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第40話 和重叔父さん
しおりを挟む和重叔父さんは、母さんの弟で5人兄弟の末っ子だ。ばあちゃん曰く、歳が離れた子供だったので、みんなで甘やかしてしまったと。で、結果がこれ。
「あんた、鑑定士なんだって? ルール違反じゃないのかよ」
40歳前でバツイチ独身、起業しては自分で潰すことを繰り返してる。じいちゃんが田畑を手放したのもこの人のせい。
だから、遺産を5人均等に分けることに不満を持つ人も当然いる。親父もその一人。
「鑑定士なんかじゃないよ。ただの愛好者。第一まだ学生なんだから」
「そうなんか?」
ベリーショートでガタイのよい和重叔父は一応男前でもある。だから若く見えるし女性にモテるらしい。
それもまた、問題を起こす原因なんだけど。叔父は玄関に回らず、縁側から直接入って来た。
「わかるのは刀剣や甲冑くらいです。武道を嗜むもので。先ほど拝見しましたが、良いものはないようでした」
「へえ、そう」
冬真が丁寧に接しているのに、なんなんだ、この失礼な態度は。僕はムッとして叔父の前に立つ。
「叔父さんだってこの間、鑑定士連れてきたそうじゃない。親父がこぼしてたよ」
「え……疑り深いなあ、義兄さんは。あれは友達だよ、骨董好きの」
嘘ばっかり。まあいいや、話してると腹が立ってくる。僕の部屋に盗聴器を仕掛けたり、へんな連中差し向けたの、叔父さんかもしれないって疑ってるんだ。これ以上関わって、冬真のこと調べられたくない。
僕たちはそれぞれに別れて、物色を始めた。と言っても、何をどう見ていいのかわからないんだから時間だけが過ぎていく。
頼りはモバイルで見るネット情報だけど、一つ一つ調べてると時間がかかって仕方ない。いくらも進まないうちに村の防災無線でお昼のチャイムがなった。腹が空いてはなんとやら、僕らは弁当を食べることにした。
和重叔父は、1番近くにある喫茶店でランチを食べると出て行ったので僕は心底安堵した。
「嫌な思いさせてごめん」
縁側に腰かけおにぎりをぱくつきながら、僕は冬真に詫びる。
「なにが? 全然気にしてない。それよりケイのお母さんは料理上手だな。何を食べても美味しい。こういう縁側で食べるから尚更だ」
冬真の声が弾んでる。なんだか楽しそうだ。確かにこうしてると、本当に田舎の古民家にピクニックに来たみたい。背後に積まれた骨董がなければもっと楽しいのに。
僕は美味しそうにおにぎりを頬張る冬真の右側に、こつんと背中を持たれかけさせた。
「ん? どうした?」
「なんでも。ちょっとくっつきたくなった」
こんなところ、近所のおばあちゃんたちに見られたら、あっという間に部落に知れ渡りそうだ。けど、この縁側は玄関前の道路からは死角になる。これくらいは許されるよね。
僕は冬真の肩に頭を乗せて空を見る。晴れ上がった夏空に、1羽の鳥が円を描いて舞っていた。大きな黒い鳥。小さい頃は怯えた記憶があるけれど、今日はちっとも怖くなかった。
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