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第7章 アップデート
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しおりを挟む『おまえ、もうなにもかも思いだしたんだろ?』
渉がそう断言した通り、成行はアンダーパスに飲み込まれる恐怖を引き金に記憶を呼び戻していた。
「そこに誰かいたんだっ!」
見分の真っ只中、アンダーパスの手前だ。悲鳴を上げて崩れ落ちた成行を、膝が道路に着くよりも早く航留が支え持った。ゆっくりと片膝をつかせる。
「大丈夫か?」
『大丈夫? 君』
『僕、自分が誰かわからないんです』
――――そうだ。あの日……朝もやのような頭の中。
「なにか思い出しましたかっ!」
「ちょっと慌てないでください!」
詰め寄る刑事たちに航留と越崎がキッと睨む。監察医も二人が前掛かりになるのを無言でとどめた。成行は息を整えるように一つ二つと深呼吸をする。
『もう少し、ここに居てくれませんか』
『ああ、構わないけど』
――――夢を見たんだ。大きな真っ暗な穴。けど、あなたといたら心が落ち着いた。
道路に立ち膝をついたまま、成行は目を閉じ、そっと胸に手を当てる。
『マスターは僕のこと、どう思ってますか?』
『零……俺も……零が好きだ』
――――零……胸に暖かいものが満ちてくる。その名を聞くたびに。
『心配するな。俺はいつも、おまえと一緒にいるから』
――――ずっとあの場所に居たかったんだ。僕は……。
「航留……」
「え、どうした?」
青白い顔のまま、成行が航留を見上げる。くりっとしたその双眸には涙がうるうると今にも溢れそうだ。そして小さな子供が抱っこをせがむように両手を伸ばした。
「会いたかった……ずっと。勝手にいなくなってごめんなさい」
「成行君」
リボンが解けていく。心の中にしまわれた箱が開く。
「零って、呼んで」
航留は息を飲みこんだ。周りの空気がざわりとし、明らかなに何かが変化したのに気が付いた。思わず身を乗り出す刑事たちを越崎が制す。
航留は目の前で起こった事実を理解した。この眼前にある二つの瞳は、つい二ヶ月前まで毎日見ていたのだから。
「零、思い出したんだな」
二人は周りに人がいるのも忘れ、しっかりと抱き合った。
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