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第十話 悪戯好きって誰の事⑥
しおりを挟む私は自分が思ったことをカイサには言わなかった。母は私の存在を疎んでいるかもしれないとか、カイサに言えば相当怒り始めるだろう。カイサも子を持つ母だからだ。母は子をどんな時も気に掛けるものだ、今の時代は人の命の代金は相当低い、この幸せを願わない母は居ない、カイサはそう強調することだろう。
しかし、私の母は私に無関心だったと思う。私が感じている、主に気にかけてくれた人はサリアン家の人たちと父の家の人たち、そして私の専属侍女と護衛たちだった。
・・・少なくとも私はそう思っている。政務で私と過ごす時間が取れないとかも、私は聞いたことがない。・・・ただ母にしてみればそう言うことは、『言わなくても、自分の子ならわかっているだろう?』とかで済まされそうな気がする。
私はそう考えている自分を隠すようにしながら、口を開いた。
「・・・はあ・・・、母様は言いたいことはそう言うことかもしれないけど、・・・私が頼んだわけでもないのに、勝手に婚約者候補とかにして、顔合わせなどと言って王子と合わせておいて、婚約者疑惑で疑心暗鬼にさせられた私の身にもなって欲しい」
ため息をつく私に、同情の目を向けるカイサ。・・・だが私が母に対してよい感情を持っていないと知れば、カイサの反応はどうなるだろう・・・か。
「・・・ついでに言えば、私は別にこの学園で婚約者を決めたいとは思っていなかった。・・・母様が学園に通うための条件の一つにしただけ。・・・私は本当に望んでいなかったから」
最後の方は、小さく呟いたために誰にも聞こえなかったようだ。
私は貴族の家に生まれたものとして、いつでも政略のため、言われた男性を娶るつもりでいた。そのため、どんな男性が来ても問題ないはずだったのだ。・・・それが好ましいと思った男性を連れてくるようにと母に言われて、学園で学びながら婚約者選びをしなければならなくなった。
学園にはいろいろな国から同世代の男性がやってくる。その男性を品定めしながら、これはと思う方と交際し、国に連れて帰る。それも自分の本当の身分を隠してだ。出来そうもない作戦をしなければならない工作員のように瀬戸際に追い込まれ、更には上司から選んだ男性と会って話せと言われ、その男性の素性を疑わなければならなくなっている・・・。
「・・・理不尽だ・・・」
私の再度の呟きはカイサの耳にも聞こえなかったと思いたい。・・・それか、聞こえていない振りをしてくれていると良い。
本当ならこの時は学園で学んでいる内容について、自分なりの考察をしなければならないところだ。自分で言うことではないと思うのだが、私は案外真面目に講座を受けているはずだ。その講座を受け持つ講師からは、時折鋭い質問が来たりするため、気が抜けない。
今回、私が受けている講座で、前帝国の崩壊を小国の側から考察して欲しいと言われている。
これに関して愚痴を言いたくはないのだが、ログネル王国と言う大国出身である私には理解が及ばないところがある。
アルトマイアー大陸を制圧したシュタイン帝国は、成立時からログネル王国と対立していた。そのため、シュタイン帝国から分離独立をした小国の出身なら、独立した、あるいは独立できた理由が言い伝えられているのだろう。しかし当初からシュタイン帝国に属していなかったログネル王国では、シュタイン帝国は侵略者だったとだけ言われており、そしてログネル王国側から見ても理由など、すぐには思い当たらない。何度も考察しなければ答えられないことがあるのだった。
私は、現在成立している小国の一つを選んで、前帝国がなぜ崩壊していったのかを、小国の構成する民の一人と自分を看做し、考察しようとしていた。ようやくそのための書籍を準備して考える予定だったのだが、私に降りかかった先ほど来の出来事が私の思考を邪魔して、全然考えられていなかった。
・・・はああああ・・・だめだ・・・、全然考えられないわ・・・。ん?まさか、考察できない理由も母の目論見に入っているとか?・・・いや、それはないか・・・。
ふと私が学園に留学したいと申し出た時の、あの激怒した母の表情とそれを相当苦労して抑え込んでから、ふと私が相当苦労することを思いついたときの、あの弱い者苛めをする者の嫌らしい笑みを思い出す。あの時の母は、私を見てそれはそれは楽しそうに笑いながら言ったのだった。
『・・・ふふふ・・・、そういうつもりならね、アウグスタ、あなた、ルベルティ大学で学びながら、これはと言う男性を見つけて、私に引き合わせなさいな・・・、良いですか、あなたと婚約をする方ですよ・・・、身分は・・・、そうね、問わないわ・・・、生殖する機能があれば容姿はどうでも良いわ・・・』
『な?・・・』
『反論は許しませんよ、アウグスタ、あなたはこの母の言うことを聞かないのですから・・・、私もあなたの言うことは聞きません・・・、あ、そうね・・・、もう一つ、言っておきます・・・、あなた自身も婚約者を探すことを止めてはなりません・・・、そしてね、私が選ぶ婚約者候補とも交流なさいな・・・、婚約者候補は、あくまで婚約者の候補にしか過ぎないので、婚約者としたいのなら・・・、それをこの母に伝えなさい・・・、ふふふ・・・、あなたがどんな男性を連れてくるか・・・、楽しみだわ・・・』
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