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第十五話 小国の王の中にも野心家はいるようで①
しおりを挟むあれから一年半が過ぎ、学園に通うのもあと半年となった。
話をした一月後に、アリオスト王チェーザレの宮殿の一室で、アリオスト王と、エルベン王国国王の代理人、ログネル王国外務卿本人、そしてフルトグレーン前侯爵夫妻、そしてカイサとエリン、第二王子殿下の侍従が揃い、三通の婚約証明書を作成し、アリオスト王チェーザレ、エルベン王国国王代理人、そしてログネル王国外務卿がそれぞれ三通を保管することになり、私とエルベン王国フェリクス第二王子殿下との婚約は成立した。
本来ならば私はこのルベルティ大学に留学することはできなかったはずだった。私は母の後を継ぐ為に、母の元で政治を学ぶようにと言われていた。しかし私はそれを嫌ったのだった。母の言うこととは違う考え方を求め、このアリオスト王国のルベルティ大学に留学することに決めた。
当然それが気にくわない母は、私に無理難題を吹きかけ、留学をあきらめさせようとした。学園には学びに来るのが正しいことであったのに、学園で婚約者を探せ、婚約者候補を送るので、顔見せしろと言ってきた。結局、母が読み間違えたせいで、母の紹介で顔見せした小国の王子と、私は即婚約者を決め、あとは煩わされることなく学園で学ぶことができたのは、相当ありがたかったのだが。
そう言えば、今はもう学園を卒業しているフェリクス・エルベン第二王子殿下だったが、卒業しても学園に残っている。卒業したのちはエルベン王国に戻るはずだったが、なぜか学園で研究を続けると言い出し、今も学園に行く私の近くをうろうろうろついて、私の邪魔をしている。
婚約者となったフェリクス殿下は日に二回も会いに来る。私に気障にあいさつをして、私の手を取ろうとしてくるが、そのことを鬱陶しく思う私が帯剣する様になると、手を取ろうとはしなくなった。表情が抜け落ちたまま私の腰の辺りの剣帯を見つめてから、そそくさと距離を取る。私が最近名付けられた地政学と言う学問のために、学園の図書館に入り浸るようになると、なぜだか知らないが、婚約者となったフェリクス殿下は離れていく。時折一日中一緒に過ごせないことが不満だとか、私に愚痴を言うようになり、私はそのような言葉を聞くのが嫌になり、最近は距離を置くようになっている。
政略なのにそれほど一緒に居たいとか、私にとってはあり得ない事なのだが、王子殿下には何か思うところがあるらしい。
『そりゃアーダ、あなたが魅力的だからよ』
義母はいつものようにふふふと笑いながら、口にお茶を含む。
その返事については、週に必ず一度の義母とする二人だけのお茶会の席で、私がふと口にしたことが切欠だった。
義母はお茶の席に滅多に出なくなったらしいが、私とするお茶会は別だそうだ。義母はルンダールにいたときは侯爵夫人として招待されたり、はたまた招待したりと社交に精を出していたらしい。
『・・・ふふふ・・・、これでも美貌の侯爵夫人として名をはせていたのよ』
『・・・そうなのでしょうね』
私はその時、失礼にならない程度にしげしげ義母を見てそう返した。
『・・・あらあらなあにその熱の入らない態度は』
冗談のような表情で義母が咎める。
『・・・も、申し訳ありません・・・』
私がそう謝ると、義母は手にしたカップをテーブルに戻し、堪え切れなくなったらしく肩を震わしながら笑う。
『・・・まあ、いいでしょ・・・。可愛い私の娘の言うことですもの、大目に見ましょうね』
『・・・ありがとうございます』
『・・・私の昔のことはまあ良いとして、あなたの今の面倒な関りについてお話ししましょうか』
ひとしきり笑った後、義母はことさら真面目に口を開く。
『先ほど私が言った、あなたが魅力的だと言う話についてけどね』
『・・・はい』
『あなたはねえ、フルトグレーン侯爵家に養子に入ったときよりも、さらに魅力的になっていることはわかるわよね?』
『・・・あまり変わらないと思いますが』
私の弱い反論に義母は何も反応せず、話を続ける。
『あの、腹黒顔だけ王子はね、最近気が気ではないのよ』
『・・・?』
義母の言葉に首をかしげる私だが、それを見て取った義母は、思わず指で苛立たし気に額を数度叩く。
『学園や街を歩いているとき、あなたに声を掛けたり、すり寄ってくる男性が多くなったと思わない?』
『・・・多いのですか?』
『・・・多いのよ』
『そうでしたか・・・』
『・・・あなたがそのうちに声を掛けてくる男性気を移すのじゃないかと思って、気が気じゃないのよ、あの王子は』
どうやらそう言うことらしい。良くはわからないが、お互い政略的な婚約なのだから、お互いを束縛しないようにと、私は考えているのだが、フェリクス殿下は束縛をしたい方らしい。・・・そう言うことはちょっとやめて欲しいと、私は思っているのだが。
今にして思えば、私の婚約が引き金になったとは思えないのだが、あれからのことは私自身のことが最初の関りになったのではないかと、あながち間違いでもないように思えるのだった。
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