時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第71話 冬真の友人

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 気心の知れた仲。持田さんと冬真の関係はそんなふうに見えた。付き合いだして3ヶ月、僕は冬真の友人には一人も会ってなかった。
 僕自身、友人と呼べるのは上白石くらいだから言えないけど。ただ、上白石は元々武術オタクで冬真のファンだったから、図々しく僕をダシにして会いに来たことはあったんだ。

 だからなのか、見たことないような冬真の素の態度になんだか興味をそそられる。僕はそれを目の端で捉えながら、持田さんに尋ねた。

「内部って、なにかあったんですか? 茶碗としては縁は分厚いほうだけど……」

 薄っぺらいものしか入らない。

「これ、見てごらん。水無瀬も」

 持田さんはすぐ横にあった大きめのモニターになにかレントゲン写真のようなものを映した。どうやら茶碗のようだ。

「これは……なんだ?」

 うっすらと薄い紙のようなものが、茶碗の内側に張り付いている。それはちょうどもう一つの薄いお茶碗が内部に入っているように見えるのだ。

「この茶碗は二重になってるんだよ。陶土ではない。全く別の素材だけどね」
「別の素材って、なにかわかってるのか?」

 三人でモニターにくっつくくらい顔を寄せ、映像を見る。だが、僕の目ではなにもわからない。わかるはずがなかった。

「体積と重さから考えて、僕らは仮説をいくつか立てた。それで実験をした結果……」

 持田さんは少し間を開ける。これから重大発表を行うイメージを作ってるかのようだ。

「おそらく、金」
「金っ!?」

 思わず声が裏返ってしまった。隣で冬真は絶句している。

「とはいえ、分量はそれほど多くないから、金だけで何百万もするとは思えない。けど、どうだろう。こういうの見たことないし、珍しいものなんじゃないかな」

 桃山時代の陶芸には、内側に金を貼った茶碗や、金箔を纏わせた茶道具は多くある。秀好の黄金好きは『金の茶室』なんかで証明されてる。
 けど、金は目にさせて自慢するものだから、こんなふうに隠しているのは不思議なんだと持田さんは言った。

「なるほどな……」

 けど、冬真は妙に納得したように頷いてる。さっきまで呆気に取られた表情だったのに、今はもう、形のよい顎に大きな手をあてがい、うんうんと頷いている。

「なんだよ水無瀬。訳知り顔だな」
「え? いや、そうでもない。価値があるというのは、そういうことなのかなと思っただけだ」

 ――――価値がある。確か、真豪は瀬那にこの茶碗を渡すとき、『そばに置いていただければ何かのお役に立つ』、そう言ったんだ。金に困ったときに役に立つってことだったのか?



 この研究室で出来るのはここまでだと持田さんは言った。茶碗はこのまま持ち帰って欲しいと。

「大学も不用心だからね。この茶碗の謎を知ってるのも僕意外にいるからな。責任持てん」

 持田さんの言うのもごもっともだ。けど、既に空き巣に入られ、今でもドライバー1本で鍵を壊されてしまうようなアパートに持って帰るのは無謀に感じた。

「とにかく、弁護士の岩井さんに電話するよ。鑑定してもらわないと」

 僕の家族にとっては、最後の鑑定となる。親父にも母さんにも断ってないけど、待ったなしだ。
 けど、もしこれが件の『宝物』であっても、誰かに譲りたくない。いつの間にか僕の心にそんな感情が芽生えていた。

 お金なんかじゃないんだ。誰にも売らないし、他の骨董品もいらない。
 この『琵琶』に託した真豪の想い。受け取った瀬那の気持ち。それがわかるのは僕だけなんだと、そう思うから。


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