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第六話 家族がやってきた③
しおりを挟む「何をやってくれたんです!」
母様はあのメルキオルニ侯国の王子が入学早々割り込んできたから、先延ばしにしたが、排除した今は、まず選出してあった二人の婚約者候補に、順繰りに会えと言っていたはず。その上で気に入った方を婚約者としようと私宛の書に書いてあった。気に入らなかったら、別の人物を選出するとも書いていた。
さらには、もし私が学園などで出会った方が居れば、知らせなさいと書いてあった。私が母に紹介した方がそのまま私の配偶者となれるかどうかは調査してからでなければわからないが、できるだけ私の気持ちに添うようにするからという内容だった。
ちなみに父様からの書は斜め読みをしただけだ。身分身分と騒ぐ奴が多いから、婚約者候補に自分の本当の身分は知らせるなと書いてあったことは覚えている。
それを。それをだ。
やってくれた。勝手に母様の名を騙って、アランコの王子が誤解する真似をしてくれたわけだ。だからあの俺様は自分が婚約者になったあと、親しいと言われている王女に会えれば自分を気に入るはずだ、そして王女はアランコの王子という身分の自分を配偶者相手として考える、その王女が望めば女王も王命を持ってアーグ・ヘルナルという武官の婚約者を挿げ替えることにするはずだ、とか考えたのだろう。喫茶室へ押しかけたことも、女王陛下という名のもと父の出した書で知らされていた色欲婚約者の醜聞を握って、王女へと婚約を挿げ替えるための材料の一つとするつもりだったようだ。
「?なんだ?まさかグスタ、あんな子倅が気に入ったというのではあるまいな!」
「はっ?当たり前ですけど、気に入ってませんけど!あんな俺様王子なんて気持ち悪くて嫌ですけど!」
「よしっ!やはりグスタは男を見る目があるな」
ようするに、父は婚約者としてのアランコの王子を不適格だと思っていたようだ。ちなみに母はどうとらえていたかはわからない。父の、私のお相手に値するのは多分誰もいないのではないか、親バカだから。
それに今更ながらだが、私の変装用の人物の評判を落としてくれた。確かにアーグ・ヘルナルという武官が本当に存在しているわけではないから、アーグ・ヘルナルの評判は正直なところどうでも良いと思うけど、今はまだ学園で勉強をするのだから、学園での評判は気にしないと、生活がし難い。
「・・・父様、そうやって私の変装用の身分のアーグ・ヘルナルの評判を落としてくれたわけですか・・・」
「・・・怖い顔をするな、この父があの頭おかしい王子を排除するために考えた案だぞ」
「はああ」
「あの子倅、私の書いた書を読んだのだろう、婚約者になっていると勘違いして踊ってくれた」
「・・・」
「まあ、お前の変装用の令嬢の名を落としたことにはなるが、今回の勝手に勘違いしたこと、更には王女も狙うとか言ったことも噂として流しておいたから、子倅の評判は低くなり、そろそろアランコから回収の命でも出されるのじゃないかと思うぞ。
それにあの子倅、サリアン子爵やクルーム準男爵も気に入ったと言ったかほざいたそうじゃないか。まあ、お前の周りを正しく評価したことは目が肥えていると言えなくもない。だが、世間の反応は見境ない女好きのダメ王子となるはずだ。
さらにはアーグ・ヘルナルがグスタの変装した姿だと知らなかったとはいえ、自分に似合う身分の者はログネル王国王女しかいないと言ったのだろう?このままだと高貴な身分を狙って婚約者を蔑ろにしかねないクズだとも噂を流しておいたからな、お前の変装用の令嬢の世間の心証は良くなるはずだ」
饒舌になる父に、あ、これごまかそうとしてる。
「・・・そういう工作をしたことはわかりましたよ。それで、母様が激怒した理由は?まだ聞いていないのですが」
「・・・」
私の言葉に黙り込む父。
「忘れていなかったか・・・」
「忘れるわけないでしょう!」
「・・・まあ、言ってもいいか」
「?」
「アランコの子倅を選んだのが私だということだ。お前の母はな、あの子倅についてうすうす感づいていてな、そのような馬鹿者を婚約者候補にするつもりはないと言っていたが、私はどうしてもグスタの相手になる可能性がある素行の悪いあの子倅が候補に挙がる可能性を排除しておきたかった。なので、エディットに報告する内容を捻じ曲げて報告し、今は少しは真面になっていると伝えたんだ。エディットはそれを受けて渋々候補にしたんだが、素行は変わっていない奴のことだ、すぐにボロを出したというわけだ。それで今回の騒ぎをサリアン子爵の報告から知ったエディットが、報告を捻じ曲げていたことに怒り、グスタを悪意にさらしたと更に激怒したわけだ」
「・・・」
「私は子倅のような考えの自分勝手な奴が嫌いでね、それがグスタの将来にかかわってくるかもしれないと考えて居てもたってもいられなくなって排除しておこうと思ったわけだ」
この人、自分の考えが自分勝手だとは思ってないのか!
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