異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

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マメ柴のシバ

忠犬ハチ公

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さゆりの提案はあっさりと受け入れられ、車は3人を乗せて駅を後にした。

「えりか、お店は宴々屋でいい?」

「あ、うん。丁度そこにしようと思ってたんだ。」

「了解。」

男が返事をした直後、パクッという軽い音が運転席からして、次の交差点を右折する合図を車体が告げる。

週末の駅前交差点は賑わっていて、右折レーンに乗り入れた車はしばし時差式信号の前に足止めをくらった。

「あ、遅くなってごめんね。
この子は私の従弟のきみや。ハチはあだ名。歳はさゆりちゃんの一つ上だよ。」

「あ、はい、…えと、望月紗有里です。初めまして。えりかさんは兄の同級生で…。」

「知ってる。はじめまして。」

「え、なんでっすか?」

2人とも車体の右サイドにすわっているので互いの顔は見えなかったが、きみやが明らかに興味なさげなのと、さゆりが不信感を爆上げしたのは声のトーンから明らかだった。
どこで知るよしが有るというのか。
従姉の学生時代の元カレの友人の妹のことなど。
大体きみやが店を提案した時点で不可解だったのだ。
えりかとさゆりが居酒屋に行く話をしていた場にきみやはいなかったし、合流後一言だって説明していない。

さゆりの、不審者相手は警戒マックスで、という習慣は相手の美醜を超えるほど深く刷り込まれている。
彼女にはそれほど根深いのことだったのだ。
家族が忽然といなくなるという経験は。

ここに来てさゆりは気付いてしまった。
さして所縁のない土地で、よく知りもしない人間の車に安易に乗り込んでしまった迂闊さに。
しかも相手は複数で、メンツの1人は男だ。
さりげなく右手でドアロックを確認する。鍵は閉まっていない。
でもチャイルドロックはどうだろう。確認していない。
本当にこのまま車は飲食店に着き、和やかに食事ができるのだろうか。

「あの、さゆりちゃん。」

声をかけられて密かにはっとする。左を見やれば、えりかは苦笑いを浮かべていた。

「実はハチは私が大学生の時私を頼って上京して来て。その、丁度望月君の事があった時なんだけど…。」

言われて思い出した。かつて高崎がそんな事を話していたのを。

「それで、その時ハチの処遇でかずやとケンカしちゃって、望月君探すの手伝えない雰囲気になっちゃったんだよね。本当、今更だけどあの時はごめんなさい。」

えりかは頭を下げた。
声音は迫真だが、果たして事実が伴う説明なのだろうか。
辻褄は合うが。すこし聞き込んでみようか。

「それで、高崎さんと別れて、その…きみやさんと?」

恋愛事情を聞き出すのは苦手だ。他人の領分を侵している気分になる。でも今は仕方ない。

「いや、違うよ。きみやとは付き合ってない。今も。」

彼のあの反応でそれは少し無理があるのではないか?
確かにえりかの態度からは恋愛感情は読み取れないが、そんな歪な関係が、男女間で継続しうるだろうか。

「でもかずやからしてみたら嫌だよね。当たり前。」
さゆりも同意見だった。
自分の恋人に明らかに好意がある男がチョロ付いていて、恋人もそれを拒絶しない。
それがあの日の高崎の苛立ちの正体だったようだ。

「私も悪かったし、まあ、まゆを立ち直らせる必要もあったし…。」

だからくれてやった、というニュアンスを読み取れば良いのだろうか。
そう考える自分は性格が悪いとさゆりは思った。
自身を納得させる言い訳かもしれないのに。

どうやらえりかは聞けば答えてくれそうだが、汚泥を掻き回すことはあまり楽しいと思わない。
きみやがさゆりを知っている経緯に偽りはなさそう。それで十分だ。次に移ろう。

「私たちが店に行こうとしてたのを、きみやさんが知ってたのははどうしてですか?」

えりかは目を見開いた。

「だよね。さゆりちゃんにしたら変だよね。」

今、その不自然さに気づいたようだが、言い方がおかしい。

「これ、マイク付いてて。」

えりかがそう言って胸元のペンを指差したので、今度はさゆりが目をみはる番だった。

とっさに目の前の運転席を見る。座席に隠されきみやの様子は分からない。首を回してえりかを見た。彼女はこちらに向かってバツが悪そうにしている。

「会話勝手に聞かせてごめんなさい。」

そんな謝られ方、人生でそうそいないっちゅうねん。
空腹がもたらす萎えた気分も相まって、とっとと帰らなかった事を深く後悔した。
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