貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第十三話 令嬢としての日々と王子の偽りの言い訳⑦

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 「・・・別に婚約者を探すか、婚約者候補がどうするのか、確認することにした」

 母様がどうしたかは多分、親書まで書いて各国に送っている手前、再度送るとかはしなかったと思う。まあ、出来ることは、国内で年齢相応の相手を片っ端から打診しまくることと同時に婚約者になりたいと思っているのなら、今までの婚約者と婚約破棄をしろとか言うことぐらいかも。

 「・・・侯爵夫人の言われる通りです」

 観念したのか、第二王子殿下が仕方ないという風情で話し始めた。

 「・・・私のところに婚約者を宥めすかして何とか宿舎に帰らせた後、父から伝令を送られました。それも早馬で」

 第二王子殿下は目を宙に据えているが、その冴えない表情は内心の動揺が表に出てきているようだった。

 「女王陛下が知ったら、どんな理不尽なことを言われるかわからない。エルベン王国はログネル王国に依頼されてログネル王国の貨幣を鋳造して、今の地位を得ることができた。それを今から亡くすことはできない」

 「・・・まあ、そう言われるでしょうねえ」

 義母の肯定に、第二王子殿下の冴えない表情は苦悩する表情にと変わっていく。

 「・・・父上は伯爵令嬢と婚約解消することにしたと、王命を出したそうです。その上で、ログネル女王からの申し出である婚約を進めると、決めたのだそうです」

 「・・・」

 私は何も言うことができず、ただただ黙っていた。なぜか猛烈に居た堪れない気持ちになっていた。今ここに義母が居ることがただただありがたかった。

 「私の気持ちは・・・」

 そう言いかけた第二王子殿下は、苦しそうな表情で私を見た。私はその目を見返す。

 「・・・こ、侯爵夫人の仰る通り、虫が良い話だと思いますが、このお方との婚約の話を進めていただきたいと思っています」

 「・・・」

 私は目を瞑る。しばらくそのままで、私は身動きをしなかった。ふと、私はあの婚約者だと言いながらも、私を見たときに何かを悟ったような表情でありながら、悔しさを滲ませながら私を睨みつけて来たあの令嬢のことを思い出していた。

 あの令嬢は第二王子殿下と婚約が決まったときに、どれだけ嬉しかったのだろうか・・・。いや、あちらも政略で決まった相手だったので嬉しいとかなかったのかもしれない・・・。

 私が目を開けると、私を複雑な表情で見ている第二王子殿下と眉を寄せて心配そうに見つめる義母が居た。義母が心配する表情を見せたことが不思議だった。

 「・・・あの伯爵令嬢、確か、名をイルムヒルデ・キルシュネライト伯爵令嬢と言われたと思うのですが、」

 私が伯爵令嬢の事を口に出すと、明らかに第二王子殿下は表情を強張らせた。

 「あの方はどうなりますか?」

 どうやら一番聞かれたくなかったことらしい。視線をさっと逸らし、一度咳払いをする。

 「・・・こ、答えなくてはなりませんか?」

 この言葉に私はふと思った。・・・こんなにもわかりやすく動揺する男性が王配担っても良い物だろうか・・・、いや待て、反対にこんなに表情を読みやすい男性なら反対派とかに祭り上げられてもわかりやすいのか・・・。

 「・・・なにがしかの処分とかあるのですか?そんなことはないと思いますけど、もしかしたときに、私だけ恨まれてはたまりませんから」

 「・・・案外攻めるのねえ・・・」

 義母がにこにこ顔になって呟いていた。

 「・・・イルメは、」

 言いかけて、はっとした表情になり、慌てたように言い直す。

 「イ、イルムヒルデは、」

 「どうされたのですか?お教え下さい」

 愛称で呼んだあと、またしても名で呼ぶという失態を見せる第二王子殿下だったが、私はそれにはわざと触れずに続きを促す。

 「・・・イルムヒルデ・キルシュネライト伯爵令嬢は、父上、い、いや、国王陛下が必ず良縁を紹介すると・・・」

 「・・・確約されたということですね」

 「そう、そのはずだ・・・、いや、そのはずです・・・」

 「もう関わってはこないと、第二王子殿下は仰るのですね?」

 「はい・・・」

 「・・・それでは、再度お伺いいたしますね、くどいと思われるかもしれませんが、私の気持ちを落ち着かせたいので、再度お聞きするのです」

 私は背を伸ばし、席についたときに運ばれてきていたお茶にようやく手を伸ばす。ゆっくりカップを持ち上げ、一口お茶を口に含む。ゆっくり味わいながら嚥下する。

 カップをテーブルに戻すときに、カタリと、微かに音がした。

 これからのことを考えると、相当憂鬱なのだけど・・・。

 「・・・第二王子殿下は、この私と婚約を結びたいと思っておられると言うことで間違いありませんか?」

 私の手の動きを追って、カップを戻した際にそのカップにそのまま視線を向けていた第二王子殿下は、はっとして顔を上げる。私に視線を向けた。

 「・・・はい、その通りです・・・」

 「わかりました。私としては、女王陛下の選んだお方に対して何かしらの意趣を持つこともありません。これから以降は、第二王子殿下は私の婚約者です」

 『本当にそれであなたはいいの・・・?』

 義母の声が聞こえたような気がした・・・。
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