43 / 63
第十二話 貴族子女の語る王国史①
しおりを挟む私の祖国ログネル王国は、ログネルと呼ばれた種族の建てた国だ。ログネルは大陸の南西部の高原に居住した種族だった。実のところ、確かに子供から大人に至るまで、ほぼ全員、男女の区別なく剣を学ぶ。それは、ログネルの生い立ちに関係がある。
ログネルという種族は、本来は穏健な考え方を持つ非定住の種族だった。家畜を育てながら大陸を巡る遊牧民だったが、ログネルの一家族が大陸の南西部にある切り立った崖を登ったところに広大な高地を見つけ、その高地で定住した。その話を聞いた他に流浪していたログネル達も合流し、定住を始めた。
住む人数が増えてくると、穏健な異種族とはいえ、諍いが増えてくる。高地を見つけて最初に定住したログネルの一家族は、定住する土地を見出したことから別格な存在となっていた。さらには資質も高く、争い事を良く調停したことから、指導者としての役割が定着していった。指導者が決まると揉め事は少なくなり、ログネルは安心して住むことができるかに見えた。
高地でのログネルの生活は定住とともに変わっていった。遊牧が主だったが、牧場を主とした酪農に変わっていき、さらには野菜などを生産する農業も行われるようになった。ログネルは遊牧をしていた頃よりも食に充足することができ、飢えに苦しむなどなくなった。
ログネルは産めば育てることができるようになり、悪しき慣習となっていた間引きという忌まわしい所業もしなくてよくなったのだった。
生まれてくる子を全部育てることができたため、種としては強くない子も育てるようになる。さらには外敵の存在もあり、ログネルは穏健な路線をとることが難しくなったのだった。
外敵とは、この地方に住むログネルとは違う種族だった。彼らは高地が住むに適した土地と知ってしまい、短絡思考を繰り返した挙句、この高地を奪おうとして戦を仕掛けてくるようになった。敵対する種族は一つだけではなく、五種族もあった。せっかく手に入れた生活を手放せなくなっていたログネルは、これらの種族に対抗するため、戦えるものは女子供も武器を取り、戦に参加するようになった。三年ほどかかって五種族をすべて平らげたログネルは、五種族のいた土地も手に入れ、種族として隆盛していった。
この五種族との争いはログネルの考え方を根本から変えた。女性も戦えることが分かり、男女の区別なくログネルの政治に参加することになっていく。区別がなくなったことで、兄弟間の諍いを収めるため、長子に家を継がせることにした。次子以降が別に家を建て、別の名を名乗るようになり、ログネルは種族として増えていった。
こうしてログネルは「ログネル」と国の名を名乗り、高地を見つけたのち指導者となった家族を頂点に据えた国を建国することになったのだった。そして指導者以外のログネルは政治を司る貴族となった。
ログネルの建国は征服された五種族の待遇も必然的に引き上げていくことになる。ログネルに忠誠を誓うものはログネルの元、重職を任されるようにもなり、国としての体裁も整っていく。
最初に発見された高地に宮殿が作られ、戦に挑んで負けた種族を取り込むため、ログネルの貴族がその地に派遣され、国の規模は拡大していった。
ログネルの噂を聞きつけて、いろいろな思惑の者が訪れた。友好的なもの、そして敵対的なもの。敵対するものは一方的な戦を仕掛け、そして負けて征服されていく。ログネルの版図は広がっていき、大陸の南西部の大半がログネルの勢力圏となっていった。そして友好的なものは、ログネルの庇護を受けたと願い、宮殿に詣でるようになっていった。その中に大陸の征服を目指す帝国があった。
当時、大陸はログネルの民の間では「陸」と簡素に言っていたのだが、帝国は大陸を「アルトマイアー大陸」と名付けて呼び始めていた。最初は帝国から商人がやってきた程度だった。だが、それは商人かつ諜報を担うものだったのだろう。
帝国はログネルと交易を開始した。当初は帝国側の一方的な商人の押しかけ商売だった。ログネルは帝国の思惑については関知せずだったが、組することも少なかった。
そしてある時、ついに帝国から高官がやってきた。外務大臣と呼ばれるものだった。
外務大臣は帝国を「わがシュタイン帝国は・・・」と初めて自国の名をつけて呼び、ログネルに大々的な交流を申し出た。だがシュタイン帝国にきな臭いものを感じたログネルの指導者は、種族間の交流は断った。だが何度も懇願する帝国側の使者に対し、根負けした指導者が何を欲しいかを尋ねたところ、使者は嬉々として話し始めた。
当時のシュタイン帝国は領土を広げ始めたところで、他国への侵略を開始していた。侵略を急いでいるため、軍事力の不足を感じ、常に兵士を欲していたシュタイン帝国は、ログネルの噂を聞きつけて、敵対をしたくはないと考えていた。ログネルと敵対すれば、強大な力を持つ国の相手をしなければならない。そしてログネルは侵略を行いながら片手間に相手できるほど弱小国ではなかった。
ところで兵としてのログネルは男女の差もなく戦に出るため、幼いころから剣を取り、戦について学び、さらには従軍するように今ではなっている。戦慣れしているものが多く、決して無理をしない。
侵略戦争で慢性的な兵力不足に悩んでいた帝国は、このような種族ほぼ全員が戦うことのできるログネルを傭兵として利用し始め、大いにログネルの力をもって大陸の征服を果たした。
ログネルは大陸の南西部を与えられ、制度の改革をし、「ログネル王国」と名乗り、王制を引くことになった。もちろん王はあの高地を見出した一家族の出身者だ。ログネル種族は領地持ちの高位貴族となり、公爵、侯爵、伯爵という爵位を与えられた。被征服民の中で際立ったものは下位貴族となった。子爵、男爵、そして騎士爵だった。
高位貴族の領地は広く、下位貴族は広くはない領地を与えられた。ログネル王はログネル族に関しては家の長子相続を徹底したが、被征服民に関してはその家の裁量に任せていた。
こうしてアルトマイアー大陸につかの間の戦のない平和な時代が訪れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
聖女は秘密の皇帝に抱かれる
アルケミスト
恋愛
神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。
『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。
行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、
痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。
戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。
快楽に溺れてはだめ。
そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。
果たして次期皇帝は誰なのか?
ツェリルは無事聖女になることはできるのか?
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、どうやら周りの人たちは私の味方のようです。
ましゅぺちーの
恋愛
公爵令嬢のリリーシャは王太子から婚約破棄された。
隣には男爵令嬢を侍らせている。
側近の実兄と宰相子息と騎士団長子息も王太子と男爵令嬢の味方のようだ。
落ち込むリリーシャ。
だが実はリリーシャは本人が知らないだけでその5人以外からは慕われていたのだ。
リリーシャの知らないところで王太子たちはざまぁされていく―
ざまぁがメインの話です。
白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!
ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。
婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。
対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。
相手は幼少期から慕っていた親友だった。
彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。
だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう
学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。
一人の少年に手を差し伸べられる。
その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。
一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。
聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが…
タイトル変更しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる