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第十六話 自称侯爵の国の陰謀
しおりを挟む「・・・それでどうなんだ?あのくそ共の集まり、ログネルの領土はとれるのか?」
まったく、何度目だ。口を開きゃ、同じことばかり聞きやがって。
「国境近辺の爵位持ちの領地ぐらいはとれるでしょうね」
まったく鬱陶しい野郎だが、大事な金蔓だ。機嫌はとらなくちゃな。
「・・・ログネルの軍は相当強いぞ。蹴散らせるのか?」
「出来ると断言はできかねます。なんせ、寄せ集めの軍隊ですしね。・・・蹴散らされる前に後退して隊列を整えればよい。まあ、それに国境のログネルの貴族は最近ログネル傘下に参加したばかりで、良い所を見せようとするかもしれませんし」
「・・・てめえ、世迷言ばかりじゃねえか!確実に倒せる算段をしやがれ!」
脳みそ足りないのか、こいつ。だから作戦を立ててると言っただろうが!何度も同じ事聞きやがって、いい加減学習しやがれ!
「・・・戦場での勢いはログネルの方が上でしょうに。こちらは寄せ集め。あちらは一国の軍隊で、まとまりがある」
そう答えてやると、苛立たし気に髪を掻きむしりやがった。
「・・・うちの爺さんを袖にしやがってあんな片田舎に追いやった恨みつらみは耳にタコができるほど聞かされてんだ。その爺さんが死ぬまで言ってたのはよ、必ずログネルの宝を獲れだ。どんなものでもいいからログネルの宝を、俺は獲らなきゃならねえ。そうしなけりゃ、爺さんは成仏しねえんだよ」
・・・あれ、本当の話なのか・・・?侯国の宮殿に夜な夜な爺の霊が出て、ログネルの宝を持ってこいと騒ぐのって。
「た、宝って何の事なんです?」
何とか気を取り直して聞いてみる。
「・・・知らん」
「はあ?」
知らんのかい!思わず怒気を込めちまっただろうが!
「・・・だが、一応想像はつく・・・」
その言葉に思わず生贄かと、眉が寄った。
「・・・爺さんはな、女好きだった・・・」
「・・・そこら辺の商売女でも簀巻きにして連れて行けば成仏してくれるとか・・・?」
一応訪ねておく。が、碌なことじゃないだろうな・・・。
「・・・いや、それじゃだめだ・・・。少なくとも貴族の女じゃないとな。それもログネルの血が流れてる女だ」
おおっと、ログネル族の女を連れて、あのさびれた宮殿で生贄として殺すってか・・・。こいつ、クズ野郎だな。
「身分が高くないとダメだ・・・。爺さんが成仏しねえ・・・。夜な夜な俺の耳元で早く連れて来いと言ってきやがんだ・・・。参っちまうぜ・・・」
目が血走って、よれよれなのはそういうところからかよ。油じみた髪なんか見れたもんじゃないな。
「・・・そ、そうか・・・」
「・・・」
なぜか、妙に光る眼で俺を見てきやがる。手を引っ込めようとしたが、いつの間にか伸びてきた手が腕を掴んで離しゃしねえ・・・。馬鹿力めえ!
「・・・ログネルの貴族の女を攫ってこい・・・。身分の高い奴だ・・・。それを爺さんに捧げる・・・」
・・・こいつ狂ってんじゃねえか・・・?
「・・・そうだ聞いたぞ・・・、ログネルの貴族の女が、ルベルティの学園に居るんだってな・・・?」
「ああ、た、確か・・・八人ほど、な」
指折り数えて答えると、ふへへとか笑ってやがる・・・。ようやく腕を離しやがった。こりゃ、数日痕が残りそうだな。
「・・・八人か・・・、攫ってこい・・・、誰でもいい・・・」
「・・・わかった・・・。あのログネル軍の子爵にも、学園で攫えなかった時のために準備させておく」
気狂いの侯国の跡取りさんだが、霊に憑りつかれちまうなんて、考えてみれば哀れだよな。だがな、これも皇国での、この俺の名を上げるためだ。ログネル貴族の女にゃ悪いが、俺の踏み台になってくれ、まだ攫ってこれてないが、今のうちに謝っとく。
「・・・ログネル軍の参謀殿はどうだ?怪しまれてないか?」
俺の言葉の意味わかってるか?一瞬不安になったが、答えたので、ぎりぎり勝機は保ってるのだろう。
「・・・問題ねえ。・・・うちに恨みはあるはずだってのに、簡単にこっち側に寝返りやがったぜ・・・。さらにあの周辺の帰化貴族の独立承認の書類を出すと言ったら、そいつらまで束ねてくれてな・・・、後方からの奇襲は成功だろうな・・・」
目がギラギラしてやがるな。ログネルの一地方の攻防ごときで、喜べるなんておめでたい奴だな。ログネルが差し向ける軍は全体の多くて三割程度だろうにな。そんでもって、それにはこっちは敵わねえ。言わねえけどな。
・・・まあ、いい夢見させとくか・・・。あっと、皇帝陛下に連絡を入れておかないといけないな。兵を伏せておける場所を見つけておかないといけないな・・・。あそこら辺の地図を確認したほうがいいよな。
・・・女か・・・。そう言えば、ルンダールの侯爵家の養子になった元ログネル貴族の令嬢が、学園にまだ留学で居たよな・・・、ものすげえ美人の。
・・・まあ、攫えないだろうが、一応アランコの第三王子に命じとくか。現地で仲間を集って、襲撃しろと言っとけば、少しは役に立ってくれるかもしれん、な・・・。
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