大江戸大迷惑〜迷宮無頼剣〜

十三不塔

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第二章 迷宮顛倒変

慮傍

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 麟堂は苦りに苦り切って算盤を弾いた。
 その算盤でさえ、一部が黒く焼け焦げている。天文の計算よりずっと悩ましい勘定を麟堂は大きな身体を猫背にして取り組んだ。弟子たちの争闘によって一夜にしてとんでもない被害が出た。邸宅に無数の雷が落ちて方々から火が上がったものの、それを鎮火するための池の水はどこぞへ消失しているといった次第。まったく昨夜は大騒ぎであった。

「忌々しい馬鹿弟子どもめ」

 かろうじて破壊と焼失を免れた家屋の軒先で麟堂は歯噛みする。ぐるりを回って一通り半壊した屋敷を点検すると座敷へ戻った。

「まったく――」
 忌々しい、と恨みごとを繰り返す。

 煎餅布団に寝かされているのは猫眼の雲助。それに俺であった。
 震卦。つまり雷性の奥伝である朱雷吼《しゅらいく》を受けて生きているとはしぶとい野郎である。とはいえ無傷ではいられない。全身の火傷は露禅丹で完治したものの、深い内傷はすぐには元通りにはならぬ。数日はここで養生する必要があろう。

 比べて俺の傷は軽いものであった。頬に刻まれた大きな切り傷は、雲助の水輪にハツられたものであり、もう半歩踏み込んでいたらくたばっていたであろう。間一髪、紙一重で取りこぼしそうであったのは、むしろ俺の命の方である。

 昨日の今日でもう出歩くこともできよう。迷宮に戻るのはちょいと繰り延べになりそうだが、それも仕方があるまい。俺は手早く身も回りの品――とついでにそこいらに転がっていた痛みの少ない茶器――を取りまとめて布団を畳んだ。

 ほとほと迷惑な訪問であったが、器量のでかい師匠なら許してくれるはず、
「許すまじ」
 ダメみたいだ。仁王立ちの麟堂が、こそこそと出て行こうとする俺の進路を阻んでいる。

「師匠。須臾《しゅゆ》の間といえ御尊顔を拝謁賜り、弟子として喜悦の極み――」

 ――ズガッ。

 殴られた。さっき懐に入れた織部の碗を取り返される。
 
「そいつは師匠、あの……」
「お主、どうしてここまで厄介事を引き寄せられるのだ」
「こいつが勝手に突っかかってきたんだろうが。俺のせいじゃねえよ」
「見ろ」

 麟堂は半紙に書き連ねた損害目録を俺に突き付けた。

 本御影の庭石‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥截断《せつだん》。
 黒松‥‥‥‥截断ののち落雷により焼亡。
 屋根瓦(三十七枚)‥‥‥‥‥‥‥破損。
 板塀(十二枚)‥‥類焼を防ぐため破壊。
 錦鯉(四匹)‥‥‥‥‥‥‥‥‥感電死。
 石燈籠(二基)‥‥‥‥‥‥‥‥‥倒壊。
 襖(六面三枚)‥‥‥‥‥‥‥‥‥破損。
 什器類(過半)‥‥‥‥‥破損及び遺失。

 眼を細めて、内容を検めていく。しっかりとした現状把握である。これなら復旧も遠くあるまい。ご苦労さん、とすれ違おうとする俺の肩を分厚い手ががっしりと掴んで引き戻す。

「なんだよ、雲助の野郎が俺が見たら、また飛び掛かってくるだろうが、さっさと行かねえと」
「あれだけの呪法を使ったのだ。三日は眼を覚まさぬ」
「そうかい。眼を覚ましたら言い聞かせておけよ。俺は金九字どもの仲間じゃねえってな。酒を恵んでもらってなんだがよぉ、俺はこう感じたのさ。――こいつらは敵だってな」
「ほう」
「学友の仇なら、なおさら俺の敵さ」

「しめて五十両。弁済料だ」半紙を俺の顔にぐいぐいと押し付けてくる。

 俺は紙を口中へたぐり込むとガシガシと咀嚼する。驚く麟堂を尻目に一気に飲み込んだ。

「お主は山羊か」
「んなわけあるか、テメェ」
 メェ? 麟堂は肩眉を上げた。

 しくじった。心ならずも語尾に山羊らしさを織り交ぜてしまった。

「なんと言うた? もう一度言ってみい。ほれ」
「やかましい。俺たちの仲だろうが、弁済だなんだって世知辛いことはなしとしようぜ」

 以前、鼬小僧に手枷を外してもらったさいに要求されたのも同じ五十両だった。五十両を要求されることの多い我が人生であった。このあたりが俺の価《あたい》といったところか。

