時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第41話 新たな訪問者

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 その楽しい時間は長くは続かなかった。コンビニの缶コーヒーを飲んでたところで、新たな訪問者。良枝叔母さんとその旦那さんの車が入って来た。

 良枝叔母さんは母さんのすぐ下の妹。実業家の旦那さんと結婚して、会社員の親父との差を見せつけてたんだけど。その事業が上手くいかなくなってからは、立場が逆転してる。

「佳衣君、お久しぶり。元気そうやねえ」

 明るい髪色に大きな花柄のシャツ。いつもながら原色が好きな人だな。僕は冬真から離れ、二人を出迎えた。
 旦那さんの剛志さんは、真面目そうな眼鏡の男性だけど、やっぱり実業家らしく口が達者だ。人当たりも良いから本音がどこにあるかわかりづらいんだよね。僕はなんとなく、この人が胡散臭くて好きになれない。

「こんにちは、佳衣君。大学生活はどうだい?」

 なんて親し気にしてくるのも背筋がぞわっとする。

「はい。お陰様で楽しくやってます」

 でも、まさかそんな態度を取るわけにはいかない。剛志さんは縁側にいる冬真に気が付いて会釈をする。

「彼が噂の骨董好き? 体育会系に見えるけど」

 少し冷やかすように言う。

「大学の先輩です。色々造詣の深い方なんで」

 言い方がなんかやだ。僕はムッとした表情で応じた。

「そう邪見にするなよ。初めまして、志賀です。東京からわざわざご苦労様です」

 僕の肩をぽんぽんと叩き、勝手に冬真に挨拶してる。別に構わないけど……。

「いえ、好きで来てるので大丈夫です」

 冬真は弁当箱なんかを片づけ、既に午後からの作業を始めていた。僕も慌てて部屋に戻る。

「ねえ、佳衣君、お父さん、佳衣君になにかヒントみたいなの言ってなかった? ほら、これはすごく大事にしてるんだ。とかなんとか」

 僕のそばに寄って来た良枝叔母さんが猫なで声を出して問う。正直これは、剛志さんよりいやだ。

「ないよ。前にもそう言ったよね。言ってたとしても、僕は全く覚えてない。ほら、ここの壺とかしょっちゅう磨いてたけど、全部安物だった」

 最初に親たちに同じ質問をされたとき、僕は強いて言うなら、この壺たちをよく磨いていたと言ったんだ。けど、それらは土産物でも買えるような代物だった。

「そうなの? 姉さんには教えてるんじゃないの?」
「なら、もうゲームオーバーでしょうに」

 僕が言うと、首を竦めてまた別の骨董を見に行ってしまった。そのうち、ランチから帰って来た和重叔父さんも合流し、三人でああでもない、こうでもないと言い合いしてる。
 その間、手も目も働いてない。これじゃあ、見つかるものも見つからないのでは。

 ――――もう何度も探して見つからないんだ。こうして足を運ぶのは、探すというより、誰かが見つけるのを妨害するか横取りするしか考えてないのかも。

 僕は身も蓋もないことを考えてしまう。
 冬真は黙々と一つずつの品を丁寧に見ている。今は茶碗や茶器の部だ。箱を眺め、それから中身を出してまた眺め。ひょっとしてマジでこういうの好きなのかな。

 いつの間にかあたりが暗くなっている。日暮れまではまだ間があるけど、天気予報では夜から雨と言ってたな。風も出てきて不穏な感じ。
 6時のチャイムが流れたところで、僕らは何の収穫もなくじいちゃんの家を後にした。


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