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第六話 家族がやってきた②
しおりを挟むエルンスト・ファルケンハイン大公と呼ばれているログネル王国女王陛下の王配である父は、ログネル王国の国内治安維持を担当する大臣である。
「・・・国内の治安を担当される内務卿ともあろう方が、どうしてこちらに?」
私の私室に押し入ってきた父を追い出すこともできないまま、こちらで応対することにする。
私の後ろには大慌てでファンヌに呼びに行かせたカイサが控え、そして珍しく侍女頭代理の一人であるマーヤがお茶の準備をしている。これはあれかな、マーヤは元内務卿配下だからかな、まだ治安部門とは切れていないということかな・・・。
マーヤが私の前、そして父の前にお茶を置いて引き下がった。壁まで退き、そのまま動かなくなる。
横目でマーヤの姿を追っていると不機嫌な声で父が言った。
「・・・父と呼べと言っておるだろう」
視線を父に向ける。
言い出したら聞かない人だ。緊急の連絡を聞き、多分そのまま王宮を飛び出してここに来たというのが正解じゃないだろうか。・・・それで、何が気に食わなくてここまで来たんだろうか・・・。はあ、憂鬱だ、憂鬱だが仕方ない、これからもこんなことが続くんだろう。
「・・・父様」
嫌々父と呼ぶと、ようやく機嫌が直ったように、相好を崩す。崩したが、何か思うところがあるのかすぐに表情を整えて厳めしい顔つきを作った。
「いや、なに・・・、なにかしらあったらしいじゃないか・・・」
厳めしい顔つきだったが、言葉はなぜか歯切れが悪い。
ん?何かおかしいな・・・。よくよく見ると父はなぜか焦っているかのようだ。ちらりとカイサを見てから視線を逸らしている。壁際にいるマーヤの顔を見たり、部屋に控えている私の護衛のエミリの様子を伺ったり・・・。挙句の果てには自分の執事であるゲラルト・バウムガルテンや自分の護衛であるオイゲン・カッシラーに目をやったりしている。まあ、二人には父と目を合わせる前にすっと視線を外されて、むっとしているようだが。
何か私には言いにくいことがあるとか?
「・・・父様、何か言いにくいことでも?」
鎌をかけようと思ったが、言葉を濁されてしまうかもしれないので、ここは単刀直入に聞いてみる。
「いや、なに・・・」
さっきと言葉が同じじゃん。
「・・・母様と喧嘩したとか?」
「うっ、い、いや、そんなことは、ないぞ・・・」
一瞬言葉に詰まったぞ・・・、喧嘩したんだね。・・・いや違うか、・・・怒らせたが正しいか、な。
「・・・母様を怒らせたとか?」
「うっ、そ、それは・・・だな・・・」
父は娘である私に弱すぎるのだろう。後ろでカイサがため息をついた。
「では何をされたのです?」
しばらく無言でいたが、私が睨み付けると、後ずさるというかソファの上で器用に後ろに身体をずらしている。そして観念したように視線を下に落とすと、組み合わせた両手をしきりに握りながらおずおずと口を開いた。
「・・・結果的にはエディットが激怒した・・・」
なにそれ。しかも激怒って、激怒って何?
「女王陛下を怒らせたんですか!」
呆れた。まったく呆れた。母様は普段は悪戯好きな国王だけど、怒るとかほとんどない。まあ、これは悪戯する方の人だから、相手に怒られるということが正解なんだけど、相手に怒るっていうのは、私の記憶から言えば、今までに数回しかなかったはずだ。
「・・・今回のな、アランコの子倅が思い違いをするようなら良いなと思ってな・・・」
何をしたんだ、父よ・・・。
「・・・それで?何をされたのです?」
「・・・グスタが子倅を気に入るはずがないと思ったが、万が一と思ってだな、・・・ええっとだな、そのな・・・」
ちなみに家族は私をグスタと呼んでいる。愛称というものだ。
「・・・はっきり言っていただけますか?」
「・・・いや、その、あの、この私がそう思っているわけではないのだが、・・・だがな、外務卿の武官程度では、アランコの第三王子の相手にはさすがに役不足ではないか、もっと高位の令嬢を相手にしたいと言ってみたらどうだ 、とな」
「・・・」
「・・・まあ、その、なんだ・・・要するに、そうだ、焚きつけたわけだ。まあ、思惑通りに動いてくれてだな、ま、まあ、その、なんだ・・・」
「・・・わたしは確かにあの方を気に入るなどと言うことはなかったのですから、それは確かに父様の策が功を奏したかどうかはわかりませんけど、相手の出方によっては問題が起こるところでした」
「・・・まあ・・・そうなんだがな・・・、起こらなかったので良いだろう?」
「・・・はああああ、わかりました。アランコのエルネスティ第三王子は、父様の策に乗り、不敬をはたらいて・・・?」
ん?なんだかおかしいな・・・、うん、そうだ、まだだ。なぜ母様が激怒したかを聞いてない。
「・・・ちょっと待ってください」
「もう、アランコの子倅はお前の傍には来させんぞ」
「いえ、そういうことではなく、どうして母様が激怒したのですか?何をやったのです、父様」
忘れていなかったかという顔で、気まずそうに視線を外す父。
「・・・いや、まあ、なんだ、先ほどの書の名はお前の母の名で出した。それにだ、」
父が微かに息を吸う。
「まあ、信じるとは思わなかったが、婚約者となるアーグ・ヘルナルという娘は王家に恩があるから、そのまま付き合えばいつか王女と会う機会を設けようと書いておいた。そして王女が気に入れば婚約者のすげ替えもできないこともないと」
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