「うちの弟が不良浪人どもをみんな死礫《しれき》に変えてきたら、あんたにみんなくれてやるよ、あんたなら露禅丹に調合できるのだろう?」
「知っておろう。たつたひとかけの露禅丹を拵えるのに何人の屍が必要かを」
 知っている七人である。
「この年になって隙間風の差し込む寝間に休むことになろうとは情けない」
「哀れっぽく言うんじゃねえよ。……おう、そうだ。なら、うちの道場も家も使っていいぜ。どうせ弟も迷宮墜ちだ。住む者もなく、ほったらかしておくよりよっぽどいいし、師匠がいりゃ安泰さ。身の程知らず道場破りが来たら戸板に乗っけて帰してやってくれ」
「ふん、それもいいか」
「でよ、雲助の野郎は強くなって金九字を追い落とすつもりなのか? 探降者になるつもりなのか?」
「ああ、しかし、いまのままではすぐに死ぬであろう。地力も足りぬし、お主が見たように真っ向からぶつかるしか能がないではな」
「まぁ、あの猪突猛進ぶりじゃ金九字どころか、魍魎街の破落戸《ごろつき》にだってすぐに殺されるだろうな。しかしよ、一族を金九字に殺されたってのは本当か?」

「こうなっては」と麟堂は雲助をちらりと盗み見た。「お主の耳に入れておいたほうがいいであろうな。人でありながら人とは異なる者ら、いわゆる猫目や瓜頭を総じて慮傍《りょぼう》と呼ぶのは知っておろう。彼らは、古来より七乞食、八乞食、あるいは六道の者らに入り混じって暮らしを立ててきた」

 猿引・編木師《ささらし》・恵美須・辻乞・乞胸《ごうむね》・弦指《つるさし》・盲目を七乞食。

 薦僧・鉢坊《はちぼう》・絵説《えとき》・鉦打《かねうち》・舞々・猿牽・山守・渡守を八乞食。

 弓造・土器作・石切・筆結・墨師・獅子舞を六道の者と言う。

「彼らは定まった居を持たぬものであり、芸を売る者たちだ」

 それゆえに蔑まれ、また畏れられてきた日陰の存在たち。神にほど近く、また同時に地べたよりも低い者。あらゆる芸能の淵源である。

「ふむ」俺は布団に身を丸める雲助に何か言い知れぬ感情をおぼえた。人間であることを自明のものと考えていたこの身が、実はそうではなかったと知らされた時、大地が抜け落ちるような恐怖に見舞われた。つまり、それほど人であることを恃《たの》んでいたのであろう。

「金九字講には慮傍《りょぼう》の者はおらぬ。彼奴らは猫目や瓜頭を憎んでおるからの。脊川は慮傍の民をこの国から完全に駆逐して、真っ当な人間だけが住まう世界にしたいのだ」

 ハッと俺は思い出した。
「確かにあの宴には猫目も瓜頭もいなかった。居たのは人間だけだ」

 いくら猫目や瓜頭の数が人間に比べ少ないとはいえ、あれだけの規模の宴にひとりも慮傍《りょぼう》の民がいないということは不自然であった。

  ――あの生まれ損ないども。

 脊川は同じ五烈のひとつで血狼煙をそう罵っていた。

 ということは、
「そうよ、血狼煙とは金九字講とは反対に慮傍《りょぼう》の民だけで構成された伍なのだ。いわれのない差別と蔑みに耐えかねた慮傍《りょぼう》の者らは結束し、迷宮に力と誇りを求めた。それ故にふたつの勢力は不倶戴天の仇のようにぶつかるしかあるまい」
「ならば、やつらの願いとは?」
「金九字が虚空権現に望むは慮傍《りょぼう》の民の抹殺。一方、血狼煙は慮傍《りょぼう》の民の国を築くことを悲願としておる」

 生まれ損ないども、と脊川はそう言ったのだ。

 あの時には気付かなかったが、あの一言が俺をして金九字を敵と確定させたのであった。 
 
 雲助らが生まれ損ないであるならば、俺とて同じである。生まれ損ないの死に損ないとは樋口二郎のことでなくてなんであろうか。

 “難訓”などという化け物に生まれついた俺のことを知れば、やつらは生かしておかぬであろう。俺もまたやつらに大人しく屠られるつもりはない。

「雲助はいわゆる山の民であった。彼らは野にひそみ、平穏な流浪を続けておった」

 凄惨な過去の記憶を夢に見ているのだろうか、雲助は寝苦しそうに身をよじった。と思えば、歯切れのいい寝屁を放つ。

「そこへ現れたのが脊川黙雷であった。やつは恐るべきことに神仏に慮傍《りょぼう》の民の千人斬りを誓っておったのだ」

「‥‥千だと」俺は慄いた。

 いくら人斬りだと息巻いたところで俺が路傍で殺した数は両手には余れど百には満たぬ程度。

 ごくりと俺は唾を飲み込んだ。
 途方もない。小さな川なら血で赤く染まるほどの虐殺。

 かの親鸞聖人は、人が人を殺さぬのは心優しいからでもなければ、ましてや善良だからでもないと言った。ただ、殺すという縁がなかったからなのだ。これは宿業というものを語った卓見なのであろうが、だとすると千人を殺す脊川にはどんなおぞましい宿業が取り付いているというのだろう。

「脊川は、奴はやり遂げたのか?」
「そうだ。雲助の母親がちょうど千人目であったそうな。キリよく結願させるために千一番目の雲助は見逃されたらしい。血塗れで悄然と里に降りて来た猫目の少年を拾ったのは、儂が紀伊の国を巡っておった頃。七年ほど前になるか」
「あれだけ血相を変えて俺に挑みかかってきたわけも頷ける」
「こやつには復讐など忘れて穏やかに生きてほしいのだがな。幸い学問への取り組みは卓越しておる。聡明であることを鼻にかけることなく努力も惜しまぬ。こと学に関するならばあの廻鳳と並んでこれからの震央舎の龍虎と呼ばれよう。のみならず、この国の未来を担うに足る逸材なのだ。迷宮くんだりで死んでもらっては困る」
「俺は逸材じゃねえのか? 龍虎と呼ばれたいぞ」
「お主はどこでなりと死ね。金と茶匙を返したら好きに野垂れ死ね」

 指導者にあるまじき依怙贔屓であった。俺は頭に血が昇った。まだ懐に匙を隠していたことも感づかれていた。きまりの悪さも手伝って余計に腹が立つ。

 俺は茶匙を畳に叩きつけて怒鳴った。

「金なら雲助にも請求しろや! こちとら逆立ちしても鼻血も出ねえよ」
「こやつは出世返しでもできよう。お主は決して出世などせぬ」
「なんでだよ、もしかしたらもしかするかもだろ?」
「天地神明にかけて、せぬ」
 
 せぬ、せぬ、せぬ、せぬ、せぬ、と師匠の声が頭の中で反響した。
 
 俺と麟堂は畳の縁を挟んで睨み合った。
 どうせ半壊した屋敷であろう。どうせなら丸ごと更地にしてくれようか。

「朱雷吼《しゅらいく》は師匠にぶつけようと思ってた技だ。ちょうどいいぜ。当初の予定通り、ぶちかましてやろうかよ」
「ふん、あんなちまちました雷なんぞで儂の髭一本も焦げようか」
「んだとぉ!」

 ぐぅと圧力が高まる座敷の片端から、
「やめとくれよ。やかましくて、おちおち寝てられねえ」
 ぽつり、と天井を見つめたままの雲助が言った。枕元にいつもの丸眼鏡が置いてあるのだったが、それもまた仲良く天井を見つめている。

「眼を覚ましたのか?」と俺は毒気を抜かれて呟いた。

「ずっと起きてたよ。すまんかった樋口。早とちりだったみたいだ」
「そうかい。だったら支払いは、おまえが――」
「ありがとよ。やつらを敵と言ってくれて」
「そんなあたりから起きてたのかよ。とんだ狸寝入りだな。猫だけどよ」
「師匠も勿体ない言葉をくださって――こんな唐変木《とうへんぼく》に期待をかけて頂いて。しかし‥‥」

 わかっている。己の手で仇を斃《たお》したいのであろう。

 修身・斉家・治国・平天下。学問の行き着く空々しい大望よりも、血の恩讐が優先するに決まっている。命を使い捨てにできるほどの憎悪の前ではすべてがあやふやな夢物語に過ぎぬ。

