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File No. 34 雁首並べて
しおりを挟む1時間半前、通報を受けた風見、田代の両刑事は大学の資料室にいた。そこには先乗りしてる鑑識の面々が慎重に捜査を進めている。そのうちに検死医もやってくるだろう。
「これ、教授殺害事件と関係あるんかな」
風見刑事は誰にともなく言う。田代刑事や他の刑事たちの耳にも届いていたが、皆、安易に答えることはなかった。
「風見さん、これなんでしょうか」
死体の様子を屈んでみていた鑑識員が、ジャケットの内ポケットのふくらみを指して言う。
「なんだ。出してみてくれ」
「了解。ああ、変わった……キーホルダーみたいですね」
白い手袋をした鑑識員は、それを指でつまんで二人の刑事に見せた。
「それ、ピラミッドか? あまり高価そうではないが……」
「風見さん! 私、これ見たことあります! そうだ。絶対」
「田代、落ち着け。どっかの土産だろうけど……」
「違うんです。私、これ可愛いなと思ってて……」
田代は自分のモバイルを取りだし、懸命にフォルダを探る。そのフォルダは自分のではなく、捜査資料の共有フォルダだ。
「これです。同じものを美山藍が持ってました」
それは、塩谷教授の個人フォルダに入っていた画像の一枚だった。厳重なロックを施した彼の個人フォルダには、藍を初め、お気に入り学生の写真が大量に保存されていたのだ。
「というわけでね。で? 君らの話を聞こうか」
今朝、資料室であっただろう顛末を聞き、僕が暗くて重ーい気分になったのは言うまでもない。
あの教授に写真撮られてたなんて。しかもそれを警察に押収され、眺められていたとは。まさか変なのはなかっただろうな。僕はキャンパスでの振舞いを思い起こして身震いした。
「聞いてますか? 美山さん。ショックなのはお察ししますけど」
僕らはとりあえず落ち着こうと、階下の空き教室に場所を移し、向かい合って座った。田代さんに言われるまでもない。落ち込んでる場合じゃないのは重々承知だよ。
「は……い。わかってます。これです」
僕は自分のスマホを取り出し、問題のメールを見せた。もちろん最初のメールだけ。
「なんで我々に知らせないんだ」
半ばため息、半ば腹立ちまぎれに風見刑事がそう吐いた。
「それはその……この人、壮大な勘違いしてるし。別に警察に言われても全然構わなかったので……」
「そんなことと関係なく、危ないめにあってたかもしれないだろうがっ」
「俺が……すみません。俺が出しゃばったんです。藍のせいじゃない」
激昂する風見刑事に、竜崎が慌てたように口を挟んだ。
「はあ? 君、ナイトの真似だが探偵の真似だが知らんが、いい加減にしたまえ。能代が脅迫犯だとしても、君らが黙っていたせいで彼が殺されたのかもしれないんだぞ? 頭のいい君なら気付いているだろ?」
あ……そう……か。僕は自分のことばかり考えて、そんな当たり前なことに気付かなかった。竜崎がらしくなく慌てているのもようやく理解できた。僕らは雁首並べ、うなだれるしかなかった。
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