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アクセル・アイアンバトラーとしての新たな人生

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「Ogyaaaaayyyy!」
 まず、一つだけハッキリと理解できたことがある。俺は赤ちゃんであるということだ。それも、あの世で出会ったあの男の赤ちゃんだ。
 菩薩様に抱っこされている彼とハイタッチを交わした。あれはサッカーでやる選手交代みたいな感じで、この後の僕の人生をよろしく!という意味であったのだと推察している。
 多分だけど、今のこの身体の赤ちゃんは本来なら死んでしまったのだと思う。魂が身体から離れて、賽の河原の役割を果たすあの世のどこかしらでゴブリンに苛まされ、それを救済してあげたのが俺の魂であったのだ。魂というより霊体といった方が近いのかも知れないが、俺自身その辺のところをあまり理解できていない。というより、まったく知らない。

 まだ生まれて来て間もなくて、ろくに思考も出来ず自分の周りの環境なども理解はできていないだろう。ただ、そんな中でも父親と母親、それに姉のようなメイドにとても大切にされていたのは、なんとなくだけど感じていて、彼らを遺してあの世へ行ってしまうことに申し訳なさと、亡くなった後の不安を強く感じていたのだとも思う。
 そして、そこへ俺の魂、霊体が現れた。偶然というよりあの菩薩様のお導きであったのだと思う。何故、彼と俺を邂逅させたのは、俺なんかの想像力ではとうてい理解なんて出来ないけど。
 俺に後のことを任せたのだ、託したのだ。あまりにも幼くして寿命を迎えてしまった彼に、命をあげたいみたいなことを思ってしまったけど、まさかこんな形で変わってあげてしまうことになるとは思ってもみなかった。

 平凡すぎた山田翔太の人生。面白みのある人生、反乱万丈のロマンにあふれた男の一生を送ってみたい、そう思っていたけど、この新しい身体、世界で願っていた人生を送れるということなのであろうか……。

 そうは思ってみても、赤ちゃんの俺はしゃべることもできなければ、自分の力で立ち上がることもできない。泣けてくる。そして、少しでも泣きたいと感じると、意思とは関係なく泣き喚いてしまう。
 32歳の思考を日本語でできるのであるが、体が赤ちゃんのせいか、どんなに自制心を働かせても、泣き喚くという赤ちゃんの本能的な衝動を抑えることはできないのだ。まあ、これが他の人との唯一のコミニュケーションなので、仕方ないといえば仕方ないが。
 あと、恥ずかしながら排泄の方はトイレではなくオムツで、母親やメイドのお姉さんの世話になっている。たまに父親もしてくれる。実に子煩悩で頭が下がる。大きなったら、何か恩返しをしてあげなければならないだろうな。

 ある程度の観察や推察はできる。まず、彼らの言語は日本語や英語ではない。日本語は当たり前として、大学時代に頑張って英検準1級を取得しているので、英語とも違うと速攻で分かったのだ。感じからしてフランス語やドイツ語、はたまた中国語や韓国語なんかとも違うのは明らかだと思う。
 やはり、地球上のどの言語とも違うと感じられるのだ。
 注意深く彼らの言語を聞いていると、特定の発音があることに気づく。そこから、お父さんやパパ、お母さんやママなどにあたる発音、すなわち言語を推察し、やがては確定させていく。
 こうやって、俺は気の遠くなるほど長く感じられる時間の流れの中で、固有名詞や一般名詞を中心に覚えていくのが、毎日の仕事となった。

 アクセル・アイアンバトラー。これがあの赤ちゃんの、いや、俺自身の地球とは異なる世界での俺の名前であり、苗字であった。思いっきり英語圏の名前をしているけど、彼らの言語はあくまで英語ではなく謎の言語なのだ。

 
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