「てめえがその気になったら、金九字に乗り込んで一緒にくたばってやると言いてえところだが、いまのまんまじゃ揃って犬死だ。みんながみんな迷宮に飛び込むのは芸がねえ。地上から機を窺うのさ。かの五烈とて無疵《むきず》じゃねえはず。龍に逆鱗があるようにやつらにだって弱点はあるだろうよ。考えるのが得意なら頭で戦いな」

 ついで俺は話の切り口を変えてみた。ゆっくりと雲助の興奮が退いていくのが眼に見えてわかる。それでも決して消えることのない刻印のように黒い暴威は深く在る。

「なぁ、師匠、やつらが慮傍《りょぼう》を嫌ってるのはなんでだ? 理由のない憎しみか? それとも雲助に起きたことと丸っきり同じことがやつらにも?」
「ああ、慮傍《りょぼう》の民には謎がある。蛮族と蔑まれていた頃には、やはり無法な連中も多かったそうだ。世間の蔑みが無法を促したのか、その逆なのかはいまではわからぬ。確かに金九字講の連中のうちには慮傍《りょぼう》に恨みを持つ者もある。しかし脊川黙雷はこう訴えるのだ。慮傍《りょぼう》は招かれざる客、不届きな闖入者だとな。本来この国には人間だけが住まっていた。しかし、歴史のある地点で何かが起きて、人知れずして彼らはこの島国へ来たと」

「どういうことだ?」俺はぶしつけに問い返した。この話題に触れるのは雲助もはじめてであるようだ。布団から這い出て今ではちんまりと正座をしている。

「無理をするなよ雲助。阿呆の樋口は畳の目でも数えておれ」
「ぬ」
「慮傍の民が我が国の歴史書に登場したのはそれほど昔のことではない。およそ三五〇年ほどばかり前のことよ。亨徳の世のあたりとされておる。それ以前の記録において彼らはいっさい存在を主張しておらぬ。どこからやって来たのか、それもわからぬ。室町の終わり、つまり戦国の幕開け近くに彼らは突如この国の歴史に姿を現し、我々と共に乱世に翻弄されたのだ」
「だから、脊川のやつは慮傍の民を毛嫌いしてんのか。この神州の在るべき姿ってのに雲助、おめえらは含まれてねえんだろうさ」

 ――もちろん俺だって真っ先に排除される手合いであろう。

「師匠よい。あんたならアタリはつけてんだろう。慮傍《りょぼう》の民はどっから来たんだ?」
「おそらく来訪者と同じようにこことは別の世界からやってきたのだろうよ。世界の隠し戸からな。儂の見立てでは外法僧・性淵によって引き起こされた、かの〈両界侵犯〉がその大元でないかと考えておる」
「しかしよぉ、性淵て野郎が虚空権現に辿り着いてあっち側からこっちへ来訪者や化け物どもを引き込んだのは明和の御代になってからのことじゃねえか。慮傍《りょぼう》の民はもっと昔から、俺が生まれた頃にゃ、とっく江戸の街に馴染んでたぜ」

 さて、と麟堂は一息ついた。

「――儂らは思い知ったはずではなかったか。時というものが存外にあやふやで頼りないものであることを」

 そうだ。まさに昨日の蝕から引き出された結論は言語を絶する事実であった。
 時が止まったり、ゆっくりと流れたりするのならば――あるいは遡ることも?

「こればかりは確かめようもないことよ。しかし、ひとつ言えるのは、間違いなく脊川黙雷もまた同じ推論を得たということ。だからこそ奴の中で過激な排外思想が育ったのであろう。この国を夾雑物《きょうざつぶつ》のない純粋で無謬《むびゅう》の大地に還すこと。それが脊川の大願なのだ」
「虚空権現てなぁ、時を跨ぎ超えることができるのかい? まさしくなんでもありだな」
「ああ、お主の魄の力ですら、十余年という時を堰き止めたのだ。虚空権現であれば、なおさらに人智を超えた所業が可能であろうよ」

 だからこそ、と猫目の雲助が力みかえった。

「防人は虚空権現に人を寄せつけぬために骨を折っているのだ。そしてあっしら学者は知恵をしぼっていつの日か迷宮を破壊……が無理なら封印しなくちゃならねえのさ」
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