時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第38話 キスしていいか。

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 客間のような洒落た部屋はないので、冬真は僕の部屋で寝ることになる。床に布団を敷いてると、風呂上がりの冬真が入って来た。

「あ、すまない。自分でやるものを」
「いいよ。冬真はお客様だよ」

 僕の部屋は洋間のカーペット敷きだ。量販店で買ったであろう薄いマットに布団を敷いてるわけだけど、背中痛くないよな。

 ――――でも、まさか僕のベッドで一緒に寝るわけにはいかないよな。僕は……構わないけど。

 冬真は普段でも着ているパジャマ代わりの緩めTシャツと薄いスウェットパンツ。Tシャツから覗く腕の筋肉が綺麗だ。

「なんだか、照れるな」
「え?」

 冬真はベッドの足元に置いてある窓際の勉強机の椅子に腰をかけた。

「ケイの部屋で枕を並べて……実際は並んでないけど、寝るのは」
「そうだね。確かに変な感じ」

 これが旅館なんかなら、本当に枕を並べられるのに。色々残念な気分になる。

「おいで」

 え? 僕はびっくりして顔を上げる。椅子に座ったまま、冬真が両手を広げている。磁石が引き付けられるように僕は向かい、導かれるまま冬真の膝の上に跨ぐようにして乗った。

「そんな残念そうな顔をするな。私はケイの実家に来れて嬉しいし、ケイの役に立てるならそれ以上のことはないと思ってる」

 身長差から、僕のほとんど目の前に冬真の切れ長の双眸があった。生乾きなのか、長い髪は束ねて上でまとめ、大きめのヘアクリップで留めている。
 男らしい冬真のしっかりした輪郭が露わに出て、これも反則だななんて思う。

「うん、ありがとう……僕のために」
「それは違う。自分のためだよ。自分が満足したいんだ。ケイの役に立ってるってことで。だから何も気にしなくていい」

 そんなふうに言ってくれる冬真が心から好きだ。僕は思わず冬真の首に抱き着く。シャンプーのいい匂いがした。
 隣は麻衣の部屋だから、滅多なことはできないけど、それでも離れたくない。

「キスしていいか?」

 耳元で冬真が囁く。いいかって、いいに決まってる。返事の代わりに、僕は自分から動く。顔をずらして冬真の唇に唇を重ねた。
 冬真の大きな手が僕の髪をまさぐるように僕を自分に押し付け、柔らかな舌が僕のそれを探してる。

 ――――冬真……。

 息をするのも惜しんで、僕らは舌を絡ませる。脳天が痺れるような感覚。もう止まらないっ。

「お兄ちゃーん」

 ノックとともに麻衣の声が。僕らは弾けるように離れ、僕は布団の上に転がった。

「母さんが、さっさと風呂に入れって」

 ドアは閉じられたままだけど、心臓が胸突き破る勢いで走ってる。

「わ、わかった。すぐ行くよ」
「はーい、おやすみなさい」

 トタトタと妹の足音、それから隣の部屋のドアを閉じる音がした。僕らは顔を見合わせる。もう笑うしかない。

「参ったなあ」

 なんて冬真が恥ずかしそうに苦笑する。そんな姿がまた愛おしくて、胸がきゅんと鳴った。


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