時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第39話 じいちゃんの家

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 翌朝、母さんにお弁当を作ってもらってじいちゃんちに向かった。水も電気も通っているけど、食べ物は置いてない。
 コンビニも近くにないので持参しなくてはならないのだ。行きがけにドリンクやお菓子なんかも買って、ちょっとだけ遠足気分。

 夏休み中は暇な妹が付いてくるとかと思ったが、意外にも嫌がってこなかった。考えてみれば今日は叔父たちが来る日だ。会うのが嫌なんだろうな。意外でもなんでもなかった。

「これは立派なお屋敷だな」

 農機具なんか置いてある納屋に車を入れる。田畑はじいちゃんが生きてるうちに他人に譲ったのでもう錆だらけで使えないものばかりだ。ここには軽トラが置いてあったのだけど、免許返還とともにそれも処分していた。

「古くて大きいだけの家だよ」

 僕は冬真の先を行く。まだ叔父たちは来ていないようだった。

「蔵はあれ。あそこにもまだ物は残ってるけど、目ぼしいものは母屋に移してるんだ」

 僕がまだ実家にいたころ、まずは母屋にある骨董を一つの部屋に移動させた。1度に見比べるためだ。
 それから蔵に入って、ほとんどのものを外に出し、ガラクタだろうものは蔵に入れ直し、他は母屋に移動させる。それから種類によって並べなおした。

 母屋には10畳の部屋が3部屋続いている大広間がある。そこに壺やら花瓶やらの陶器類、日本画や掛け軸等の絵の類。後はその他といった具合。
 まあ並べてみると壮観だよ。そこから最も価値あるものを選ぶなんてとても無理だ。

「ほお。これはまた絶景だな。しかし、鍵は掛けてあるとはいえ、不用心じゃないのか?」

 僕らは窓とシャッターを開け、空気と光を入れる。確かに隣家とは離れてるし、シャッターなんか工具で焼けば侵入可能だよな。

「大丈夫だよ。まず、ここにそんな価値のある骨董品があるとは誰も思ってないし、防犯カメラも設置してるしね」

 そのカメラの映像は、弁護士の岩井氏や各兄弟のスマホで見られるようになっている。お互いも監視してるってことだ。親戚中がギスギスしても仕方ないよな。

 真夏とはいえ、屋敷の中は涼しい。部屋の前には縁側があり、全開した窓からは涼しい風が入ってくる。この縁側で座って、スイカを食べたのが昨日のことのようだ。


「刀剣類はこれだけか」

 三つの部屋をさっと見回っていた冬真は、その他の部屋にあった甲冑類と刀剣のところで立ち止まり、膝をついた。

「ああ、うん。まずは見てみて」

 さすがに刀剣に関しては、鑑定士並みの力はあるんじゃないだろうか。冬真は刀を一本ずつ手に取ってみる。

「あ、これ全部、蔵に戻してもいいヤツだな」

 と、抜刀術のごとくバッサリ。

「え……そうなん」
「ああ。全部刀身が真鍮だよ」

 さっと目を通しただけでわかってしまった。じいちゃん、知ってて買ったんだろうか。ばあちゃんがゴミが増えて困るっていってたから、いくらかは装飾品と考えて買ってたのかも。

 そこにエンジンの音が聞こえてきた。排気量の大きい、今頃は流行らない大型車。ドアを閉める音とともに、下品な声がした。

「おおい、佳衣、来とるんかっ?」

 和重叔父の登場だった。


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