時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第69話 ギャップ萌え

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 相変わらずうるさいエアコンの音。けど、朝になったからか随分涼しくなっている。僕らは皺になったシーツを適当に伸ばし、身支度をしてから部屋を出た。

 新幹線はまだ少し遅れはでていたが、ほぼ通常通りになっていた。運よく指定席を取れたので、僕らは帰京の途についた。

「午後には着きそうだね。良かった」

 二人席で少しだけ距離を詰める。今日は珍しく僕が通路側だ。冬真は窓のさんに肘を置き、後ろへ後ろへと過ぎ去る景色を見ていた。ものすごく絵になってカッコいい。

 冬真は返事の代わりか、僕の手に触れ小指を繋いだ。ひゃあ、なんかこんな些細なことでも心臓が跳ねてしまう。
 一人俯いて、熱くなる体を沈めようと頑張るけど、もしかしたら茹タコみたいになってるかも。

 普段は硬派な冬真だから、時々見せるナンパな仕草にギャップ萌えしてしまう。これは計算なんだろうかと思ってみたり……。

「おっと、電話だ」

 絡めた小指がさっと離れた。熱を持っていた左手に小さな風が舞う。スマホを片手にデッキに急ぐ冬真の後姿を僕は目で追った。


「研究室からの電話だった」

 席に戻ってくるなり、冬真は口を開いた。彼は僕を窓際の席に座らせ、自分は通路側に。その腰を沈めると同時にふうと息を吐く。

「え、結果出たのか?」

 例の茶碗を、僕らは大学の考古学研究室に預けていた。そこには僕らが知らない高額な機械があって、土の種類、造られた年代なんかを調べられる。

「ああ。それが……連中、かなり興奮してた」
「マジ……やっぱりあの茶碗……」

 めっちゃ高価なものなのか? 信永にまつわる茶碗と言えば、あの有名な『曜変天目』とかいうのがあったけど、それに匹敵するとか!? 僕は息を呑みこんだ。

「とにかく、東京についたら大学に行こう。時間は大丈夫か? 私は代行を頼んだ」

 既にデッキでそこまで済ましてきたのか。これはよっぽどのことなんだよな。今日のバイトは夜からだったが、僕は上白石に頼んで代わってもらった。

「それで、なにがわかったんだ?」

 冬真は顎に手をやり、またなにか考えている。

「いや、詳しいことは聞けなかった。というか、電話では説明できないと言われてね。けど、驚くような発見があったそうだ。それと……」

 今度は切れ長できりりとした双眸を僕に向け続けた。

「土の鑑定から、やはり四百年以上昔に造られたもののようだと言ってたよ」

 僕は冬真の長いまつ毛が、少しだけ震えているのを見つめていた。

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