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キの種とミドリコトリ

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「二人とも、どうしてここへ?」
 全てが片付いた後で、俺は両親に尋ねた。ほとんどの者が母さんの剣の前に惨たらしい姿になって死んでいたけど、一人だけ生捕りにされて縄に縛られて転がされていた。あと、父さんの投げ捨てパワーボムを食らった黒づくめも生きていて、彼も縄に縛られて転がされていた。
「どうしてって?そりゃあ、ここの倉庫を起点に怪しい連中、おそらくブラックモアの手下と思える者たちが、この街で何かコソコソと活動しているって情報をキャッチしたからだよ」
「ええ。ギーザーのいう通りよ。わたしたち実はあなたとライム目当てにこの街に来たんだけど、大会もベスト8あたりになって情報をキャッチしたのよ。おかげで、良いところで観戦を諦めなければならなくなったわ。あなたとライムが決勝で闘う姿、見たかったのに」
 そう言うと母さんは不機嫌そうに柳眉を逆立てた。
「なんだ、そうだったんだ。なら、最初から手紙かなんかで知らせてくれれば良かったのに」
 思ったことをここはまんま口にする。二人が来ていることを知っていれば、黒づくめの誘いに乗ることもなかったのに。

「あら。そんなことしたら二人とも変に意識しちゃうかもしれないでしょう?ライムの方はわたしの取り越し苦労かも知れないけど、アクセル、あなたはきっと意識しまくって闘いどころじゃなくなるかも知れないわ」
「うっ。そんなことはないと思うよ、多分だけど」
 こんな歯切れの悪い、優柔不断なことを言ってしまう自分が情けない。
「それにつけても、アクセル、お前がまさかあそこまで酒に弱かったとはな。実力が出せないほど酔うな!とかよく言うけどさ、お前の場合それじゃ、ほぼ一滴も酒が飲めなくなっちまうもんな」
「そうね。わたしもそれは気になったわ。わたしもあなたぐらいに若かったころ、ギーザーや他の大人たちと酒を飲んでも酔い潰れることはなかったわ」
「そうだな。若くて清楚なイメージのあったエリカだったけど、普通に酒は強かったよな。あ。ちなみに俺も若い頃は酒は強かったぞ」
「もう、ギーザーったら、若くて清楚なイメージのあった、じゃなくて、若くて清楚なイメージのあるエリカでしょう」
 母さんは顔で笑いながら、殺意全開な眼で父さんのことを睨みつけた。
「もちろん、ただ、さ、少し言い間違えただけだよ……」
 さしものドラゴンAもかなりビビりまくっている……。ある意味母さんこそ人類最強なのかも知れないよな。ははは。

「生け捕った二人が何かスペシャルな情報を握っているとは思えないし、彼らがブラックモアの手下であることを告白しても、小物すぎるからレブナントもシラを切り通して、無罪になってしまうんじゃないかな」
 ちょい言いにくいことだったけど思ったことを言ってしまった。まあ、俺もブラックモアのことは気になってはいるし、場合によっては彼らと本格的に戦わなければならないから。
「そんなことなら重々承知よ。なんせ、あいつらとの付き合いはあなたよりも長いぐらいなんだから」
「お前があわや窒息死させられそうになったあの色っぽいねーちゃん。彼女と戦っているとき密かにキの種を髪の毛に入れておいたんだ。それを大好物にしているミドリコトリを連れてきているんだよ。たとえ距離が離れていても鋭い嗅覚でその残り香を嗅ぎつけてくれるはずさ」
「そうね、彼女大物でかなり賢くて警戒心も強いだろうから、水浴びをして全身を丹念に洗ってしまう可能性も高いかと思うけど、今はコトリちゃんに頼るしかなさそうね」
 俺はルーシーの胸の谷間に文字通り命の瀬戸際まで追い詰められていたのでそんな想像はしなかったけど、父さんはやはり想像してしまったみたいだ。彼女が全裸になって水浴びしているシーンを。明らかに顔がにやけていたからね。
「いたっ!」
 父さんは母さんに頬をつねられた。思いっきし。剣の達人なのでかなり痛そう……。

「そのキとかっていう木の種となんとかっていうコトリだけど、たくさんいるんでしょう?だったら、彼女の髪に仕込んだ以外の木の種に反応してしまう可能性も高いんじゃない?逆に他のコトリが彼女の髪の毛の中から実を探り当てる可能性だってあるし」
 俺は至極当然な疑問を口にした。木の種にしてもコトリにしてもたくさんいたのでは意味がない。
「おお。それなら大丈夫だぞ。キの種もコトリもここら辺には生息していないからな」
「ちょっと、わたしたちを誰だと思っているの?そんな初歩的なミスを犯すわけないでしょう!」
 父さんは呆れ顔、母さんに至っては少し怒っているけど、ここは言わないとダメだろう。
「ええ!ここら辺に生息していない動植物を持ち込んだらダメだよ!いくらドラゴンAと小指のエリカとはいえ!たった一つの小さな木の種から広範囲に動植物の生態系が大きく変わってしまう可能性もあるし、小さな鳥1羽であっても、深刻な影響を与えてしまう可能性だってゼロじゃないんだからね。っていうか、そもそも国境を越える時、荷物を調べられるよね?」
 俺の言葉に両親とも唖然としていた。俺、何かまずいことを言ってしまったのかな。

「住んでいる世界が大きく変わってしまうってこと?木の種一つで?そんな馬鹿なこと起こるわけないでしょう!アクセル、あなたの言うような景色が一変してしまうような大規模なことをするには、ブラックモアのような手の込んだ作業、いえ、作戦が必要になるんじゃないの?」
「エリカの言うとおりさ。アクセル、お前たまにわけの分からないことを口にするよな。まるでこの世界の人間の言葉ではなく、俺やエリカ、もちろんスクエアジャングルに生きる全ての人間が知らないような、全く別の世界から来た人間のような……」
 二人とも奇異な物を見るような眼で俺のことを見つめている。そして、すごく悲しげだ。二人には悲しい思いはさせたくない、猜疑の目を向けられてしまうのも、俺自身すごく悲しく虚しく辛いし。
「ゴメン。父さん、母さん。俺、やっぱり酒のせいで変なことを言ってしまったみたいなんだ。その、さ、今言ったことは気にしないで欲しいんだ」
「なんだ、そうだったんだ。お前、酒に弱いにもほどがあるぞ!」
「ほんと、幾つになっても世話の焼ける子なんだから!」
 両親とも笑ってはくれた。だけど、その眼はまったく疑いの晴れていない目線であることに、俺は気づいていたんだ……。
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