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第十一話 なぜか侯爵令嬢になってしまった
しおりを挟む私はシュタイン帝国の崩壊を小国から考察すると言う考察を終え、一息ついていた。
考察に関しては、小国の発生は、シュタイン帝国末期に貴族に対する軍事動員令が発端となり、治安に不安を抱える中、実際に犯罪が横行した結果、領民を守るために帝国が発布した軍事動員令には従えないと帝室に回答し、そのまま領民を指揮して領地界を固めた結果、シュタイン帝国皇帝が過激貴族の領地軍に襲撃されて命を落とし、帝国の結束もなくなり、結果的に独立を果たした、と言う国の話があり、それを考察として出したところ、受理された。
こんな話でいいのかな・・・と、そう思ったのだが、ダメならまたもう少しまともな考察をやり直せと言ってくるだろう。
そして相変わらず、どこぞの小国第三王子と俺様第三王子の取り巻きという一部の学生からは敵視されていたが、それについては仕方がないと思っている。小国第三王子は私が断ったわけではなかったのだが、どうやら第三王子の心遣いもわからない冷たい女性と言われて、一部の学生からも眉を顰められていた。
しかし、その一部の学生の動きが大げさに伝わったかして、見るからに私設騎士団の者だと言わんばかりの装備を身に着けた一部隊が訪ねて来た。聞けば、お隣の屋敷を購入したとかで、ご挨拶にとのことだった。よろしくと答える間もなく、隣の屋敷の騎士団の世話をする使用人が出入りするようになり、それに合わせて、お隣の誼で警護いたしましょうか、いやそこまでは必要ないですよ、いやいや最近物騒ですから、いや大丈夫ですから、私に美貌の令嬢の護衛騎士になることにあこがれていたのです、いや私には腕の良い護衛が居ますので、いやあそうですか、そんなに腕の良い護衛の方が居るなら模擬戦でもお願いできませんか、いや結構です、我々も腕には自信があるのですよ・・・。こうしてあれよあれよと、隣の屋敷の騎士団と対戦することになり、三戦して三勝した私の護衛たちに騎士団は取り入ると、稽古と称して私の住む宿舎に入り浸るようになった。
勝手すぎるだろうと、騎士団に苦情を言おうとしてとなりの屋敷を訪ねたところ・・・。
留学時の後ろ盾のルンダール王国のヘルマン・フルトグレーン侯爵とベアタ夫妻が、なぜか当然のようにくつろいで座っているところに私は招かれたのだった。
「いやー、奇遇ですわね!」
フルトグレーン侯爵夫人ベアタ様が笑いをこらえながら、私にあいさつする。
「・・・いや、まったくもってそうですな」
フルトグレーン侯爵も二やついている。
・・・これ、確信犯か。
ちらりとカイサを見ると、カイサは無表情のまま私に向け、軽く頭を下げた。
・・・知ってたんだね。
こうして隣の屋敷の主となったフルトグレーン侯爵夫妻は、私の宿舎と隣の屋敷境界を無くし、自由に行き来できるように作り変えてしまった。今は木の杭を、拡大された敷地界に沿って打ち込み、簡易的に要塞化を推し進めている。重厚な一枚板で作られた観音開きの門扉が、今までの華奢な門にとってかわられ、門番小屋も併設された。
ついでに言うが、私の身分も変わった。
私は学園卒業までの間、後ろ盾になってくれるルンダール王国のヘルマン・フルトグレーン侯爵とベアタ夫妻の養女、「アーダ・フルトグレーン侯爵令嬢」となることになった。今までのログネル王国外務卿付き武官「アーグ・ヘルナル男爵」ではなくなったのだった。
宿舎の者は私以外はすべて周知だったようだ。
「・・・してやられたというところなのでしょうか?」
フルトグレーン侯爵夫妻に請われて、私は隣の屋敷の二階に新設した応接室でお茶を飲んでいる。
ちなみにこの屋敷は侯爵が所有する別荘の一つとなるそうだ。国元から家具を運び入れ、アリオスト王国のルベルティを訪れたときの宿泊所とすると言っていたが、なぜか一階の騎士団はここから動かさないそうだ。
『・・・この騎士団は私が創設した私設騎士団でね、旧知のお嬢さんが一人で住んでいるのは、私としては相当気がかりなのだよ、だから常駐してもらってね、力の及ぶ限り警護するようにと、連れて来たんだよ』
『いやー、閣下がご心配になることはなさそうですよ、なんてったって、お嬢様のお付きの護衛は相当手練れです。私も含めて立ち会いましたが、全員負けましたから』
『なんとなんと・・・、それなら教えを乞うてはどうだ?腕を磨いて更に役に立てるのが良いだろうさ』
『畏まりました、閣下』
騎士団の隊長であるフレーゲが相好を崩している。腕を上げれるのが相当嬉しいらしい。まあ、騎士としては案外遣える方なので、強い者に揉まれれば、上達するだろう。
「元々は、お嬢さんを留学中だけでも私らの子にするつもりだったのだよ。だがね、そなたの母御が相当嫌がったのでな、半年も時間がかかってしまった」
「母様が嫌がったのですか?あ・・・」
そう言ってしまってから、気が付き、言い直す。
「女王陛下が嫌がったとのことでしたか?」
「そうだね、娘の母は自分だと相当お冠でね」
ちらりと、フルトグレーン侯爵が自分の妻に視線をやる。
「ベアタが母と呼ばれるなど絶対に許せないとか、言っていたな」
「・・・旦那様はもう家督を息子に譲っているのです。私たちは身軽ですから、アリオスト王国で卒業まで一緒に暮らせるし、そうすれば何かと面倒も見れるからと言っていたのですが、どうやら母は一人だけだと言いたかったらしくて・・・」
これ、本当に母様の事なんだろうか・・・。あの人は私を縛って動けなくしようとか考えているのじゃない?フルトグレーン侯爵夫妻が傍に居れば、私が嫌がることは強制できなくなるから、不都合だとか思ってない?
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