異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

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マメ柴のシバ

愛犬が次々と男を攻略して行くんですが!?

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次の日、シバは大人しくさゆりを見送った。
先週月曜日の様子と比べればその成長ぶりに震えたし、その内心のいじらしさを思うと早く帰る決意も改まった。

会社でコメツキバッタのように頭を下げて事情(嘘八百)を説明し、鰯屋に殴られる兵十を見たごんぎつねのような気持ちで引き受けていたタスクを別のメンバーに振り直した。
そしてランチ返上で手残りした作業を進めた後は、定時を待って速やかに一切れどころでない持ち帰り仕事をパンパンにカバンに詰め込んで帰路に着いた。

ただ、帰る前に一箇所だけ寄らねばならない。
許せシバ、お前のためだと心で謝りながら駅前の洋菓子屋で菓子折を買った。
帰り道にあるカトレアに立ち寄るためだ。

到着してみると店は夕飯時には少し早く、客もまばらだった。
入り口付近の窓際席に常連の佐伯がいて、さゆりの入店に気づき明るく声を掛けた。

「お、さゆりちゃん早いね。」

通常ならさゆりも、「佐伯さんこそ。夜勤ですか?」と返すところだが、今日は陳謝に来たので呑気に談笑するわけには行かず、軽い会釈だけした。
ノリの悪いさゆりの態度と、手元にある紙袋の中身から何か察した顔を佐伯がする。
ひょっとしたら、昨日あの場に彼もいたのかもしれないとさゆりは思った。

間も無く厨房にいた女将が出て来てさゆりを見つけると、暖かい笑顔を浮かべた。
さゆりの方はつい緩みそうになる気持ちを抑えて神妙な顔でお辞儀をする。
あらあら、と苦笑いを浮かべると、女将は「今パパも私も手が離せないからかなと話してもらえるかしら?」と言って内線電話を掛け始める。

「でも……。」

「まあまあ、さゆりちゃん。女将さんがああ言うならかなちゃんと話しなよ。」

佐伯が女将の意図を汲んで援護する。
親ではなく姉を出すことで、女将が事態を重くし過ぎないようにしているのは明らかだった。
そうこうしているうちにかなが現れる。かなはさゆりを、店のバックヤードにある小さな事務室に案内し、二つある簡易な椅子の一つに座らせた。

「早かったですね。お仕事忙しいんじゃないですか?」

もっと遅く来ると思っていたのか、席に着くなり意外そうな声でかなは言った。

「なんとかね。改めて、昨日は本当にごめんなさい。これ、つまらないものだけど気持ちなのでみんなで食べて。」

早々に頭を下げて菓子折りを手渡す。

「本当気にしなくて良かったのに。あ、でもここのお店好き!いただきます。」

かなはあっさり受け取ると、お菓子のブランドを確認してはしゃいだ。
そのタイミングで女将が紅茶を二つ運んで来る。

「お母さんナイスー。あ、お菓子開けて良いですか?」

さゆりが頷くと、手早く開封して中のマドレーヌを二つ取り出した。さゆりは遠慮するが、押し切られて片方を受け取ってしまう。

「あの、いつき君は大丈夫?」

「平気平気。あいつMだから。いつき目当てで来てた女の子達も、いい顔見たって喜んでましたよー。」

「でもいきなり舐め回すなんてセクハラも良いとこだったし……。」

「大丈夫大丈夫!本人が嫌がってなきゃセクハラじゃないから。ねぇねぇ、それよりあの子誰ですか?日本人じゃないですよね?びっくりするくらい可愛い子ですね!」

「えっと……。」

さゆりは長谷川にしたのと似た話をした。
もちろんカトレア一家には親が海外にいない事はバレてるので、さゆりの親が一時預かりしているという設定に一部改変したが。
いよいよ全方向に虚飾を撒き散らし過ぎていずれボロが出そうである。
しかし、塗り重ねねばならない嘘もあるのだ。

「へぇー、モルドバ。どこにある国ですか?
……
その辺て美人が多い地域ですよね。どうりで。
言葉は何語なんですか?
……
ガガウズ語?初めて聞いたー。」

さゆりの手の込んだ嘘に一々感心してくれるかなに申し訳なくなりながら、流暢に虚言を吐いていると、
事務室のさゆり達が使わなかった方のドアが開いた。
ここの店舗は一家の居住部分に併設されているので、その狭間にある事務所には店に通じる扉と住居に通じる扉がある。
住居側のドアを開けたのはいつきだった。
扉を開けたのは偶々だったのだろう。
予期せぬさゆりの姿にいつきはびっくりしている。

「あ、どうも。いらっしゃいませ。」

「いつき君!」

「へ?はい。」

「本当にすみませんでした!!」
さゆりは立ち上がると見事な直角のお辞儀をした。

「え、いや、顔をあげてください。その、俺別に怒ってないですし……。」

「ドMだもんね。」

「姉ちゃんは黙っててよ!もう!あの、本当にやめてください。逆に困っちゃうんで。」

「本当に気にしてない?」

半信半疑で確認する。
だって、自分が最初シバに同じことをやられた時は、背筋が嫌悪で凍った。
気遣いで誤魔化してはいけないところなのだ、この問題は。

「はい。」

「本当に本当?」

「はい。」

「本当に本当に本当?」

「……あの!何方かと言えば、あれからすごいあの子の事気になってて……。出来ればまた会いたいくらいだから……。本当、です。」

いつきは顔を真っ赤にしている。
さゆりもかなも目が点になった。

「お父さんお母さん!いつきが初恋だって!!」

固まっているさゆりを尻目に先に動いたのはかなだった。
店舗側の扉を開けて叫ぶ。

「姉ちゃん!なんで知ってるの!?」

「あんたが今自分で白状したから!お赤飯!お赤飯炊かなきゃー!!」

興奮するかなに、必死にいつきが取りすがる。

「やめてー!お店に叫ばないでー!!」

さゆりはそれを呆然と見つめながら、自分の本当のやらかしをジワジワと感じていた。
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