き出す。
電車のドアが閉まる。
さゆりは乗らなかった。
鉄塊がゆっくり加速しながら走り出す。
次の電車はまたしばらく来ない。
えりかのどうでも良い質問にほいほい答えるうちに、死にたいくらいの憂鬱はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。
代わりにくたびれた体に空腹感が襲ってくる。
私、お腹空いてたのか。
そう気づいてさゆりは目の前を行くえりかの背中を追った。
えりかは相変わらず、話す内容や相手を選定する器用な女だったようだと、彼女の後を追いながらぼんやりと思った。
さゆりには知る由もなかったが、少なくとも久々に会ったえりかは友好的だった。
「この辺住んでるの?」
「なんの仕事してるの?」
「職場どこ?」
「大学どこ行ったの?」
「昨日のドラマ見た?」
「うさぎ好き?」
てかLINEやってる?
とでも二の句には聞いて来そうなテンションで畳みかけてくる。
さゆりの方は、そんな態度を取られる覚えもないので、しつこいナンパみたいだな、と戸惑いながらも繰り出される質問にポツポツと答えた。
正直、えりかがこんなタイプの人間だとは意外だった。
初対面で会った時は、話す内容や相手を選定するような器用さのある人間に見えた。
けして小さくないさゆりよりも、さらに拳ひとつほど高いスラリとした体型で、切れ長で一重の目元が涼やかだ。
まゆのふんわりした所作とは正反対の、シャキシャキした身のこなしは今日着ている濃灰のパンツスーツとしっかりマッチしている。
スーツの胸ポケットには、大振りでマニッシュなペンが差し込まれていた。
もし、あのまま高崎とえりかが結婚していたら、いかにもなDINKSのパワーカップルになっていたのではないだろうか。
少なくとも暖色でまとめたフォト年賀状はつくりそうにない。
そんなスマートな印象が、
「好きな食べ物は?」
なんてくだらない質問を打ち返すたびに帰り飛んだ球が当たってボロボロと崩れていく。
それがなんとなく不審で、電車がホームに入るとのアナウンスをきっかけに、さゆりは別れの挨拶をする決心をした。
「あ、乗る電車来ちゃうので、私はこれで… 。」
そう愛想笑いで切り上げた。
つもりだった。
ホームに電車が滑り込むタイミングで、えりかに左上腕を掴まれるまでは。
「これから一緒にご飯行かない?」
えりかがにっこり笑って言った。
「てかLINEやってる?」が先だろ、と思いながら断りの言葉を発するために息を少し吸い込む。
「なんか思いつめた感じだから、心配で。」
さゆりの辞退の言葉を遮るように発せられた言葉に思わず息を飲む。見据えた先の女は、笑顔だが瞳は確かに気遣わしげだった。
電車に載っていた乗客が、開いた扉の前で突っ立っているさゆりを邪魔そうに避けながら下車した。
「お腹空いてるでしょ。奢るし、ね、付き合って?」
そう言って掴んでいた上腕を離してそのままポンポン叩くと、返事を待たず踵を返し歩き出す。
電車のドアが閉まる。
さゆりは乗らなかった。
鉄塊がゆっくり加速しながら走り出す。
次の電車はまたしばらく来ない。
えりかのどうでも良い質問にほいほい答えるうちに、死にたいくらいの憂鬱はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。
代わりにくたびれた体に空腹感が襲ってくる。
私、お腹空いてたのか。
そう気づいてさゆりは目の前を行くえりかの背中を追った。
えりかは相変わらず、話す内容や相手を選定する器用な女だったようだと、彼女の後を追いながらぼんやりと思った。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
※84話「再訪のランス」~画像生成AIで挿絵挿入しています。
気分転換での画像生成なので不定期(今後あるかは不明ですが)挿絵の注意をしてます。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる