2 / 53

ハイタッチ

しおりを挟む
 いきなりだった。宙に漂いながら俺の葬儀に参加してくれている人たちを観察していると、俺の身体が……いや、魂が大きな手の平に包み込まれてしまったのである。
 とても温かな手であった。肉体というよりもっと高次元のエネルギー体、霊体みたいな感覚だ。俺の遺体はしばらく低温保存されていたこともあり、霊体=冷たいとイメージしていたけど、俺を包み込んでくれている手は、とても温かな霊体であるのだ。
 それと、今の俺がどんな姿をしているのかなんて分からない。調べようもないしね。昔からよく描かれている人魂みたいな形になっているのだろうか?もしくは、白衣に三角頭巾、青白い顔をした日本伝統の幽霊の姿なのだろうか?

 包み込まれていた手から解放された。不思議な空間の中にいた。雲の中のような真っ白でぼんやりふんわりした場所に、いわば放り出されていたのである。立っている、浮かんでいる、というよりは手足のない霊体のような感じで漂っている感じだ。
 赤ちゃんがいた。何故か、俺にはこの子が男の子であると直感で分かっていた。男の子は積み木を積み上げていく。積み木というよりジェンガに近いかもしれない。
 ある程度の高さ、といっても赤ちゃんなのでせいぜい30センチぐらいまで積み上げていく。1歳にもなっていないだろう。それなのに、へえやるじゃん、俺は感心してしまう。天才でもバカでもない俺の赤ちゃん時代、多分こんなマネはできなかったと思う。

「何するんだ!」
 俺は叫んでいた。口があるかないかも分からないのに、確かに叫んでいたのだ。身長が小学校に上がるぐらいの背丈の小鬼が、赤ちゃんが頑張ってせっかく積み上げた積み木を蹴飛ばして崩してしまったのである。
 小鬼といっても日本の地獄絵図に出てくるような奴ではない。日本の鬼といったら頭に角が生えていて肌色は赤か青、虎ガラの袈裟衣かパンツ一丁と相場が決まっている。何より巨大な体格をしていて、子供ほどの背丈の鬼など聞いたことないし、絵本で読んだこともない。
 小鬼にはまず角がなかった。その代わりに耳が尖っていてすごく大きかった。あと鼻も大きい。日本の天狗のように。顔全体の作りは日本人というより西洋人っぽい。もちろん人間ではないけれど。肌色も緑色だ。
 コイツはどこかで見たことあるぞ。すぐに思い出す。ゴブリンだ!ゲームにラノベにアニメにマンガ。ファンタジー作品ではお馴染みのザコモンスターだ。
 なんでコイツがあの世になんかいるんだろう?

 一生懸命頑張って作り上げたものを壊され、その頑張りを否定されてしまい、赤ちゃんはしばらくの間泣きじゃくっていた。でも、すぐに泣き止んで、またリトライしていく。偉いぞ、坊や。男の子はそうでなくちゃね!

「テメエ!今度という今度は許さないぞ!」
 俺はゴブリンに殴りかかっていく。殴ってやりてえ!怒りが怒髪天を超えたら、自然と手が生えていてゴブリンの方へと文字通り飛んで行っていたのである。
 ゴブリンのヤロウ、またもや赤ちゃんが積み上げた積み木を蹴飛ばして崩してしまったのである。完全にブチ切れて、殴りかかって行っていた。
 怖さはなかった。相手がたいていの作品で最弱設定のゴブリンということもあったのかも知れないが、目の前で仕出かしたことに対する怒りが強すぎた、というのが一番の理由だと思う。

