【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺

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第5章 再会

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「あの、連絡先。交換してくれないかな」

 一方的な感動的再会は終了なのか。彼が席を立つ前に、どうしてもこれだけは成し遂げたい。気持ち悪いと思われようと、このまま切れるのは耐えられなかった。

「もちろんです。後日、『時游館』にも伺わせていただきます」
「あ、本当? ああ、うん。是非来てよ。みんな喜ぶよ」

 事態が不明のままなのに、航留の心は一挙に上がる。思わず喜びを表したことに、成行はぽかんとしながらも嬉しそうに笑った。

「航留さん。あなたに会えて、僕は幸せだったみたいです。助けていただき本当にありがとうございました」

 再び頭を下げる。波のように溢れてくる感情をどうにか抑え、航留は黙って頷いた。


 連絡先を交換し、二人はその場で別れた。航留は何度も後ろを振り返ったが、成行がこちらを見ることはなかった。研究棟の階段を上がり、建屋の中に吸い込まれていく。
 その後ろ姿を見送ってから、ようやく航留は駐車場へと向かった。とにかく、再会できた。再び自分のことを好きになってくれるかはわからないけれど、嫌な印象は持っていないように思う。

 ――――それよりも、明日実況見分って言ってたな。大丈夫かな。

 連絡先を交換出来たことで有頂天になってしまった。大事なことなのに、どうしてスルーしたのか。それに連続殺人事件のことも気になる。口ぶりから容疑者というわけではなさそうだけど……。
 色々思いめぐらすと、刑事の言うことももっとものように思えてきた。殺人現場を見た彼が、追われて逃げたところを車にはねられた。それを見た殺人犯は慌てて逃げた。辻褄はあってる。

 ――――確か、事件はつい最近、1年ぶりに起こったとニュースで見たな。彼がこの町に戻ってきてすぐ。関係ないんだろうか。

 犯人がもし顔を見られたのなら、突然姿を消した成行を探したことだろう。いつ警察に走るかわからないんだから。しかし、一向にそんな様子はなく、犯人は安心したのか不安を増大させたのか。

 ――――一人でアンダーパスの見分なんかに行かせて大丈夫だろうか。

 自分の車の座席に座るとすぐ、航留は慣れた手つきでスマホを操作した。

「あ、越崎? 今ちょっといいかな」

 エンジンもかけず、航留はそのまま話を続ける。胸に落ちた不安の雫は瞬く間に広がり、暗雲のように重く航留の中で横たわった。




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