46 / 113
File No. 41 竜崎の推理
しおりを挟む分岐点に立っていた僕らは、『じゃあまた』と言って自分のアパートに向かって歩いた。僕の背中は後ろを振り向きたがっていたけど我慢させた。あ、分岐点は事件のじゃなくて僕と竜崎の帰り道の分岐点ね。
別れ際の竜崎は口元をややへの字にして、ちょっとだけ不満そうだった。きっと僕があまりに鈍いんでガッカリしてるんだろう。
そう言われても、僕はミステリーはあんまり読まないし、読んでても最後の種明かしまで全くわからない、作者にとっては有難い読者なんだよ。
――――けど、竜崎が言ったことは少しずつわかってきた。
つまり、まず犯人が塩谷教授を刺殺して逃走。そこへ誰かが教授の部屋にやってきて死体を発見! この人が竜崎の言う第一発見者だ。
で、どうしてだか、その死体のそばに僕のキーホルダーを落とす(この理由はわからないらしい。これがもし事実なら、僕はこいつにその理由を問い質したい)。その人は僕に『6時を忘れるな』とメールを送ってその場を去る。
で、そこに現れたのが能代さんだ。能代さん、人払いされてたのにどうして教授の部屋にやって来たんだろう?
まあいいや。そこで教授の死体を発見するが、その際、僕のキーホルダーを拾う。彼もどういうわけか警察に通報しなかった。
竜崎が言いたいことは整理できたけど、どう考えてもおかしなことがいっぱいだ。とてもこれが本当に起こったとは思えないよ。
竜崎は最初の犯人は僕が呼び出されていることを知らなかったはずだと言う。知ってれば、もっとぎりぎりまで殺すのを待っただろうってことだよね。
で、一方、真の第一発見者は犯人が教授を殺した正確な時間は知らなかった。だから僕が一刻も早く教授の部屋に来るようあんな催促をした? ということは、その人物は僕のバイトが6時までだと知らなかったんだろうな(教授以外は知らないだろうけど)。
――――そう言えば、あの事件の日の録音。分析できたのかな。それで竜崎はこんな推理を組み立てたのかも。
僕に教えないのはフェアじゃないぞ。ガッカリする前にちゃんと情報共有してくれないと。今度会った時に教えてもらわなきゃ。
竜崎は鈍い僕に愛想が尽きたのか、講義が一緒になる金曜日まで会うことがなかった。カフェにわざわざ立ち寄ることももちろんなく。
「君、美山君だったね」
ようやく念願の金曜日がやってきて、2時限めの講義にいざ行かんとした僕を呼び止める声。
――――誰だよ。講義が始まる前の数分こそが大切な時間なのに!
と、僕が睨みつけるような勢いで振り向いた先には、思いも寄らぬ人物がいた。仕立てのいいオーダースーツに身を包み、ダンヒルかなんかのネクタイを締めた入間教授だ。
「あ、はい。教授、なにか?」
今まさに、教授の講義が終わったところだった。小学生がドッチボールに向かうみたいに飛び出した僕を、慌てて呼び止めたのだろう。ちょっと息が切れてる。
「美山君、能代君の事件のことで少し気になってることがあるんだが。君、警察からなにか聞いてないかね」
警察から何か聞いてないかだと? そりゃ色々聞いてはいるけど、教授に聞かせていいのかどうかわかんないし、大体、一般人の僕らに刑事たちも大事なことは話さないだろう。
一体なにを聞きたいのか、しかも入間教授が何故? 人より鈍いらしい僕は、わかりやすい怪訝な表情で教授を見た。
6
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで
中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。
かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。
監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。
だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。
「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」
「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」
生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし…
しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…?
冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。
そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。
──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。
堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる