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第三章 虹と失認
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「俺が撃てば、おまえが俺を撃つ。そうじゃなかったのか? なぜ撃たなかった?」
奥村は切れ切れに息を吐いた。背徳の間から森下の名を叫ぶ少女の声がする。
「医務室へ連れていけ。このままじゃ鹿野たちの勝負の結果がわかる前に死ぬよ」と森下。
「バカ、どこへも行くかよ」
奥村さん、マジで死にますよ、と雨知が心配そうに覗き込むが、奥村は首を縦には振らない。森下は、不承不承ではあったが治療を命じた。「ここで死なれちゃ困るからな」
「てめえ、なんでだ?」うわ言のように奥村は繰り返す。何故撃たなかったのかと訊いているのだろう。やはりただのハッタリだったのか。
「ハッタリね。どう思ってもらっても結構。さすがの俺でも警官を堂々とは殺せない」
どういうことだ?
そう訊いたのは、奥村ではなく雨知だった。奥村はカウンターに突っ伏して気を失っていた。森下の声も届いてはいないだろう。
「俺は、この店の隅々までお見通しだ。あのロシアンルーレットで使用した銃をまんまと隠しおおせたと思っているようだけれど、そんなものとっくに知ってる」
「そうか、ならおまえも間接的に彼女に手を貸したということになる」と雨知が断定する。
森下は取り出したレモン絞り器をカウンターに置いた。
「ああ、俺に命を狙われながら、あんたの上司は女子高生のために引き金を引いた。それってどーなんだ。信じられる大人ってやつか。そーだろうな」
「で、奥村さんは――我々は成功したのか」と雨知の表情が曇る。
「さあな」むっつりと森下は頷く。「あの中がどうなっているかはもう本人たちにしかわかんないよ。監視カメラもない徹底的にプライバシーが厳守された空間だから」
「結局、おまえは誰の味方なんだ?」
「たとえ俺が答えたって信じないだろう」と森下は切り捨てる。
「どこまでも可愛げのないガキだ」
納得のいかない雨知を横目に森下は「戻って来いよな、鹿野。体育祭こそはおまえに働いてもらうからな」と低く愚痴った。
――お互いに可愛げのある高校生でいようぜ。もうしばらくは。
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