 バゴッ!ストレートなのかフックなのか分からない。兎にも角にも俺はゴブリンの顔面を殴りつけてやった!さらに、蹴りたいと思うと足が生えていて、サッカー仕込みのキックをゴブリンの顔面正面に食らわせてやった!
 ゴブリンの身体は吹っ飛んでいって、10メートル先ぐらいで消滅してしまった。アイツの身体も物質ではなく霊体的、精神的な何かで出来ていて、同じ“物”ではない“もの”でできている俺の身体だからこそ、呆気なく斃してしまったのだと思う。
 それにしても、こんなことをしてしまったのはいつ以来だろうか、多分大学生の時に同じサークル内にいた、いわゆる女たらしの一学年上のクソヤローを殴ってやった!以来だ。
 あと、この場面。賽の河原にそっくりだ。赤ちゃんは親より先に亡くなってしまった仏さんで、ゴブリンは鬼だ。で、俺が赤ちゃんを救ってやったことになるから、えっと……お地蔵さんだったよな確か、その役割をしたことになったのだ。

 赤ちゃんは、ハイハイで俺の方へとやって来る。足元にたどり着くと、俺の足を伝って立ち上がろうとするが上手くできない。まだ二足で歩くのはおろか立つことさえできないようだ。
 泣くかな?赤ちゃんは今にも泣き出しそうな顔にはなっていたけど、涙を流すことも嗚咽を漏らすこともなかった。
 立てないほど幼いのに、強い子だよな。そう思うと、こんな良い子が生まれてすぐに死んでしまったなんてあまりにも可哀想だ、不条理だ。俺の方が泣いてしまった。
 出来ることなら変わってあげたい。ってそれは無理だよな。俺ももう死んでしまっているのだから。生きていたら、あげられる範囲内で血や臓器の一部をあげることぐらいはできたけど。

 え?突然、赤ちゃんのすぐ真下から上へ向かって人が出てきた。いや、人の形をしているけど、俺のような故人という感じではなかった。
 頭はツルピカ。だけど、顔の造形は美しいの一言なのだ。柔和な輪郭、大きめのサイズの目はいつも細く開かれていて、やはり柔和であるのだ。額の真ん中は楕円形に赤く輝いている。優しい感じの女性、というより若い母親という感じかな。
 透き通るようなスケスケの衣を纏っていて、肌も透き通るように美しく神秘的。胸はなかった。いや、女性的な膨らみはなかった。痩せ型の体格ではあるが、しっかりと筋肉はついていた。
 男の娘……。つまりは、女ではなく男。というより男と女の真ん中の性、この世ならざる中性という性別であるかのようだ。
 高位の仏様、菩薩様だ!不信心な前世を送ってきた俺であるが直感する。神様仏様に関する知識は、ファンタジーゲームやアニメなどのエンタメでしか知らない。ああ!神様仏様お許しを~。

 仏様、菩薩様は赤ちゃんを抱き抱えていた。目線が高くなった赤ちゃんと、目が合った。その瞬間、赤ちゃんは微笑んだ。嬉しそうに。かわいいなあ!俺の表情は自然緩んでしまう。
 え?赤ちゃんは手をくねくね動かしている。明らかに俺のことを手招きしているように感じられる。すぐ間近までいくと、赤ちゃんは微笑みを浮かべたまま右手を俺の方へと伸ばしてきた。手のひらを全開させる。
 ハイタッチをねだっているのかな?理由はよく分かんないけど。まあ、まだまだほんの幼い赤ちゃんだ。ただ漠然と親か誰かがハイタッチをしていたのを見て、それを本能的に覚えていて、自分もしたくなったのかも知れない。
 俺は気軽に応じてやる。断る理由など何一つないからね。いくら死後の世界とはいえ、赤ちゃんに怪我をさせないよう力を緩めて、彼の小さい手のひらに俺の手のひらを軽くタッチしてあげる。ピチぃ。

 赤ちゃんは嬉しそうにより顔を破顔させた。かわいいと同時に、見ているこちらが楽しくなってくるほどに。
 その瞬間、赤ちゃんを抱いたまま菩薩様は俺のところから離れて行った。心なしか、菩薩様も少しだけ顔の表情を緩くしたような気がした。裸足の足の下には蓮華の花のような乗り物があり、それに乗って遠ざかって行った。
 その様を見つめている時であった。ヒュぅーん。そんな感じで、俺は真下へ向かって落下して行ったのだ!目の前が真っ暗になって、視覚以外にも何も感じられなくなってしまって……。
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...