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第十三話 令嬢としての日々と王子の偽りの言い訳②
しおりを挟む「・・・それがどうして一緒に外出することになっているのですか?」
私の言葉に、夫人が珍しく一瞬だけ逡巡する。しかし軽く肩をすくめると、ため息とともに答えた。
「・・・誤魔化そうかと思ったけど、正直に言いましょうか」
「・・・ご、誤魔化す・・・」
「あなたは養子だけど私の新しい娘になったわけでしょう?あなたが本当は何者で、どれだけ重要な地位にいるかはわかっているのよ。だけどね、私が本当に知りたいのは、あなたが本当は何を好んで、何を嫌っているかなの」
「・・・」
「あなたと私の間の親子関係は、多分あなたがここルベルティにいるだけとわかっているの」
夫人の言葉に、私は目を瞑る。この義理の母とは学んでいる間だけ親子関係になっている。当たり前のこととわかっていても、胸の奥が痛んだ。何か言わないとと思ったが、結局ありきたりの事しか言えなかった。
「・・・そうでしょう、ね」
「だからねえ、親らしいことがしたかったのよ。娘の好きなものを一緒に買って、娘の好きなものを一緒に食べて、娘の行きたいところに一緒に行って。・・・まあ、嫌なものは嫌でもいいけど、私の娘にやってあげたかったことを、これからどんどんしていくの」
私は目を開け、やっとの思いでなんとか言葉を絞り出そうとする。この人はどうしてこんなに私をかまってくれるのだろう・・・。
「・・・ありがとうございます・・・」
夫人は目を開けた私を見ていた。その目はとてつもなく優しく見えた。貴族なら表と裏は違っているだろうけど、この義理の母になった人は表も裏もない、そういう気がする。
「私の娘は、言葉だけでも喜んでくれそうなんだけど、もっと心に残るなら、そっちの方がいいかなと思ったから、私の娘に、贈り物をすることにしたの、私の娘になってくれてありがとうって伝えたくてね」
「・・・」
「ただねえ、新しい娘は何を送れば喜ぶのかわからないと考えてしまってねえ。・・・それで今日はねえ、色々と入用なものを見に行こうと思ってるの」
「そ、そうでしたか・・・」
「遠慮することないのよ。・・・まあ、お国に帰れば何でも揃うでしょうけど、それはその時に必要な物であって、今必要な物かどうかは今じゃないとわからないじゃない?私はそういう今必要なものを娘に揃えてあげたいのよ」
国の規模からいえば、ログネル王国とルンダール王国では違う。ログネルの方が国庫の予算の方が多いはずだ。もちろん民の数も全く違うのだから単純に予算を比べることはできない。だから私は親だ親だと言うフルトグレーン侯爵夫人に反発はせず、その申し出をありがたく受け入れることにした。だが、故郷の母がそれを知ったら文句を言ってくるような気がする。それを考えたとき、ちらっと妙に母に反論したくなっている私が存在していることに気が付く。
「それにねえ、せっかくルベルティに来ているのだからねえ、一緒に街を巡ってみたいと思ったのよ。
このアリオスト公爵領は貴重な文献を守ると宣言して防衛のための戦いすら放棄した。その所為で結局戦火に巻き込まれることもなく、昔のままの街並みを受け継ぐ事が出来たのではないかしらね。商店も昔ながらの老舗と言うところも多いの。そういうところを見て回るだけでも楽しめるのではないかしらね」
そう言いながら、ちらりと、馬車の窓から外の街並みへ視線を送る。私も釣られて外を見た。
「・・・ああ、そうだわ・・・、わけのわからないあの婚約話に疲れてしまっているのではなくて?まず、あのアランコのおバカは災難だったわね。でもあのおバカはあなたの身分を正確に知らなかったから、絡まれて嫌な思いをしたのでしょう?」
外を見たまま、ふと思いついたでも言いたげにこの間のことを口にする。あまり思い出したくない話で、私も外を見たまま、苦笑いをした。
「ははは・・・」
「それにね、ここへは本当は学問をしに来たのでしょう?あなたが学園で学ぶために入学の後ろ盾になってくれる仮親を必要としていると聞いて、まずは話だけでも聞いてみようと思ったと、夫は言っていたわ。まあ、入れ込むわけじゃないけど、大国のログネル王国に恩を感じてもらえるなら、いざというときに頼ることもできると、夫は考えたと思うの。ルンダール王国内でも、我が家門をルンダール王室は無視できなくなるとか、そこまで夫は考えたと思うの。でもねえ、夫も私も間違っていたのよ」
「どういうことでしょうか」
「それはね、学園に来る途中でわざわざ会いに来てくれたでしょう?その時初めてあなたを見たわけだけど、こんな綺麗な子が思いつめたような表情で助けて欲しいと言うのよ?それならって、私たちは思ったの。
要はね、あなたの危うさが気になってねえ」
「・・・そうですか、やはり私は危ういですか・・・」
「一生懸命過ぎて、ね。・・・あなた何でも自分が背負わないといけないとか考えているのじゃない?本当は王位なんて継ぎたくないのでしょ?元々の伝統だからとか、考えていそうだしね。
でもね、嫌なら継がなくてもいいのじゃない?そう考えてみることはできないの?」
「・・・わ・・・私が王位に就くことは、決められて・・・定められて・・・昔から長子が継ぐことになっていて・・・」
私はなんとか言葉を絞り出すが、それは弱々しいものになっていた。
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